76 / 97
これが初恋
告白 2
しおりを挟む
そんな御座なりな態度が何となく気に入らなくて、俺の中で変なスイッチが押されてしまった。
ムギュッと灰咲さんに抱き付いて、捲し立てた。
「俺は灰咲さんのことが好きなんだよ! 灰咲さんのことを誰かが好きだって分かったら、凄くモヤモヤして嫉妬するし、灰咲さんのキスが俺をあやすためのものだって言われたときは凄い凹んだし! だって俺、あんなに緊張して……もっとして欲しいって思ったことなんて今までただの一度だって無いんだもの!!」
「尚哉……」
「……俺、灰咲さんに惹かれてるのは分かってたんだけど、それがどういう類の物なのかだなんてちゃんと分かって無かった。恋愛なんてしたことなかったし……。だけど……」
だけどさっき望月さんにキスをされ、灰咲さんの相変わらずの御座なりな態度に切れたことで、唐突にその違いに気づいてしまった。
他の誰かに慰めのためだけにキスをされたとしても腹は立たないけど、灰咲さんにされるのは嫌だ。
灰咲さんには、俺を求めて欲しい。俺のことが好きだから、だからキスをしたい抱きしめたいって……、そんな風に思って欲しいんだ。
「灰咲さんは……、俺のことどう思ってるんだよ……。放っておけない弟みたいだって思ってるんなら……、俺……」
諦めるしかないのか?
俺、どうしたらいいんだよ……。
抱き付いている灰咲さんから少し体を離して、顔を見上げた。怖いけど、もうちゃんとした返事が聞きたくて。
「……灰咲さん?」
見上げた灰咲さんの顔は、とても苦しそうなものだった。
「尚哉……」
今度は逆に灰咲さんが、俺の両腕をしっかりとつかんで俺の目をじっと見つめた。そして重い口を開いていく。
「俺は……、自分のことを何一つ尚哉に話していないよな」
「……あ、うん。……画家だってことだけしか……。あ、でもその、朱里さんから灰咲さんのご両親が既に亡くなっているってことは聞いちゃったけど」
「そう……か。尚哉」
「はい」
余りにも真剣な様子で名前を呼ばれたものだから、つい俺は変に丁寧に返事を返してしまった。そんな俺に灰咲さんは苦笑した。
そして敢えて、姿勢を崩してから話を続けた。
「――俺の出生も、あまり褒められたものじゃないんだ。それに……、俺自身がそれを受け入れることが嫌で嫌で仕方がなかった。引き止めるものもいたんだが、俺が潔く何もかもを捨てる覚悟をしていることを知った人が、俺を快くその枠から放り出してくれたんだ」
そこまで話して、灰咲さんは一つ息を吐いた。
「だけど、……やむを得ない理由でその人に少し借りを作ってしまった」
灰咲さんは、とても苦しそうな表情だ。まるで絶対にしてはいけないことをしてしまったと思っている……そんなような表情だった。
きっとその借りというものは、随分躊躇して悩みに悩んでの末のことだったんだろう。
「後悔……、してるの?」
「いや、それは無い。むしろその借りを作っていなければ、その方こそ後悔しているに違いないんだ」
「そうなんだ……」
余りにも毅然とした表情で言うものだから、こっちの方が呑まれてしまった。
いったい、灰咲さんの言う借りって、何なんだろう。
「――少し待っててくれるか?」
「……え?」
「――ずっと黙っていたし、言うつもりも無かったんだが……」
そこでまた言葉を区切って、少し灰咲さんは黙った。
そして決心するように少し息を吐いて、俺に視線を戻した。
「俺も尚哉のことが好きだ。愛しいと思うし……、出来ればずっと俺が守ってやりたい。他の誰にもやりたくなんて無いんだ」
「灰……咲さん……。それ……恋とか愛とか……、そういう感情……?」
「当たり前じゃないか」
そう言って灰咲さんは初めて自分からサングラスを投げ捨てて、俺を引き寄せ唇を重ね合わせた。
――あ……。
キス……だよね?
