俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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新しい関係

期待と緊張

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ピザを頬張り、サラダとスープも堪能して、満福でいい気分だ。

「美味しかった! ごちさうさまー。たまにはこういう夕飯もいいな!」
「ご馳走様。ああ、たまにはな」
「ん?」
「……いや、美味いは美味いんだが、……尚哉が飯作って、それを食べてる時の方が幸せ度は上かなと思ったんだよ」
「…………!!」

や、やっぱり……!
灰咲さんがいつもと違うっっ!
いや、一緒かもしれないけど糖度が高いだろ!!

ぽっぽと熱くなった顔で、灰咲さんをおずおずと見た。
目が合って、……目が合った灰咲さんが可笑しそうに笑った。

「ほら、来いよ」

グイッと引き寄せられて、灰咲さんに背後から抱きしめられる格好で座らされた。背中からじわじわと温かさがしみ込んできて、体温が上昇する。
その温かさと背中にピタリと密着する灰咲さんの感触が、嬉しくて恥ずかしくてドキドキした。

……不思議だ。
同じ状況でも、ただ人が違うだけで、こんなにも湧き出る感情が違うものなんだ。

背後から俺の腹の前に回っている灰咲さんの両手に、俺の両手を重ねた。
一瞬ピクンと動いた彼の手が、さらにキュッと力を込めて抱きしめる。

……気持ちいいや。

ドキドキするけど、恥ずかしいけど、灰咲さんの腕の中はやっぱり俺が一番安心してくつろげる場所だ。
お腹いっぱいの安ど感も伴って、俺の瞼が段々と重くなってきた。

うん、幸せ……。




「……哉、尚哉」

揺さぶられ、ペチペチと頬を軽くたたかれた。

「……ん~」

ぼんやりと目を開けると、背後から至近距離で灰咲さんが覗き込んでいる。

「眠くなっちまったか? ……今日、バイトは忙しかったのか?」
「あ~、ううん。……そんなことないよ。なあに?」

俺は、よいしょと向きを変えてソファに乗りあがり、灰咲さんと真正面から抱き合うような形でしがみ付いた。
へへっ。

「……そろそろ、風呂にしようかと思ったんだが」
「ああ、うん……。そうだねー」
「……しょうがねーなあ、もう」

灰咲さんは呆れ声だったけど、それでも無理やり俺を剥がすことは無かった。
だから俺は、しっかり目が覚めるまで灰咲さんに抱き付いて、その体温を味わっていたんだ。



☆☆☆☆☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆☆☆☆☆☆



「……上がったぞ。入れよ」
「うん」

灰咲さんが風呂から上がって来た。今度は俺が入れ替わりに浴室へと向かう。

……うん、なんか緊張してきた。

ザッとお湯を被って、モコモコに泡立ったボディタオルで体を擦る。
腕や胸を擦りながら、緊張のあまりため息が零れた。

こんな緊張感って初めてだ。
だって、今まで経験してきた怖いとか嫌だとかそういうネガティブな冷や汗の出る緊張感じゃなくて、期待と不安と恥ずかしさと……、幸せの中にちょっとだけ恐怖感のようなものが入り混じった微妙でどこか疼きを伴った緊張感なんだ。

……ううう。モゾモゾするよぉ。

だけど。

『ずっと我慢してた』


ほうっ…とため息が零れる。

俺だけじゃなかったんだ。
恋焦がれて戸惑って我慢していたのは。

ぽちゃんとお湯につかり数を数えた。
百数えたら、灰咲さんの下に行くんだと、そう思いながら。
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