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第六章
だって、真剣だから
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3人で、小さくなっていく遠山さんを見送った。
好きな人に相手にしてもらえなかった原因が紫藤先生だったからって、あんな風に先生にコンプレックスを持ち続けていたのかと思うと同情するとともに、気持ち悪いとも思う。
でもまあ、何とか納得してくれたみたいだから良かったか。
痕も、どうやら付いてなかったみたいだし。
「澪、これ持って先行くな」
テーブルに置いたままになっていたポン酢などが入った籠を手に、渚さんが声を掛けた。
「ああ、悪いな」
「あ、そうだ澪」
数歩歩いた所で足を止め、渚さんが振り返った。
「柳瀬のインパクトは分かったけど、俺の場合は何なんだ?」
「ああ?」
さっきのやり取りを笑いながら蒸し返す渚さんに、然も嫌そうな声で先生が返す。でも流石渚さんだ。動じる風もなく、にこにこ(ニヤニヤ?)しながら先生の言葉を待っている。
しばらくムスッと黙っていた先生だけど、渚さんがこの場を離れようとしないのでどうやら根負けしたらしい。重い口を渋々開いた。
「――そういうトコだろ? 邪険にする俺に怯まず呆れず、何度も何度も。俺のことを面白がる珍しい奴だったからだよ。……おかげで、あの頃の必要最低限の繋がりだけは持つことが出来た。一応、感謝はしている」
「…………」
ぶっきらぼうでしかも嫌々だけど、きちんと返事を返した先生に俺も渚さんも呆けたように先生を見た。
だけど渚さんはすぐに破顔して、バシバシと先生を叩いた。
「ってーよ!」
「いやー、だってお前! そうか、感謝してくれてたんだー。知らなかった。だってお前いっつも仏頂面でさー」
「図々しいんだからしょうがないだろ?」
忌々しい表情を崩さない先生に対し、渚さんも笑顔を崩さない。
ホント、対照的だよな。この2人って。
「それもそっか。じゃあ、南くんも、澪とゆっくりおいで。先に進めておくから」
「……はい」
俺が頷いたのを確認すると、渚さんはおれを安心させるようにニコリと微笑んで、足早にみんなの元へと歩いて行った。
「南」
「うん?」
遠ざかっていく渚さんを見ながら、先生に名前を呼ばれた。
見上げると、先生に心配そうに見つめられていてドキンとする。
「遠山の奴……、何しやがったんだ?」
「……う、ん」
「何だ? 言いたくないか?」
心配そうな顔。
じっと綺麗な瞳に見つめられて、言いたくないだなんて言えなくなってくる。
「……朝の、俺の顔が、……だったから、先生とHしたんだろって。先生とはそんな仲じゃないし、していないって言ったら、先生のことだから絶対キスマークを付けてるはずだから痕見せてみろって言われて……」
「あいつ……、やっぱり俺も殴っておくんだった……!」
ギリッて音でもしそうなくらい歯を食いしばった後、先生は俺を引き寄せて抱きしめた。
呼吸もままならないくらいの力強さが、先生の思いを俺に教えてくれる。切なくて、でもそれ以上に俺を思ってくれている先生がうれしくて、俺も先生の背中に腕を回してしっかりと抱きしめ返した。
「すまない、南。悪かった……。俺のせいで怖い目に合わせて……」
どれほどの責任を感じているのか、掠れて絞り出すように話す先生の声。
「違う、違うよ。先生のせいじゃない。俺が先生のことが欲しくって、強請ったんだから。それに、俺らは何も悪いことはしてないよ? そうでしょ?」
例え教師と生徒でも、俺は先生の恋人だ。それも今だけの関係なんかじゃない。俺が卒業しても将来的にずっと一緒に居たいって、そんな風に真剣に考えあっている恋人同士だ。
「ああ、もちろんだ」
そっと俺の体を離した先生は、澄んだ綺麗な瞳で俺を見つめ答えてくれた。それにホッとして微笑むと、先生も微笑んで俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。
