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第二章
優しい先生の本性
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「あの……」
それって、もしかして初恋ってことですか?
凄い、やっぱ先生可愛いじゃん!
初めての相手が俺だなんて……! あ、ヤバい。にやけて来た。
「こら」
にやける俺に先生が軽くデコピンしてくる。
「イッテ」
「変な妄想してないで。そろそろ帰らなきゃな。ナビ頼む」
そう言って、エンジンをかけてウインカーをピコピコさせ始めた。
良い雰囲気になりかけてたのに、突然現実に戻られて俺は焦った。
「ちょっと! ちょっと待ってよ先生。そんなせっかく恋人同士になれたんだから、もっと何かあるだろ? もう帰れだなんて言うなよ」
「……だめだよ。今日は、殴られたり酷い目に合っただろ。ちゃんとゆっくり休まないと」
「…………」
「南くん」
諭すように静かに俺の名を呼ぶ先生。
どんなに優しくても、こういう時はやっぱり教師なんだな。
「分かった。でも、帰る前に先生の家、教えてよ。んで、ちょっぴりお邪魔させて? そしたらすぐに帰るから」
俺のお願いにしばらく考え込んでいた先生は、軽く笑ってしょうがないなとハンドルを持ち直した。
もう陽が落ちてから結構な時間が経っているので、薄暗い道路を車が走る。
時折すれ違う車のライトが先生の綺麗な横顔を照らして、俺の心臓がトクンと跳ねる。
先生の隣にいるんだ……。
俺のこと好きだって言ってくれたんだよな。
真っ直ぐ前を見る先生の、綺麗な横顔を嬉しくてじっと見つめていたら、それに気づいた先生に「こら」と小さく怒られた。
先生の頬がほんのり赤いのは、気のせいなんかじゃないよな?
お手軽なんだろうか、俺って。そんな他愛ないやり取りだけでも本当に本当に嬉しくて、俺の胸は一杯になってしまっていた。
十分くらい走らせただろうか、住宅街にあるマンションの駐車場に車が入って行く。
「ここ?」
「そ。コーヒーは飲めるか?」
「う、うん。大丈夫。あ、でもミルクたっぷり目が良い」
「分かった」
先生がクスリと笑って、ドアを開ける。俺もそれに倣って車から降りた。
「澪、丁度良かった」
「渚……」
俺らが車から降りてすぐ、道路側から人が近づいて来た。先生に会いに来ているみたいで、手を振りながらにこやかに近づいてくる。それに対して先生は、少し困惑しているようにも見える。
「おーや、おや。珍しく連れがいるなあ」
軽い感じで節を付けて、渚と呼ばれた人が俺を見た。
……と、もしかして不味かったのかな。
教師が生徒を連れ込んだとか、変な風に取られちゃうんだろうか……。
不安で、先生の顔を見上げたら、渚という人に俺の頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「あー、悪い、悪い。不安にさせちゃったかな。大丈夫だよ。俺は澪の大学時代の悪友で大友渚って言うんだ。よろしくな」
そう言って、ニカッと人懐っこい笑顔を見せた。その笑顔に安心してホッと力を抜いた時、先生の手が俺の頭に乗った渚さんの手を払い落とした。
「何しに来たんだよ、渚」
……え?
何か、いつもの先生と雰囲気違うぞ……?
悪友とかいう渚さんと対峙している先生は、いつもの優しい柔らかな雰囲気じゃなくて、ちょっと横柄でふてぶてしい雰囲気を纏っている。
「ああ、何? 南くんとの楽しい時間を邪魔されて怒ってるわけ? しょーがないだろ、お前と連絡付かないってみんなに泣きつかれたんだから」
「泣きつく? オーバーだな」
「オーバーじゃねーよ! お前なあ、LINEくらいしろよな。それが嫌なら電話に出るか、メールの返事くらい寄こせよ。幹事の柳瀬がお前が来るのかどうなのかって、女子どもにつるし上げられて悲鳴を上げてたぞ」
「はっ。LINEなんて誰がするかよ。ウザいったらねーだろ。それに、俺はそんな飲み会には参加しないって前から言ってるだろ? 仕事が忙しいとかなんとか、適当に言い訳しておけ」
「…………」
目の前で繰り広げられている、『あなたは誰ですか?』な先生の様子に、完全にポカン状態な俺。
しかも、しかもこの渚さんって人、俺の名前知ってるんですけど、どういう事ー!?
唖然とポカンと突っ立っていたら、渚さんがそれに気が付いて可笑しそうに笑った。
「おい、澪。お前マジで職場モードって奴、演じてんのか?」
「当前だろ? 素の俺で社会人なんかやってたら、ギクシャクして仕事になんかならねーだろーが」
え?
え?
ええ?
それって、それって……。
先生は、天女さまじゃないってことですか――?
ふてぶてしい表情で笑いかける先生に、俺の中での綺麗で儚げな先生は、音を立てて崩れ去る。
だけど――
「南」
甘く低い声で呼ばれて、きゅうっと甘く疼くような痛みが広がる。
俺が先生に惹かれた部分が、たとえ演技をしていたものだったとしても、もうそんな事はどうでもいいくらいに俺は先生のことを好きになってしまっていた。
それって、もしかして初恋ってことですか?
