74 / 158
第六章
先生と志緒利さん
しおりを挟む
先生の唇は、ふわりと優しく重ねた後簡単に離れていった。
え~?
もうちょっとぉ……。
あまりにもあっけなく離れていった先生の唇が、名残惜しくてしょうがない。
あれじゃ足りない!って思いで、先生をじーっと見つめていたら、コツンと額を叩かれた。
「そういうイチャイチャは、もうちょっと後でな。そろそろ風呂にも入らなきゃだから、着替え持って降りるぞ」
「んー、分かった……」
先生の言う事は、もっともだ。
仕方がないから、俺も渋々だけどそれに従った。
一階に降りると、柳瀬さんと渚さんが2人で風呂に入っているとの事だった。女の人達は、俺らが来る前に済ませているそうだ。
「遠山は? もう済んだのか?」
「いや、まだ。俺はいつも寝る直前に入るから、最後でいいわ」
「……お風呂場、大の男が2人で入れるほど大きいの?」
俺の疑問に、遠山さんが答えてくれた。
「ああ。十分の大きさだったよ。女子らはちょっと狭いかもだけど、3人で入ることも出来るんじゃないかな。一応本館の方には大浴場で、ジャグジーもあるらしいよ」
「ふーん」
「あんま、興味ない?」
「うん」
だって、大浴場だろ?
万が一のことがあるから、先生と入れてもイチャイチャ出来ないし。それに先生の裸、他の誰かに見せたくなんかない。
お風呂自体に、それほど興味も無いしな。
「私も大浴場って、あんまり好きじゃないんだよなー。お風呂は1人でゆっくり入りたいもの。それにしても、8人もいるんだからバスルーム、2つくらいあればいいのにね」
「当初の予定は5人だったんだけどな」
小波さんが、何気なくぼやいたことに先生が冷たく切り返した。一瞬、その場の空気が凍り付く。
ポスン。
突然先生の頭の上に、食パンの袋が乗っかった。
志緒利さんが悪戯っぽく笑いながら、冷えた空気を壊し始める。
「ほんっと、相変わらずねぇ、澪は。渚くんみたいにムードメーカーになれとは言わないけど、もうちょっと大らかになりなさいよ」
「…………」
先生は、ちょっとムッとした表情で横を向き不貞腐れたような態度をとった。
ここに来ての、志緒利さんに見せる初めての先生の態度や表情が、やっぱり俺の気持ちを不安にさせる。
これって、気心知れていて仲がいいから見せられる表情じゃないのか?
「ところで、朝はパンでいいかな? 一応、お米も持ってきてはいるけど」
「パンで大丈夫だよ、南くんは?」
遠山さんが、気を遣ってか俺にも尋ねる。志緒利さんも、ニコニコしながら俺の返事を待っている。
「……パンで、大丈夫です」
俺の言葉に、志緒利さんはにっこり笑って今度は皆をぐるりと見渡した。
それに、みんなパンでいいよと返事を返す。
ここは予約すれば朝食と夕食はレストランでできるらしいのだが、どうやらレストランでの食事は一切しないみたいだ。
女子が混じった時点で、皆でワイワイとキッチンで食事を作るという方向に決まったらしい。
「買い出しは柳瀬君と2人でしてきたんだけど、お金は柳瀬君が立替てくれたの。この金額だから、後で柳瀬君に払ってね」
そう言って志緒利さんは、レシートの横に人数分で割った金額が書かれているのを見せてくれた。
気が利いて、そつなく色んなことをこなす人。
……それでもって、アノ先生をまるで子供のように扱いながら、先生を怒らせない人。
先生は本当に気にもしていないみたいだけど、他人に興味がないと言い切る先生の、志緒利さんに向ける信頼や素直さは俺の心をかき乱してしょうがなかった。
だって、渚さんとは違う信頼感だ。
……綺麗な人だし。
「お待たせー。澪、入るだろ? 南くんと入ってこいよ」
バスルームから、俺の悶々とした気持ちを吹き飛ばすような、いつもの明るい渚さんの声が聞こえてきてハッとする。
「おう」
軽く返事をした先生が、着替えをもって席を立った。
「行こう、南」
コイコイと手招きされて、俺も着替えを手に、先生の後に続いた。
え~?
