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プロローグ
綺麗な先生を助けました
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「わざわざ、ありがとうね、陽太。お母さんによろしくね」
「いえいえ~、助かったって言ってました。それじゃあ、また」
門まで送ってもらって、手を振るおばさんに軽く会釈をして帰路に着いた。
明後日で春休みも終わるという大事な日に、家でゴロゴロしていたら、叔母さんのところに荷物を届けて来いと羊羹を渡された。
以前、急きょ着物が必要になったとかで、それを叔母から借りたのだそうだ。
その着物は既にクリーニングに出して返したのらしいが、そのままお返しもしていない事が気になっていたらしい。
せっかく出て来たんだから、利一でも誘おっかなあ。
ポケットに手を突っ込んで、手が止まる。慌てて胸やら腰やらパタパタ叩いた。
無い! どこにも無いぞ、俺のスマホ!
あ~、忘れて来たんだ……。
あんの、ばばぁ。早く行けって急かすから!
しょーがない。利一を誘うのは諦めよう。
気を取り直して、適当にぶらぶらしながら帰ろうと考え直した。
そしてふと思いつく。
魔が差したのか何なのか、少し寄り道したら俺の通っている中山高校があることに気が付いて、ちょっと寄ってってみようかなと思ったんだ。
時間的には、まだ3時頃だろう。
グラウンドでは野球部やサッカー部が、部活に勤しんでいた。
俺は、そのまま2年に割り当てられれている校舎へと入った。休みなので誰も居ず、シンとしている。暇人な俺は、階段を上がって2階へと足を進めた。
「……、……です。……て、……さい」
え?
誰もいないと思っていたのに、向こうの教室から小さく声が聞こえて来た。
焦ったような、困ったような声音だ。俺は何だか気になって、その声の聞こえてくる方に向かって静かに歩を進めた。
「すみません……。ダメです、困ります」
硬質だけど透明感のある涼やかな声が、今度はハッキリと聞こえて来た。2年3組の前だ。
中に人が居る気配もする。俺は、慎重にガラス越しに中を窺い見た。
げっ……!
あれって、体育の浜中じゃん。
浜中が、男の先生に言い寄ってる!
あっけに取られて見ていると、浜中が相手の先生の腕を強引に引き寄せようとしている。
困って眉根を寄せているその表情は、息を呑むほど色っぽかった。
傍で見ている俺がそう思うくらいだ。おそらく浜中も、余計に勝手に煽られたのだろう。鼻息を荒くして、さらに先生に近づいていく。
それを見た途端、俺の中で、何かがぷちっと切れた。
あの先生を助けなきゃ!
そう思った俺は、ガラッと勢いよく戸を開けた。
「先生! やっと見つけました! 俺に教えてくれるって約束、忘れてませんよね!」
突然現れた俺に、浜中は仰天したようだ。掴んでいたもう一人の先生の腕を突き放すように離して、飛び退いた。
「な、な、なんだお前! 呼んで無いぞ。何でここに居る!?」
「あれ? 浜中先生も居たんだ? 先生こそ、こんなとこで何してんですか?」
俺は、わざと怪訝な顔を作って、然も不思議だと思っているというように演技した。
浜中も、それにはかなりたじろいだようで、「何でもない! じゃあ、紫藤先生お先に」と言って、慌てて教室を出て行った。
はあ……。
何だか肩の力が抜けた。思わず助けなきゃと飛び込んだのだけど、我に返ると自分の咄嗟の行動に心底感心してしまっていた。
素直に言えば、この先生の困った顔に、はじかれたように動いてしまったという事なんだろうけど。
「きみ……」
呼ばれて、ピクリとした。
綺麗で硬質で涼やかな声が、間近から聞こえて来たのだ。
そっと視線を上げて、その先生の顔を見る。
困ったような、それでいて優しく微笑む先生の顔は、本当に息を呑むほど綺麗な顔だった。
「いえいえ~、助かったって言ってました。それじゃあ、また」
門まで送ってもらって、手を振るおばさんに軽く会釈をして帰路に着いた。
明後日で春休みも終わるという大事な日に、家でゴロゴロしていたら、叔母さんのところに荷物を届けて来いと羊羹を渡された。
以前、急きょ着物が必要になったとかで、それを叔母から借りたのだそうだ。
その着物は既にクリーニングに出して返したのらしいが、そのままお返しもしていない事が気になっていたらしい。
せっかく出て来たんだから、利一でも誘おっかなあ。
ポケットに手を突っ込んで、手が止まる。慌てて胸やら腰やらパタパタ叩いた。
無い! どこにも無いぞ、俺のスマホ!
あ~、忘れて来たんだ……。
あんの、ばばぁ。早く行けって急かすから!
しょーがない。利一を誘うのは諦めよう。
気を取り直して、適当にぶらぶらしながら帰ろうと考え直した。
そしてふと思いつく。
魔が差したのか何なのか、少し寄り道したら俺の通っている中山高校があることに気が付いて、ちょっと寄ってってみようかなと思ったんだ。
時間的には、まだ3時頃だろう。
グラウンドでは野球部やサッカー部が、部活に勤しんでいた。
俺は、そのまま2年に割り当てられれている校舎へと入った。休みなので誰も居ず、シンとしている。暇人な俺は、階段を上がって2階へと足を進めた。
「……、……です。……て、……さい」
え?
誰もいないと思っていたのに、向こうの教室から小さく声が聞こえて来た。
焦ったような、困ったような声音だ。俺は何だか気になって、その声の聞こえてくる方に向かって静かに歩を進めた。
「すみません……。ダメです、困ります」
硬質だけど透明感のある涼やかな声が、今度はハッキリと聞こえて来た。2年3組の前だ。
中に人が居る気配もする。俺は、慎重にガラス越しに中を窺い見た。
げっ……!
あれって、体育の浜中じゃん。
浜中が、男の先生に言い寄ってる!
あっけに取られて見ていると、浜中が相手の先生の腕を強引に引き寄せようとしている。
困って眉根を寄せているその表情は、息を呑むほど色っぽかった。
傍で見ている俺がそう思うくらいだ。おそらく浜中も、余計に勝手に煽られたのだろう。鼻息を荒くして、さらに先生に近づいていく。
それを見た途端、俺の中で、何かがぷちっと切れた。
あの先生を助けなきゃ!
そう思った俺は、ガラッと勢いよく戸を開けた。
「先生! やっと見つけました! 俺に教えてくれるって約束、忘れてませんよね!」
突然現れた俺に、浜中は仰天したようだ。掴んでいたもう一人の先生の腕を突き放すように離して、飛び退いた。
「な、な、なんだお前! 呼んで無いぞ。何でここに居る!?」
「あれ? 浜中先生も居たんだ? 先生こそ、こんなとこで何してんですか?」
俺は、わざと怪訝な顔を作って、然も不思議だと思っているというように演技した。
浜中も、それにはかなりたじろいだようで、「何でもない! じゃあ、紫藤先生お先に」と言って、慌てて教室を出て行った。
はあ……。
何だか肩の力が抜けた。思わず助けなきゃと飛び込んだのだけど、我に返ると自分の咄嗟の行動に心底感心してしまっていた。
素直に言えば、この先生の困った顔に、はじかれたように動いてしまったという事なんだろうけど。
「きみ……」
呼ばれて、ピクリとした。
綺麗で硬質で涼やかな声が、間近から聞こえて来たのだ。
そっと視線を上げて、その先生の顔を見る。
困ったような、それでいて優しく微笑む先生の顔は、本当に息を呑むほど綺麗な顔だった。
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