俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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これが初恋

告白 2

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そんな御座なりな態度が何となく気に入らなくて、俺の中で変なスイッチが押されてしまった。
ムギュッと灰咲さんに抱き付いて、捲し立てた。

「俺は灰咲さんのことが好きなんだよ! 灰咲さんのことを誰かが好きだって分かったら、凄くモヤモヤして嫉妬するし、灰咲さんのキスが俺をあやすためのものだって言われたときは凄い凹んだし! だって俺、あんなに緊張して……もっとして欲しいって思ったことなんて今までただの一度だって無いんだもの!!」

「尚哉……」
「……俺、灰咲さんに惹かれてるのは分かってたんだけど、それがどういう類の物なのかだなんてちゃんと分かって無かった。恋愛なんてしたことなかったし……。だけど……」

だけどさっき望月さんにキスをされ、灰咲さんの相変わらずの御座なりな態度に切れたことで、唐突にその違いに気づいてしまった。
他の誰かに慰めのためだけにキスをされたとしても腹は立たないけど、灰咲さんにされるのは嫌だ。
灰咲さんには、俺を求めて欲しい。俺のことが好きだから、だからキスをしたい抱きしめたいって……、そんな風に思って欲しいんだ。

「灰咲さんは……、俺のことどう思ってるんだよ……。放っておけない弟みたいだって思ってるんなら……、俺……」

諦めるしかないのか? 
俺、どうしたらいいんだよ……。

抱き付いている灰咲さんから少し体を離して、顔を見上げた。怖いけど、もうちゃんとした返事が聞きたくて。

「……灰咲さん?」

見上げた灰咲さんの顔は、とても苦しそうなものだった。

「尚哉……」

今度は逆に灰咲さんが、俺の両腕をしっかりとつかんで俺の目をじっと見つめた。そして重い口を開いていく。

「俺は……、自分のことを何一つ尚哉に話していないよな」
「……あ、うん。……画家だってことだけしか……。あ、でもその、朱里さんから灰咲さんのご両親が既に亡くなっているってことは聞いちゃったけど」

「そう……か。尚哉」
「はい」

余りにも真剣な様子で名前を呼ばれたものだから、つい俺は変に丁寧に返事を返してしまった。そんな俺に灰咲さんは苦笑した。
そして敢えて、姿勢を崩してから話を続けた。

「――俺の出生も、あまり褒められたものじゃないんだ。それに……、俺自身がそれを受け入れることが嫌で嫌で仕方がなかった。引き止めるものもいたんだが、俺が潔く何もかもを捨てる覚悟をしていることを知った人が、俺を快くその枠から放り出してくれたんだ」

そこまで話して、灰咲さんは一つ息を吐いた。

「だけど、……やむを得ない理由でその人に少し借りを作ってしまった」

灰咲さんは、とても苦しそうな表情だ。まるで絶対にしてはいけないことをしてしまったと思っている……そんなような表情だった。
きっとその借りというものは、随分躊躇して悩みに悩んでの末のことだったんだろう。

「後悔……、してるの?」
「いや、それは無い。むしろその借りを作っていなければ、その方こそ後悔しているに違いないんだ」
「そうなんだ……」

余りにも毅然とした表情で言うものだから、こっちの方が呑まれてしまった。
いったい、灰咲さんの言う借りって、何なんだろう。

「――少し待っててくれるか?」
「……え?」
「――ずっと黙っていたし、言うつもりも無かったんだが……」

そこでまた言葉を区切って、少し灰咲さんは黙った。
そして決心するように少し息を吐いて、俺に視線を戻した。

「俺も尚哉のことが好きだ。愛しいと思うし……、出来ればずっと俺が守ってやりたい。他の誰にもやりたくなんて無いんだ」
「灰……咲さん……。それ……恋とか愛とか……、そういう感情……?」
「当たり前じゃないか」

そう言って灰咲さんは初めて自分からサングラスを投げ捨てて、俺を引き寄せ唇を重ね合わせた。

――あ……。

キス……だよね?
おまじないでもなんでもない、俺は今本当の……、キスをされている。
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