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第一章
人気者の先生
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どうやら俺の懸念は当たってしまったようで、紫藤先生はみんなの話題の的だった。
教室のあちこちから、「今の先生見た?」とか、「あれで男って反則じゃね?」とか様々な声が俺の耳に届いた。みんなが先生のことで興奮する気持ちは分かるけど、俺はやっぱり面白く無い。
「なんだ、お前。機嫌悪いな。何かあったのか?」
不貞腐れて机に突っ伏している俺を見て、利一がガシガシと俺の頭を乱暴に撫でた。
「べっつにー」
俺は突っ伏したまま、邪険に利一の手を払いため息を吐く。
「あ、紫藤だ」
「え?」
一瞬、紫藤先生の名前に飛び起きそうになったところをすんでのところで押しとどめた。
いちいち紫藤先生の名前に反応していたら、いくら男同士とはいえ、変に思われるかもしれない。そしたらこれから先生に近づきにくくなってしまう。
本当は一秒でも早く先生の姿をこの目に映したいのだけど、俺は出来るだけ緩慢な動きでノロノロと頭を起こした。
廊下を歩く先生は、教材として使ったであろう幾つかの資料に、回収したプリントらしき物を持って歩いていた。
その周りを、花に群がるミツバチのように女子の群れが付いて歩いている。
自分に纏わりつき話しかける女子に対して、相変わらずにこやかな笑顔で対応している紫藤先生。
だけどその手は、スルスルと滑るプリントを落とさないようにと不自然な形で強張っていた。
俺は出来るだけ怠そうに立ち上がり、「便所」と一言利一に声を掛けて廊下を出た。
歩く視線の先には、女子に合わせてゆっくりと歩く先生がいる。俺は怠そうに歩きながら、先生に近付いて行った。
先生の手にあるプリントを、かっさらう。
先生は、突然伸びて来た俺の手にびっくりしてこちらを振り向いた。
「南くん……」
「落っこちそうじゃん。準備室で良いのか? 持ってってやるよ」
「あ、ちょっと……」
焦った声で紫藤先生が俺を呼び止めたけど、それを無視して俺はそのまま歩き続けた。
「あ、じゃあね。ちょっと南くん、待って!」
「え~、紫藤先生~」
「あ~あ、行っちゃった」
後ろからは女子の残念がる声と、走り寄って来る紫藤先生の足音が聞こえる。俺はそれに満足して、少し歩くスピードを緩めた。
「南くん! ちょっと……」
「先生、良い人過ぎ」
「……え?」
「プリント、落とさないかって気になりながら女子の話に付き合ってたろ。あんなの急いでるからって、適当に切り上げればいいのに」
「……」
隣を歩いてはいるものの、返事が返って来ない。
ヤバッ、ヤな奴って思われちゃったか!?
俺は焦って先生の顔を見ようと振り返った。
振り返って息を呑む。
そこにいるのは呆れた表情の先生では無くて、くすぐったそうな、それでいて優しい表情の先生だった。
「君こそ、優しいね。そんな些細なことまで気が付いてくれるなんて」
「……!?」
何だよ!
反則だろ、そんな笑顔!
しかも出会い方が幸いしたのか、先生は俺の事を恩人っぽく思ってくれてるらしくって、かなり俺に対して無防備になってくれているようだった。
準備室に着いて、机の上にプリントを置いた。先生も、自分の持っているプリントをその上に積み重ねた。
「ありがとう。ごめんね、君の休み時間取っちゃったね」
「……別に」
あ~、くそっ。
やっぱ、すっげ綺麗だよな。しかも、かなり庇護欲そそるし。
めっちゃ、キスしてぇ。
だけど驚かせて引かれるのだけは絶対嫌だ。
どうしたら先生も、俺の事を意識してくれるんだろう。
チラッと先生を見上げると、それに気が付いてニコリと笑ってくれた。
……とりあえず、もう少し身長伸びねえかな。
今のままだと先生の方が俺よりも十センチ近く背が高いから、キスを仕掛けるのにも絵にならないし。
年上の、しかも同じ男の人をどう振り向かせればいいのか分からなくて、俺は心の中で小さくため息を吐いた。
教室のあちこちから、「今の先生見た?」とか、「あれで男って反則じゃね?」とか様々な声が俺の耳に届いた。みんなが先生のことで興奮する気持ちは分かるけど、俺はやっぱり面白く無い。
「なんだ、お前。機嫌悪いな。何かあったのか?」
不貞腐れて机に突っ伏している俺を見て、利一がガシガシと俺の頭を乱暴に撫でた。
「べっつにー」
俺は突っ伏したまま、邪険に利一の手を払いため息を吐く。
「あ、紫藤だ」
「え?」
一瞬、紫藤先生の名前に飛び起きそうになったところをすんでのところで押しとどめた。
いちいち紫藤先生の名前に反応していたら、いくら男同士とはいえ、変に思われるかもしれない。そしたらこれから先生に近づきにくくなってしまう。
本当は一秒でも早く先生の姿をこの目に映したいのだけど、俺は出来るだけ緩慢な動きでノロノロと頭を起こした。
廊下を歩く先生は、教材として使ったであろう幾つかの資料に、回収したプリントらしき物を持って歩いていた。
その周りを、花に群がるミツバチのように女子の群れが付いて歩いている。
自分に纏わりつき話しかける女子に対して、相変わらずにこやかな笑顔で対応している紫藤先生。
だけどその手は、スルスルと滑るプリントを落とさないようにと不自然な形で強張っていた。
俺は出来るだけ怠そうに立ち上がり、「便所」と一言利一に声を掛けて廊下を出た。
歩く視線の先には、女子に合わせてゆっくりと歩く先生がいる。俺は怠そうに歩きながら、先生に近付いて行った。
先生の手にあるプリントを、かっさらう。
先生は、突然伸びて来た俺の手にびっくりしてこちらを振り向いた。
「南くん……」
「落っこちそうじゃん。準備室で良いのか? 持ってってやるよ」
「あ、ちょっと……」
焦った声で紫藤先生が俺を呼び止めたけど、それを無視して俺はそのまま歩き続けた。
「あ、じゃあね。ちょっと南くん、待って!」
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「君こそ、優しいね。そんな些細なことまで気が付いてくれるなんて」
「……!?」
何だよ!
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やっぱ、すっげ綺麗だよな。しかも、かなり庇護欲そそるし。
めっちゃ、キスしてぇ。
だけど驚かせて引かれるのだけは絶対嫌だ。
どうしたら先生も、俺の事を意識してくれるんだろう。
チラッと先生を見上げると、それに気が付いてニコリと笑ってくれた。
……とりあえず、もう少し身長伸びねえかな。
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