もうちょっとぉ……。
あまりにもあっけなく離れていった先生の唇が、名残惜しくてしょうがない。
あれじゃ足りない!って思いで、先生をじーっと見つめていたら、コツンと額を叩かれた。
「そういうイチャイチャは、もうちょっと後でな。そろそろ風呂にも入らなきゃだから、着替え持って降りるぞ」
「んー、分かった……」
先生の言う事は、もっともだ。
仕方がないから、俺も渋々だけどそれに従った。
一階に降りると、柳瀬さんと渚さんが2人で風呂に入っているとの事だった。女の人達は、俺らが来る前に済ませているそうだ。
「遠山は? もう済んだのか?」
「いや、まだ。俺はいつも寝る直前に入るから、最後でいいわ」
「……お風呂場、大の男が2人で入れるほど大きいの?」
俺の疑問に、遠山さんが答えてくれた。
「ああ。十分の大きさだったよ。女子らはちょっと狭いかもだけど、3人で入ることも出来るんじゃないかな。一応本館の方には大浴場で、ジャグジーもあるらしいよ」
「ふーん」
「あんま、興味ない?」
「うん」
だって、大浴場だろ?
万が一のことがあるから、先生と入れてもイチャイチャ出来ないし。それに先生の裸、他の誰かに見せたくなんかない。
お風呂自体に、それほど興味も無いしな。
「私も大浴場って、あんまり好きじゃないんだよなー。お風呂は1人でゆっくり入りたいもの。それにしても、8人もいるんだからバスルーム、2つくらいあればいいのにね」
「当初の予定は5人だったんだけどな」
小波さんが、何気なくぼやいたことに先生が冷たく切り返した。一瞬、その場の空気が凍り付く。
ポスン。
突然先生の頭の上に、食パンの袋が乗っかった。
志緒利さんが悪戯っぽく笑いながら、冷えた空気を壊し始める。
「ほんっと、相変わらずねぇ、澪は。渚くんみたいにムードメーカーになれとは言わないけど、もうちょっと大らかになりなさいよ」
「…………」
先生は、ちょっとムッとした表情で横を向き不貞腐れたような態度をとった。
ここに来ての、志緒利さんに見せる初めての先生の態度や表情が、やっぱり俺の気持ちを不安にさせる。
これって、気心知れていて仲がいいから見せられる表情じゃないのか?
「ところで、朝はパンでいいかな? 一応、お米も持ってきてはいるけど」
「パンで大丈夫だよ、南くんは?」
遠山さんが、気を遣ってか俺にも尋ねる。志緒利さんも、ニコニコしながら俺の返事を待っている。
「……パンで、大丈夫です」
俺の言葉に、志緒利さんはにっこり笑って今度は皆をぐるりと見渡した。
それに、みんなパンでいいよと返事を返す。
ここは予約すれば朝食と夕食はレストランでできるらしいのだが、どうやらレストランでの食事は一切しないみたいだ。
女子が混じった時点で、皆でワイワイとキッチンで食事を作るという方向に決まったらしい。
「買い出しは柳瀬君と2人でしてきたんだけど、お金は柳瀬君が立替てくれたの。この金額だから、後で柳瀬君に払ってね」
そう言って志緒利さんは、レシートの横に人数分で割った金額が書かれているのを見せてくれた。
気が利いて、そつなく色んなことをこなす人。
……それでもって、アノ先生をまるで子供のように扱いながら、先生を怒らせない人。
先生は本当に気にもしていないみたいだけど、他人に興味がないと言い切る先生の、志緒利さんに向ける信頼や素直さは俺の心をかき乱してしょうがなかった。
だって、渚さんとは違う信頼感だ。
……綺麗な人だし。
「お待たせー。澪、入るだろ? 南くんと入ってこいよ」
バスルームから、俺の悶々とした気持ちを吹き飛ばすような、いつもの明るい渚さんの声が聞こえてきてハッとする。
「おう」
軽く返事をした先生が、着替えをもって席を立った。
「行こう、南」
コイコイと手招きされて、俺も着替えを手に、先生の後に続いた。
1
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる