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第六章
オムレツを作ってみよう 2
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「え~っとぉ」
こんな風に興味を前面に押し出されると、話したくなくなるのは何でだろう。
先生を好きかもしれない人たちに、先生の情報を教えたくないってそう思ってしまう。
でも無視することは出来なくて、無難な事だけ説明した。
「教え方が上手くて、優しいですよ」
「へえ……」
「優しい、んだ……」
素の先生しか知らなければ当然の反応だろう。俺は逆だったけど、先生の本性を知ったときは魂が抜けるくらい驚いたし。
「こーら。なに人の居ないところで噂話なんかしているんだ?」
突然ガシッと後ろから肩を掴まれ覗き込まれた。先生の体温を、また間近に感じてカーッと顔が熱くなる。
みんなにそんな顔を見られたら、先生を意識しまくっているのがバレると困ると、俺は焦って先生の俺を掴んでいる手を離して先生の方にくるっと振り向いた。
先生も、俺の真っ赤であろう顔を見て目をぱちくりさせている。
「う、噂話とかじゃなくて……」
「私たちみんな澪のこと心配してるのよ? 澪が先生になるって言ったときは、みんなびっくりしてたんだから」
「そうよー。人の話は聞かないし不愛想で身勝手で、こんなんでどうやって生徒と接するのかって不思議に思うのも当たり前じゃない」
「ホントに、学校の先生方とはうまくやれてるの? 喧嘩ばかりしてるんじゃないの?」
志緒利さん以外の女の人たちは、普段から先生に冷たくされていることを不満に思っていたんだろう。志緒利さんの心配しているという一言に便乗して、口々に心配の振りをした不満をぶちまけている。
でもおかげで俺の顔の熱は一気に下がってくれたので、まあ良しとするか。
「……おい。教え子の前でお前らなに言ってんだよ。一応これでも社会人なんだ。ちゃんとコミュニケーションが取れるように、それなりにやっている」
ムッとしてはいるんだろうけど、昨日の反省からか、腕を組みながらの横柄な態度だけど声音はあまり冷たくはない。軽い呆れ口調に抑えているようだ。
その紫藤先生の様子に、志緒利さんもハッとして眉根を下げた。
「ごめん。悪かったわね。ついつい澪のことだから興味持っちゃって」
悪びれずに笑うその態度に、俺としてはやっぱり志緒利さんは先生に特別な好意があるように思えてならない。
……ちょっとモヤッとするぞ。
「さ、卵焼こうか。南くん、割って溶いてくれる?」
「南が焼くのか?」
志緒利さんの呼びかけに、先生が驚いて俺を振り返った。
「うん。料理に興味を持てそうか真剣に考えてみようと思って」
「ふーん……」
緊張して卵を握る俺を、先生が興味深そうに見ている。
「先生、あんま見ないでよ。緊張する」
「ああ? 何言ってるんだよ。そんなことで緊張してたら何も出来んぞ? ほら、気にせず割ってみろ」
うう~。
先生が退かないから、他のみんなも俺の手元をガン見してるじゃないか~。
俺は恐る恐る卵をお茶碗の縁にコツコツと当てる。だけど力が足りなかったのか、卵にはヒビすら入っていない。俺は力を加えてガツンとお茶碗に当てたら、卵にぐちゃっとしたヒビが入り、お茶碗の中には卵と一緒に割れた殻が幾つか混ざりこんでいた。
「あ~」
思わず漏れた残念な声に、志緒利さんが「大丈夫よ、手で取っちゃって」と明るく答えてくれた。
そして殻を取り終わり、教えてもらった通りに卵を切るように掻き混ぜる。
いよいよフライパンとの格闘だ。緊張にフーッと息を吐いていると、先生が俺の肩をポンとたたいた。
「それ、ぐちゃぐちゃに出来上がっても俺が食べてやるから」
「え!? や、だめだよ先生。別に俺なんかのまずいもの食べなくても……!」
「なんで? 教え子が頑張っているのを嬉しく思わない教師はいないだろ? 俺が食べるから、頑張って作れよ」
「ええ~っ?」