おまじないでもなんでもない、俺は今本当の……、キスをされている。
ムギュッと灰咲さんに抱き付いて、捲し立てた。
「俺は灰咲さんのことが好きなんだよ! 灰咲さんのことを誰かが好きだって分かったら、凄くモヤモヤして嫉妬するし、灰咲さんのキスが俺をあやすためのものだって言われたときは凄い凹んだし! だって俺、あんなに緊張して……もっとして欲しいって思ったことなんて今までただの一度だって無いんだもの!!」
「尚哉……」
「……俺、灰咲さんに惹かれてるのは分かってたんだけど、それがどういう類の物なのかだなんてちゃんと分かって無かった。恋愛なんてしたことなかったし……。だけど……」
だけどさっき望月さんにキスをされ、灰咲さんの相変わらずの御座なりな態度に切れたことで、唐突にその違いに気づいてしまった。
他の誰かに慰めのためだけにキスをされたとしても腹は立たないけど、灰咲さんにされるのは嫌だ。
灰咲さんには、俺を求めて欲しい。俺のことが好きだから、だからキスをしたい抱きしめたいって……、そんな風に思って欲しいんだ。
「灰咲さんは……、俺のことどう思ってるんだよ……。放っておけない弟みたいだって思ってるんなら……、俺……」
諦めるしかないのか?
俺、どうしたらいいんだよ……。
抱き付いている灰咲さんから少し体を離して、顔を見上げた。怖いけど、もうちゃんとした返事が聞きたくて。
「……灰咲さん?」
見上げた灰咲さんの顔は、とても苦しそうなものだった。
「尚哉……」
今度は逆に灰咲さんが、俺の両腕をしっかりとつかんで俺の目をじっと見つめた。そして重い口を開いていく。
「俺は……、自分のことを何一つ尚哉に話していないよな」
「……あ、うん。……画家だってことだけしか……。あ、でもその、朱里さんから灰咲さんのご両親が既に亡くなっているってことは聞いちゃったけど」
「そう……か。尚哉」
「はい」
余りにも真剣な様子で名前を呼ばれたものだから、つい俺は変に丁寧に返事を返してしまった。そんな俺に灰咲さんは苦笑した。
そして敢えて、姿勢を崩してから話を続けた。
「――俺の出生も、あまり褒められたものじゃないんだ。それに……、俺自身がそれを受け入れることが嫌で嫌で仕方がなかった。引き止めるものもいたんだが、俺が潔く何もかもを捨てる覚悟をしていることを知った人が、俺を快くその枠から放り出してくれたんだ」
そこまで話して、灰咲さんは一つ息を吐いた。
「だけど、……やむを得ない理由でその人に少し借りを作ってしまった」
灰咲さんは、とても苦しそうな表情だ。まるで絶対にしてはいけないことをしてしまったと思っている……そんなような表情だった。
きっとその借りというものは、随分躊躇して悩みに悩んでの末のことだったんだろう。
「後悔……、してるの?」
「いや、それは無い。むしろその借りを作っていなければ、その方こそ後悔しているに違いないんだ」
「そうなんだ……」
余りにも毅然とした表情で言うものだから、こっちの方が呑まれてしまった。
いったい、灰咲さんの言う借りって、何なんだろう。
「――少し待っててくれるか?」
「……え?」
「――ずっと黙っていたし、言うつもりも無かったんだが……」
そこでまた言葉を区切って、少し灰咲さんは黙った。
そして決心するように少し息を吐いて、俺に視線を戻した。
「俺も尚哉のことが好きだ。愛しいと思うし……、出来ればずっと俺が守ってやりたい。他の誰にもやりたくなんて無いんだ」
「灰……咲さん……。それ……恋とか愛とか……、そういう感情……?」
「当たり前じゃないか」
そう言って灰咲さんは初めて自分からサングラスを投げ捨てて、俺を引き寄せ唇を重ね合わせた。
――あ……。
キス……だよね?
おまじないでもなんでもない、俺は今本当の……、キスをされている。
11
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる