143 / 158
第八章
今の俺が出来る事
しおりを挟む
紫藤先生は運転中だからもちろん前を向いたままだけど、俺はそんな綺麗な先生の横顔を見るのが大好きなんだ。
「しばらくはこうやって外では会えないが、話がしたかったら電話でもなんでも掛けてこい。俺の方も出来るだけ時間を見つけて掛けるようにするから」
「うん、そうする。でも先生って、お家でも結構忙しいんでしょ?」
「……まあな。やっぱり授業の準備とかはなるべくしたいし、だけど忙しいときはちゃんと言うから、気にしないで掛けてこい」
「うん、分かった。ねえ、先生」
「うん?」
「さっきの和田って人、先生の自宅とか知ってるの?」
「いや、そこまでは知らないよ。だけど連絡先は教える羽目になった。教えないと学校まで来るだなんていうからさ。放っておくと、それくらいしかねないと思ったから、仕方なく……な」
「そうか……。先生、負けないでよ。俺は確かに頼りないけど、力になりたいって思ってるし。それに渚さんもいてくれてるんだから」
「そうだな……、大丈夫だから。こう見えて俺が結構したたかなのは、南も知ってるだろ?」
「……学校での先生が演技だって事は知ってる」
真顔でそう言うと先生は笑った。
家に着いて、お休みの挨拶をした後、先生はそのまま車を走らせて帰って行った。
風呂を済ませて部屋に戻って改めてさっきの話を思い起こしていたら、無性に腹が立って来た。
だってそうだろう?
どう考えたって理不尽な話だ。
イライラしながらベッドにボフンとダイブする。
『南くんも少しの辛抱だから、焦らないでな』
不意に思い出した渚さんの穏やかな声。
そうだよな。俺が怒ったり焦ったりしたところで解決するわけじゃないし、渚さんの知人が調べてくれてるって言っていたから、きっと何か良い案が浮かぶに違いないよな。
――とにかく!
和田って人の意図は分からないけど、俺は先生と2人で絶対幸せになるし、それをあの人なんかに邪魔されてちゃだめだ。
拳を握り、よし!と気合を入れた後、大学のHPを調べてみた。
気が早いかもしれないけど、やる気を出すためにもイメージ作りは大切だ。
管理栄養士の受験資格が得られる栄養学科がある、家から通えそうなところをまず一番最初に探してみた。もちろん必要とあれば県外に出て一人暮らしという手もあるんだろうけど、地元には先生も居るし、離れたくないからやっぱり近場が一番だ。
「あ、県立に栄養学科がある。……私立もあるけど、学費はやっぱり県立の方が安いな。あ、しかも理科の選択科目に物理が入ってる!」
これは……、使えるかもしれない。
明日から受験対策として先生を捕まえて物理の質問をしに行こう。……カモフラージュも必要だろうから、時々数学の先生や小百合先生にも質問するか。
俺は俺の出来ることをする。それ以外にどうすることも出来ないって分かっているから。
「しばらくはこうやって外では会えないが、話がしたかったら電話でもなんでも掛けてこい。俺の方も出来るだけ時間を見つけて掛けるようにするから」
「うん、そうする。でも先生って、お家でも結構忙しいんでしょ?」
「……まあな。やっぱり授業の準備とかはなるべくしたいし、だけど忙しいときはちゃんと言うから、気にしないで掛けてこい」
「うん、分かった。ねえ、先生」
「うん?」
「さっきの和田って人、先生の自宅とか知ってるの?」
「いや、そこまでは知らないよ。だけど連絡先は教える羽目になった。教えないと学校まで来るだなんていうからさ。放っておくと、それくらいしかねないと思ったから、仕方なく……な」
「そうか……。先生、負けないでよ。俺は確かに頼りないけど、力になりたいって思ってるし。それに渚さんもいてくれてるんだから」
「そうだな……、大丈夫だから。こう見えて俺が結構したたかなのは、南も知ってるだろ?」
「……学校での先生が演技だって事は知ってる」
真顔でそう言うと先生は笑った。
家に着いて、お休みの挨拶をした後、先生はそのまま車を走らせて帰って行った。
風呂を済ませて部屋に戻って改めてさっきの話を思い起こしていたら、無性に腹が立って来た。
だってそうだろう?
どう考えたって理不尽な話だ。
イライラしながらベッドにボフンとダイブする。
『南くんも少しの辛抱だから、焦らないでな』
不意に思い出した渚さんの穏やかな声。
そうだよな。俺が怒ったり焦ったりしたところで解決するわけじゃないし、渚さんの知人が調べてくれてるって言っていたから、きっと何か良い案が浮かぶに違いないよな。
――とにかく!
和田って人の意図は分からないけど、俺は先生と2人で絶対幸せになるし、それをあの人なんかに邪魔されてちゃだめだ。
拳を握り、よし!と気合を入れた後、大学のHPを調べてみた。
気が早いかもしれないけど、やる気を出すためにもイメージ作りは大切だ。
管理栄養士の受験資格が得られる栄養学科がある、家から通えそうなところをまず一番最初に探してみた。もちろん必要とあれば県外に出て一人暮らしという手もあるんだろうけど、地元には先生も居るし、離れたくないからやっぱり近場が一番だ。
「あ、県立に栄養学科がある。……私立もあるけど、学費はやっぱり県立の方が安いな。あ、しかも理科の選択科目に物理が入ってる!」
これは……、使えるかもしれない。
明日から受験対策として先生を捕まえて物理の質問をしに行こう。……カモフラージュも必要だろうから、時々数学の先生や小百合先生にも質問するか。
俺は俺の出来ることをする。それ以外にどうすることも出来ないって分かっているから。
1
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる