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第七章
先生の家族 5
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まずは定番のジャガイモと人参と玉ねぎを籠に入れる。
「ねえ、先生」
「なんだ?」
「俺んち、カボチャとキノコも入れるんだけど、入れても良いかな?」
「構わないが、量が増えるな」
「うーん、じゃあジャガイモやめようか。俺、カボチャ入りのカレーって好きなんだ。で、翌朝もカレーにしちゃおうよ」
「良いよ。任せる」
先生が任せると言ってくれたので、俺は迷った挙句そのあとマイタケも籠に入れた。
味的にはエリンギの方が好きなんだけど、以前母さんが、『マイタケの方がより体に良いらしいわよ』って言ったのを思い出したから。
「ルウも買わないとー。先生、辛さはどのくらいが好み?」
「……甘いのは苦手だけど、お前は甘口の方が良いんじゃないのか?」
「まさか! 和葉と一緒にしないでよ。俺はー……、中辛なら大丈夫」
「ふうん……」
先生が中辛の箱を手に取って、辛さの指標を確認している。いくつか手に取って、俺に差し出した。
「これなら良いんじゃないか? 中辛のど真ん中だ」
「先生は大丈夫?」
「ああ、俺もそのくらいのが良い。これで、買うのは無いのか?」
「あ、待って。お肉も買わなきゃ。それに油も……。油とお肉は出来るだけ小さいのにしようか。先生一人じゃ料理しないでしょ」
「そうだな。肉は使う量だけ買おう。油は、まあ小さいやつを買って、残りは南が持って帰れ」
「分かった。……あっ」
「なんだ?」
とんでもないことに気が付いてしまった。先生は一度も料理をしたことないし、する気もない人だから調理器具なんてあるはずがない。
「先生……。鍋もまな板も、包丁も無いよね……。もちろんスプーンもお皿も」
「……スプーンくらいはある」
先生と2人、顔を見合わせて絶句した。
どうしたらいいんだ?
「……買うか」
「え? 良いの?」
「最低限の買い物だ。鍋とまな板と包丁と。……あ、待てよ。カレーを食べれる皿なら確かあったな。だいぶ前に貰い物で……。一応レンジはあるから、ご飯はレンチンするだけのやつを買って済ませよう」
「うん。分かった。あ、ピーラーも買おうね。母さんが皮剥くときに使ってるんだ。あれなら俺でも皮を向けると思うし」
「分かった」
「それとー、先生、サラダも買おう。えーっと、あっちだ」
思いもよらない大量の買い物になってしまったけど、なんだかこれって新婚さんみたいだ。
「ねえ、先生」
「ん?」
「俺、母さんから料理習って、時々先生ん家に料理作りに来るからね」
「…………」
返事が返ってこないから、どうしたのかと先生を見上げる。
見上げて、不覚にも先生にギュウッて抱きつきたくなってしまった。
嬉しさを必死で抑えるような先生の顔。
ほんのりと赤くなった頬が、口元を押さえる掌で半分隠されている。
「絶対行くからね。その鍋で、美味しいお味噌汁を先生に食べさせてあげるから」
「――待ってるよ」
にっこりと笑うその笑顔は、俺だけに向けてくれる、先生の素の綺麗な笑顔だった。
「ねえ、先生」
「なんだ?」
「俺んち、カボチャとキノコも入れるんだけど、入れても良いかな?」
「構わないが、量が増えるな」
「うーん、じゃあジャガイモやめようか。俺、カボチャ入りのカレーって好きなんだ。で、翌朝もカレーにしちゃおうよ」
「良いよ。任せる」
先生が任せると言ってくれたので、俺は迷った挙句そのあとマイタケも籠に入れた。
味的にはエリンギの方が好きなんだけど、以前母さんが、『マイタケの方がより体に良いらしいわよ』って言ったのを思い出したから。
「ルウも買わないとー。先生、辛さはどのくらいが好み?」
「……甘いのは苦手だけど、お前は甘口の方が良いんじゃないのか?」
「まさか! 和葉と一緒にしないでよ。俺はー……、中辛なら大丈夫」
「ふうん……」
先生が中辛の箱を手に取って、辛さの指標を確認している。いくつか手に取って、俺に差し出した。
「これなら良いんじゃないか? 中辛のど真ん中だ」
「先生は大丈夫?」
「ああ、俺もそのくらいのが良い。これで、買うのは無いのか?」
「あ、待って。お肉も買わなきゃ。それに油も……。油とお肉は出来るだけ小さいのにしようか。先生一人じゃ料理しないでしょ」
「そうだな。肉は使う量だけ買おう。油は、まあ小さいやつを買って、残りは南が持って帰れ」
「分かった。……あっ」
「なんだ?」
とんでもないことに気が付いてしまった。先生は一度も料理をしたことないし、する気もない人だから調理器具なんてあるはずがない。
「先生……。鍋もまな板も、包丁も無いよね……。もちろんスプーンもお皿も」
「……スプーンくらいはある」
先生と2人、顔を見合わせて絶句した。
どうしたらいいんだ?
「……買うか」
「え? 良いの?」
「最低限の買い物だ。鍋とまな板と包丁と。……あ、待てよ。カレーを食べれる皿なら確かあったな。だいぶ前に貰い物で……。一応レンジはあるから、ご飯はレンチンするだけのやつを買って済ませよう」
「うん。分かった。あ、ピーラーも買おうね。母さんが皮剥くときに使ってるんだ。あれなら俺でも皮を向けると思うし」
「分かった」
「それとー、先生、サラダも買おう。えーっと、あっちだ」
思いもよらない大量の買い物になってしまったけど、なんだかこれって新婚さんみたいだ。
「ねえ、先生」
「ん?」
「俺、母さんから料理習って、時々先生ん家に料理作りに来るからね」
「…………」
返事が返ってこないから、どうしたのかと先生を見上げる。
見上げて、不覚にも先生にギュウッて抱きつきたくなってしまった。
嬉しさを必死で抑えるような先生の顔。
ほんのりと赤くなった頬が、口元を押さえる掌で半分隠されている。
「絶対行くからね。その鍋で、美味しいお味噌汁を先生に食べさせてあげるから」
「――待ってるよ」
にっこりと笑うその笑顔は、俺だけに向けてくれる、先生の素の綺麗な笑顔だった。
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