ニコニコ笑う先生は、どうやら引く気は無いらしい。
俺は更なる緊張に、フライパンをぐっと握りしめた。
こんな風に興味を前面に押し出されると、話したくなくなるのは何でだろう。
先生を好きかもしれない人たちに、先生の情報を教えたくないってそう思ってしまう。
でも無視することは出来なくて、無難な事だけ説明した。
「教え方が上手くて、優しいですよ」
「へえ……」
「優しい、んだ……」
素の先生しか知らなければ当然の反応だろう。俺は逆だったけど、先生の本性を知ったときは魂が抜けるくらい驚いたし。
「こーら。なに人の居ないところで噂話なんかしているんだ?」
突然ガシッと後ろから肩を掴まれ覗き込まれた。先生の体温を、また間近に感じてカーッと顔が熱くなる。
みんなにそんな顔を見られたら、先生を意識しまくっているのがバレると困ると、俺は焦って先生の俺を掴んでいる手を離して先生の方にくるっと振り向いた。
先生も、俺の真っ赤であろう顔を見て目をぱちくりさせている。
「う、噂話とかじゃなくて……」
「私たちみんな澪のこと心配してるのよ? 澪が先生になるって言ったときは、みんなびっくりしてたんだから」
「そうよー。人の話は聞かないし不愛想で身勝手で、こんなんでどうやって生徒と接するのかって不思議に思うのも当たり前じゃない」
「ホントに、学校の先生方とはうまくやれてるの? 喧嘩ばかりしてるんじゃないの?」
志緒利さん以外の女の人たちは、普段から先生に冷たくされていることを不満に思っていたんだろう。志緒利さんの心配しているという一言に便乗して、口々に心配の振りをした不満をぶちまけている。
でもおかげで俺の顔の熱は一気に下がってくれたので、まあ良しとするか。
「……おい。教え子の前でお前らなに言ってんだよ。一応これでも社会人なんだ。ちゃんとコミュニケーションが取れるように、それなりにやっている」
ムッとしてはいるんだろうけど、昨日の反省からか、腕を組みながらの横柄な態度だけど声音はあまり冷たくはない。軽い呆れ口調に抑えているようだ。
その紫藤先生の様子に、志緒利さんもハッとして眉根を下げた。
「ごめん。悪かったわね。ついつい澪のことだから興味持っちゃって」
悪びれずに笑うその態度に、俺としてはやっぱり志緒利さんは先生に特別な好意があるように思えてならない。
……ちょっとモヤッとするぞ。
「さ、卵焼こうか。南くん、割って溶いてくれる?」
「南が焼くのか?」
志緒利さんの呼びかけに、先生が驚いて俺を振り返った。
「うん。料理に興味を持てそうか真剣に考えてみようと思って」
「ふーん……」
緊張して卵を握る俺を、先生が興味深そうに見ている。
「先生、あんま見ないでよ。緊張する」
「ああ? 何言ってるんだよ。そんなことで緊張してたら何も出来んぞ? ほら、気にせず割ってみろ」
うう~。
先生が退かないから、他のみんなも俺の手元をガン見してるじゃないか~。
俺は恐る恐る卵をお茶碗の縁にコツコツと当てる。だけど力が足りなかったのか、卵にはヒビすら入っていない。俺は力を加えてガツンとお茶碗に当てたら、卵にぐちゃっとしたヒビが入り、お茶碗の中には卵と一緒に割れた殻が幾つか混ざりこんでいた。
「あ~」
思わず漏れた残念な声に、志緒利さんが「大丈夫よ、手で取っちゃって」と明るく答えてくれた。
そして殻を取り終わり、教えてもらった通りに卵を切るように掻き混ぜる。
いよいよフライパンとの格闘だ。緊張にフーッと息を吐いていると、先生が俺の肩をポンとたたいた。
「それ、ぐちゃぐちゃに出来上がっても俺が食べてやるから」
「え!? や、だめだよ先生。別に俺なんかのまずいもの食べなくても……!」
「なんで? 教え子が頑張っているのを嬉しく思わない教師はいないだろ? 俺が食べるから、頑張って作れよ」
「ええ~っ?」
ニコニコ笑う先生は、どうやら引く気は無いらしい。
俺は更なる緊張に、フライパンをぐっと握りしめた。
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