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第一章
先生との再会
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春休みが済んで、学校が始まった。
ラッキーな事に、利一とはまた同じクラスだ。
廊下で壁にもたれて日向ぼっこをしながら、クラスの女子で誰が可愛いとかそんな話に花を咲かせる。今までの俺だったら、真っ先に可愛い子はいないかと物色していたんだけど、紫藤先生に出会ったあの日から、悲しいことに俺の頭の中は紫藤先生が占めている。
ちょっぴり複雑でため息…。
「なあ、紫藤って知ってるか? 物理の先生らしいんだけど、すっげーカッコいいって、さっき女子が騒いでた」
「え?」
女子の話をしていたはずなのに、突然出て来た先生の名前に心臓がトクンと跳ねた。
だけど――
女子が騒ぐ…。
複雑な気持ちだけど、あれだけ綺麗でカッコ良ければ、やっぱ女子も放っておかないか。
先生も男子に好かれるより、女子に好かれた方が嬉しいだろうし……。
「陽太?」
「あ、うん。話したことあるよ」
「そうなんだ?俺らのクラス、その紫藤が担当らしいぞ」
「ま、マジ?」
紫藤先生に教えてもらえるんだ……!
それって……。
授業中は堂々と、紫藤先生を見ていられるってことだよな!
うわ~マジかあ。
「なんだ、陽太。お前、その先生のこと好きなのか?」
「え゛っ!?」
いきなり図星を指されて、声が裏返ってしまった。
「? 嫌いなのか? 嫌な感じの奴?」
あ、ああ。好きか嫌いかの好きか。
そうだよな、いきなり俺の疚しい気持ちに気が付くわけないもんな。
「いや、話が分かる感じで良い感じだった。好きな先生の部類かな」
「そっかー。なら、まあいいか。カッコ良くて嫌味な奴だったら、物理そのものが嫌いになりそうだもんな」
「分かる、それ。でも、紫藤先生そんな感じじゃ無かったよ」
ホント。
優しくて、良い人過ぎて心配になるレベルだ。しかも、妙に色っぽいし……。
「あ」
廊下の向こうから紫藤先生がこちらに向かって歩いてくる。まさに噂をすれば影だ。
「何?」
俺の思わず漏らした声に反応して、利一が振り向く。
「紫藤先生だ」
「…あ~、なぁるほどねぇ。あれじゃ、女子が騒ぐはずだな」
紫藤先生を目ざとく見つけた女子が、挨拶と称して先生に近づいていく。それに先生もにこやかに挨拶を返して、微笑みながら会話を続けていた。
そんな状況を羨ましく思いながら見ていると、先生が俺の視線に気が付いたようで、こちらに顔を向けた。
ドキンとしたけど、それを誰にも悟られないようにと、俺は必至で平常心を取り繕っていた。
だけどそんな俺の気持ちに気が付かない先生は、俺を見てニコリ笑い、女子に軽く手を振って俺の所へと近づいて来た。
「お早う、南くん」
「お、おはようございます」
俺の名前、憶えていてくれたんだ。そう思うと、胸の内からじわじわと嬉しい気持ちが沸き上がって来る。
「この間は、ありがとう。……君のクラス、ここなんだね。僕が担当するクラスだ」
「そう、みたいですね。授業、楽しみにしてます」
「うん。物理を好きになってもらえるように一生懸命教えるから、頑張って」
「はい」
俺がそう素直に返事をすると、先生は嬉しそうにニコリと笑った。
物理というか、先生自体の事は、もう好きになっちゃってるんだけどさ。
「……君も、このクラス?」
先生が、今度は俺の隣に居る利一に目を向けた。
「あ、はい」
「そう。よろしく、物理の担当をしている紫藤です」
「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします」
年上で先生なのに、俺らをちっとも威圧しない柔らかな表情で挨拶をされて、利一も面食らい焦ったようだった。そんな俺たちに、先生は優しい表情で「じゃあ、また」とほほ笑んで隣のクラスへと入って行った。
「……何か、すっげ。存在感があるのか無いのかわっかんねーな。天女さまみたい」
先生の後姿を見ながら、利一が呆けたようにつぶやいた。
「なんだよ、天女さまって」
呆れたように返したが、利一のそれは的を射てると俺も思っていた。
「だって、なんだか雲の上の人みたいじゃん。でも雰囲気が柔らかいから、イメージ的にやっぱ天女だ」
「かもなー」
口では、のほほんと返事を返したけれど、みんなが紫藤先生を見た時に同じことを思うのだろうと考えると、俺の心は妙にざわついていた。
ラッキーな事に、利一とはまた同じクラスだ。
廊下で壁にもたれて日向ぼっこをしながら、クラスの女子で誰が可愛いとかそんな話に花を咲かせる。今までの俺だったら、真っ先に可愛い子はいないかと物色していたんだけど、紫藤先生に出会ったあの日から、悲しいことに俺の頭の中は紫藤先生が占めている。
ちょっぴり複雑でため息…。
「なあ、紫藤って知ってるか? 物理の先生らしいんだけど、すっげーカッコいいって、さっき女子が騒いでた」
「え?」
女子の話をしていたはずなのに、突然出て来た先生の名前に心臓がトクンと跳ねた。
だけど――
女子が騒ぐ…。
複雑な気持ちだけど、あれだけ綺麗でカッコ良ければ、やっぱ女子も放っておかないか。
先生も男子に好かれるより、女子に好かれた方が嬉しいだろうし……。
「陽太?」
「あ、うん。話したことあるよ」
「そうなんだ?俺らのクラス、その紫藤が担当らしいぞ」
「ま、マジ?」
紫藤先生に教えてもらえるんだ……!
