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第六章
名前呼びの理由
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「紫藤も渚も、荷物部屋に持ってったらどうだ?」
柳瀬さんが俺らの不穏な空気を察したのか、のんびりとした声で促した。
「そうだな。澪は南くんと2階の部屋な。女子らはどこの部屋にしたんだ?」
「え? ああ、階段上がったすぐの部屋にしたから、澪たちは奥の部屋を使って」
「分かった。行こうか、南」
「うん」
渚さんと先生が席を立つのに倣って、俺は小波さんらにペコリとあいさつをしてから先生の後に続いた。階段を昇って奥の部屋に入る。
先生は俺を先に入らせて、カチャリとドアの鍵をかけた。
「南」
荷物をその場にポスンと下に落として、先生が背後から俺を抱きしめた。
「いやな思いさせたか?」
「そんなこと……、ないよ」
「…………」
「先生?」
否定してるのに、どうしてだか先生は更に俺をきつく抱きしめる。
「何か気になってること、あるだろ」
「え……」
ドキッとした。
ここに来た時に、先生に俺の微妙な気持ちを気が付かれたのは分かってはいたけど、とっくに忘れられてたかと思ったのに。
「な、何でもないよ」
志緒利さんのことは言いたくない。
だって、本当に万が一にでも先生が志緒利さんのことを特別に思っていたとしたら、藪蛇になってしまうじゃないか。
「南……」
「ヒアッ!」
耳元で、低い艶のある声で俺の名前を呼びながら、先生の手が俺の中心を撫で上げる。突然の刺激に、ビクッと体が揺れて変な声が出た。
「ちょ、ちょっと待って……、あっ!」
ヤバいヤバい~!
また下に戻らなきゃいけないだろうに、何やってんだよ、先生!
「止めて欲しいんなら言えよ。何、気にしてるんだ」
「せん……せっ」
これ以上先生に撫でられたらマジでヤバい。俺は先生の手を止めようと、その手を上から握りしめた。
「言う……か?」
「うん……っ、言う、言うから!」
焦って何度も頷くと、先生は俺のソコから手を放して、俺の両肩を掴みくるっと先生の方を向かせた。
いったん言うと返事はしたものの、言葉がなかなか出てこない。
そんな俺に先生は、髪を優しく撫でながら辛抱強く俺の言葉を待ってくれた。
「……志緒利さん」
「志緒利?」
あいつがどうかしたのかといった感じで、先生はキョトンとしている。俺のモヤモヤが、何なのかが全然わからないようだ。
なんだか、ちょっとムッとする。
「…………」
「おい?」
「……名前、呼んでた」
「……? 何?」
「だから! 1人だけ名前呼んでた、志緒利さんのこと! ほかの人は渚さん以外みんな苗字だし、名前呼ばない人だっているのにっ」
あまりにもピンとこない先生に何だかいら立って、俺は心の中のモヤモヤを一気に吐き出した。……んだけど、先生はさらに目を見開きポカンとした。
「お前……、はーーっ。そんなもの、何の意味も無いっての」
「だって!」
それだけじゃない、先生と志緒利さんの雰囲気はすごく自然だった。
自然なくらい仲が良いから、恋人だって言ってもおかしくないレベルだ。
……って、口にするのも嫌だから、先生には言わないけどな!
「自己紹介の時に気がつかなかったか?」
「え?」
「高田志緒利に、高田悠里。同じ苗字だろ? 高田って呼ぶと、2人が反応して面倒くさいから志緒利を名前で呼ぶことにしたんだよ」
「へ?」
ポカンとした。名前呼びって、そんだけの理由?