好きな人に相手にしてもらえなかった原因が紫藤先生だったからって、あんな風に先生にコンプレックスを持ち続けていたのかと思うと同情するとともに、気持ち悪いとも思う。
でもまあ、何とか納得してくれたみたいだから良かったか。
痕も、どうやら付いてなかったみたいだし。
「澪、これ持って先行くな」
テーブルに置いたままになっていたポン酢などが入った籠を手に、渚さんが声を掛けた。
「ああ、悪いな」
「あ、そうだ澪」
数歩歩いた所で足を止め、渚さんが振り返った。
「柳瀬のインパクトは分かったけど、俺の場合は何なんだ?」
「ああ?」
さっきのやり取りを笑いながら蒸し返す渚さんに、然も嫌そうな声で先生が返す。でも流石渚さんだ。動じる風もなく、にこにこ(ニヤニヤ?)しながら先生の言葉を待っている。
しばらくムスッと黙っていた先生だけど、渚さんがこの場を離れようとしないのでどうやら根負けしたらしい。重い口を渋々開いた。
「――そういうトコだろ? 邪険にする俺に怯まず呆れず、何度も何度も。俺のことを面白がる珍しい奴だったからだよ。……おかげで、あの頃の必要最低限の繋がりだけは持つことが出来た。一応、感謝はしている」
「…………」
ぶっきらぼうでしかも嫌々だけど、きちんと返事を返した先生に俺も渚さんも呆けたように先生を見た。
だけど渚さんはすぐに破顔して、バシバシと先生を叩いた。
「ってーよ!」
「いやー、だってお前! そうか、感謝してくれてたんだー。知らなかった。だってお前いっつも仏頂面でさー」
「図々しいんだからしょうがないだろ?」
忌々しい表情を崩さない先生に対し、渚さんも笑顔を崩さない。
ホント、対照的だよな。この2人って。
「それもそっか。じゃあ、南くんも、澪とゆっくりおいで。先に進めておくから」
「……はい」
俺が頷いたのを確認すると、渚さんはおれを安心させるようにニコリと微笑んで、足早にみんなの元へと歩いて行った。
「南」
「うん?」
遠ざかっていく渚さんを見ながら、先生に名前を呼ばれた。
見上げると、先生に心配そうに見つめられていてドキンとする。
「遠山の奴……、何しやがったんだ?」
「……う、ん」
「何だ? 言いたくないか?」
心配そうな顔。
じっと綺麗な瞳に見つめられて、言いたくないだなんて言えなくなってくる。
「……朝の、俺の顔が、……だったから、先生とHしたんだろって。先生とはそんな仲じゃないし、していないって言ったら、先生のことだから絶対キスマークを付けてるはずだから痕見せてみろって言われて……」
「あいつ……、やっぱり俺も殴っておくんだった……!」
ギリッて音でもしそうなくらい歯を食いしばった後、先生は俺を引き寄せて抱きしめた。
呼吸もままならないくらいの力強さが、先生の思いを俺に教えてくれる。切なくて、でもそれ以上に俺を思ってくれている先生がうれしくて、俺も先生の背中に腕を回してしっかりと抱きしめ返した。
「すまない、南。悪かった……。俺のせいで怖い目に合わせて……」
どれほどの責任を感じているのか、掠れて絞り出すように話す先生の声。
「違う、違うよ。先生のせいじゃない。俺が先生のことが欲しくって、強請ったんだから。それに、俺らは何も悪いことはしてないよ? そうでしょ?」
例え教師と生徒でも、俺は先生の恋人だ。それも今だけの関係なんかじゃない。俺が卒業しても将来的にずっと一緒に居たいって、そんな風に真剣に考えあっている恋人同士だ。
「ああ、もちろんだ」
そっと俺の体を離した先生は、澄んだ綺麗な瞳で俺を見つめ答えてくれた。それにホッとして微笑むと、先生も微笑んで俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。
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