それって……。
授業中は堂々と、紫藤先生を見ていられるってことだよな!
うわ~マジかあ。
「なんだ、陽太。お前、その先生のこと好きなのか?」
「え゛っ!?」
いきなり図星を指されて、声が裏返ってしまった。
「? 嫌いなのか? 嫌な感じの奴?」
あ、ああ。好きか嫌いかの好きか。
そうだよな、いきなり俺の疚しい気持ちに気が付くわけないもんな。
「いや、話が分かる感じで良い感じだった。好きな先生の部類かな」
「そっかー。なら、まあいいか。カッコ良くて嫌味な奴だったら、物理そのものが嫌いになりそうだもんな」
「分かる、それ。でも、紫藤先生そんな感じじゃ無かったよ」
ホント。
優しくて、良い人過ぎて心配になるレベルだ。しかも、妙に色っぽいし……。
「あ」
廊下の向こうから紫藤先生がこちらに向かって歩いてくる。まさに噂をすれば影だ。
「何?」
俺の思わず漏らした声に反応して、利一が振り向く。
「紫藤先生だ」
「…あ~、なぁるほどねぇ。あれじゃ、女子が騒ぐはずだな」
紫藤先生を目ざとく見つけた女子が、挨拶と称して先生に近づいていく。それに先生もにこやかに挨拶を返して、微笑みながら会話を続けていた。
そんな状況を羨ましく思いながら見ていると、先生が俺の視線に気が付いたようで、こちらに顔を向けた。
ドキンとしたけど、それを誰にも悟られないようにと、俺は必至で平常心を取り繕っていた。
だけどそんな俺の気持ちに気が付かない先生は、俺を見てニコリ笑い、女子に軽く手を振って俺の所へと近づいて来た。
「お早う、南くん」
「お、おはようございます」
俺の名前、憶えていてくれたんだ。そう思うと、胸の内からじわじわと嬉しい気持ちが沸き上がって来る。
「この間は、ありがとう。……君のクラス、ここなんだね。僕が担当するクラスだ」
「そう、みたいですね。授業、楽しみにしてます」
「うん。物理を好きになってもらえるように一生懸命教えるから、頑張って」
「はい」
俺がそう素直に返事をすると、先生は嬉しそうにニコリと笑った。
物理というか、先生自体の事は、もう好きになっちゃってるんだけどさ。
「……君も、このクラス?」
先生が、今度は俺の隣に居る利一に目を向けた。
「あ、はい」
「そう。よろしく、物理の担当をしている紫藤です」
「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします」
年上で先生なのに、俺らをちっとも威圧しない柔らかな表情で挨拶をされて、利一も面食らい焦ったようだった。そんな俺たちに、先生は優しい表情で「じゃあ、また」とほほ笑んで隣のクラスへと入って行った。
「……何か、すっげ。存在感があるのか無いのかわっかんねーな。天女さまみたい」
先生の後姿を見ながら、利一が呆けたようにつぶやいた。
「なんだよ、天女さまって」
呆れたように返したが、利一のそれは的を射てると俺も思っていた。
「だって、なんだか雲の上の人みたいじゃん。でも雰囲気が柔らかいから、イメージ的にやっぱ天女だ」
「かもなー」
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