凄い、やっぱ先生可愛いじゃん!
初めての相手が俺だなんて……! あ、ヤバい。にやけて来た。
「こら」
にやける俺に先生が軽くデコピンしてくる。
「イッテ」
「変な妄想してないで。そろそろ帰らなきゃな。ナビ頼む」
そう言って、エンジンをかけてウインカーをピコピコさせ始めた。
良い雰囲気になりかけてたのに、突然現実に戻られて俺は焦った。
「ちょっと! ちょっと待ってよ先生。そんなせっかく恋人同士になれたんだから、もっと何かあるだろ? もう帰れだなんて言うなよ」
「……だめだよ。今日は、殴られたり酷い目に合っただろ。ちゃんとゆっくり休まないと」
「…………」
「南くん」
諭すように静かに俺の名を呼ぶ先生。
どんなに優しくても、こういう時はやっぱり教師なんだな。
「分かった。でも、帰る前に先生の家、教えてよ。んで、ちょっぴりお邪魔させて? そしたらすぐに帰るから」
俺のお願いにしばらく考え込んでいた先生は、軽く笑ってしょうがないなとハンドルを持ち直した。
もう陽が落ちてから結構な時間が経っているので、薄暗い道路を車が走る。
時折すれ違う車のライトが先生の綺麗な横顔を照らして、俺の心臓がトクンと跳ねる。
先生の隣にいるんだ……。
俺のこと好きだって言ってくれたんだよな。
真っ直ぐ前を見る先生の、綺麗な横顔を嬉しくてじっと見つめていたら、それに気づいた先生に「こら」と小さく怒られた。
先生の頬がほんのり赤いのは、気のせいなんかじゃないよな?
お手軽なんだろうか、俺って。そんな他愛ないやり取りだけでも本当に本当に嬉しくて、俺の胸は一杯になってしまっていた。
十分くらい走らせただろうか、住宅街にあるマンションの駐車場に車が入って行く。
「ここ?」
「そ。コーヒーは飲めるか?」
「う、うん。大丈夫。あ、でもミルクたっぷり目が良い」
「分かった」
先生がクスリと笑って、ドアを開ける。俺もそれに倣って車から降りた。
「澪、丁度良かった」
「渚……」
俺らが車から降りてすぐ、道路側から人が近づいて来た。先生に会いに来ているみたいで、手を振りながらにこやかに近づいてくる。それに対して先生は、少し困惑しているようにも見える。
「おーや、おや。珍しく連れがいるなあ」
軽い感じで節を付けて、渚と呼ばれた人が俺を見た。
……と、もしかして不味かったのかな。
教師が生徒を連れ込んだとか、変な風に取られちゃうんだろうか……。
不安で、先生の顔を見上げたら、渚という人に俺の頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「あー、悪い、悪い。不安にさせちゃったかな。大丈夫だよ。俺は澪の大学時代の悪友で大友渚って言うんだ。よろしくな」
そう言って、ニカッと人懐っこい笑顔を見せた。その笑顔に安心してホッと力を抜いた時、先生の手が俺の頭に乗った渚さんの手を払い落とした。
「何しに来たんだよ、渚」
……え?
何か、いつもの先生と雰囲気違うぞ……?
悪友とかいう渚さんと対峙している先生は、いつもの優しい柔らかな雰囲気じゃなくて、ちょっと横柄でふてぶてしい雰囲気を纏っている。
「ああ、何? 南くんとの楽しい時間を邪魔されて怒ってるわけ? しょーがないだろ、お前と連絡付かないってみんなに泣きつかれたんだから」
「泣きつく? オーバーだな」
「オーバーじゃねーよ! お前なあ、LINEくらいしろよな。それが嫌なら電話に出るか、メールの返事くらい寄こせよ。幹事の柳瀬がお前が来るのかどうなのかって、女子どもにつるし上げられて悲鳴を上げてたぞ」
「はっ。LINEなんて誰がするかよ。ウザいったらねーだろ。それに、俺はそんな飲み会には参加しないって前から言ってるだろ? 仕事が忙しいとかなんとか、適当に言い訳しておけ」
「…………」
目の前で繰り広げられている、『あなたは誰ですか?』な先生の様子に、完全にポカン状態な俺。
しかも、しかもこの渚さんって人、俺の名前知ってるんですけど、どういう事ー!?
唖然とポカンと突っ立っていたら、渚さんがそれに気が付いて可笑しそうに笑った。
「おい、澪。お前マジで職場モードって奴、演じてんのか?」
「当前だろ? 素の俺で社会人なんかやってたら、ギクシャクして仕事になんかならねーだろーが」
え?
え?
ええ?
それって、それって……。
先生は、天女さまじゃないってことですか――?
ふてぶてしい表情で笑いかける先生に、俺の中での綺麗で儚げな先生は、音を立てて崩れ去る。
だけど――
「南」
甘く低い声で呼ばれて、きゅうっと甘く疼くような痛みが広がる。
俺が先生に惹かれた部分が、たとえ演技をしていたものだったとしても、もうそんな事はどうでもいいくらいに俺は先生のことを好きになってしまっていた。
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