( ゚д゚)ポカーンとする俺に、先生は苦笑する。
そして、花が綻ぶような綺麗な優しい笑顔に変わった。
「やきもち、焼いたのか?」
甘い眼差しに甘い声。……ドキドキする。
「……だって」
「可愛いな」
先生の長い指が、俺の顎を掬う。
長い睫毛を伏せながら、ゆっくりと顔を近づけてくる先生に、俺もそっと目を閉じて、それに応えた。
柳瀬さんが俺らの不穏な空気を察したのか、のんびりとした声で促した。
「そうだな。澪は南くんと2階の部屋な。女子らはどこの部屋にしたんだ?」
「え? ああ、階段上がったすぐの部屋にしたから、澪たちは奥の部屋を使って」
「分かった。行こうか、南」
「うん」
渚さんと先生が席を立つのに倣って、俺は小波さんらにペコリとあいさつをしてから先生の後に続いた。階段を昇って奥の部屋に入る。
先生は俺を先に入らせて、カチャリとドアの鍵をかけた。
「南」
荷物をその場にポスンと下に落として、先生が背後から俺を抱きしめた。
「いやな思いさせたか?」
「そんなこと……、ないよ」
「…………」
「先生?」
否定してるのに、どうしてだか先生は更に俺をきつく抱きしめる。
「何か気になってること、あるだろ」
「え……」
ドキッとした。
ここに来た時に、先生に俺の微妙な気持ちを気が付かれたのは分かってはいたけど、とっくに忘れられてたかと思ったのに。
「な、何でもないよ」
志緒利さんのことは言いたくない。
だって、本当に万が一にでも先生が志緒利さんのことを特別に思っていたとしたら、藪蛇になってしまうじゃないか。
「南……」
「ヒアッ!」
耳元で、低い艶のある声で俺の名前を呼びながら、先生の手が俺の中心を撫で上げる。突然の刺激に、ビクッと体が揺れて変な声が出た。
「ちょ、ちょっと待って……、あっ!」
ヤバいヤバい~!
また下に戻らなきゃいけないだろうに、何やってんだよ、先生!
「止めて欲しいんなら言えよ。何、気にしてるんだ」
「せん……せっ」
これ以上先生に撫でられたらマジでヤバい。俺は先生の手を止めようと、その手を上から握りしめた。
「言う……か?」
「うん……っ、言う、言うから!」
焦って何度も頷くと、先生は俺のソコから手を放して、俺の両肩を掴みくるっと先生の方を向かせた。
いったん言うと返事はしたものの、言葉がなかなか出てこない。
そんな俺に先生は、髪を優しく撫でながら辛抱強く俺の言葉を待ってくれた。
「……志緒利さん」
「志緒利?」
あいつがどうかしたのかといった感じで、先生はキョトンとしている。俺のモヤモヤが、何なのかが全然わからないようだ。
なんだか、ちょっとムッとする。
「…………」
「おい?」
「……名前、呼んでた」
「……? 何?」
「だから! 1人だけ名前呼んでた、志緒利さんのこと! ほかの人は渚さん以外みんな苗字だし、名前呼ばない人だっているのにっ」
あまりにもピンとこない先生に何だかいら立って、俺は心の中のモヤモヤを一気に吐き出した。……んだけど、先生はさらに目を見開きポカンとした。
「お前……、はーーっ。そんなもの、何の意味も無いっての」
「だって!」
それだけじゃない、先生と志緒利さんの雰囲気はすごく自然だった。
自然なくらい仲が良いから、恋人だって言ってもおかしくないレベルだ。
……って、口にするのも嫌だから、先生には言わないけどな!
「自己紹介の時に気がつかなかったか?」
「え?」
「高田志緒利に、高田悠里。同じ苗字だろ? 高田って呼ぶと、2人が反応して面倒くさいから志緒利を名前で呼ぶことにしたんだよ」
「へ?」
ポカンとした。名前呼びって、そんだけの理由?
( ゚д゚)ポカーンとする俺に、先生は苦笑する。
そして、花が綻ぶような綺麗な優しい笑顔に変わった。
「やきもち、焼いたのか?」
甘い眼差しに甘い声。……ドキドキする。
「……だって」
「可愛いな」
先生の長い指が、俺の顎を掬う。
長い睫毛を伏せながら、ゆっくりと顔を近づけてくる先生に、俺もそっと目を閉じて、それに応えた。
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