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ノエル
初詣に行こう♪ 8
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「尚哉、こっち」
参拝を済ませてもう帰るのかなと思ったら、灰咲さんに違う方向に引っ張られた。
(参拝の時に離れていた手は、また繋がってるよ♪)
「おみくじ引いて行こう」
「あ、うん!」
実物は手にしたことは無いけど、これは聞いたことがある。確か、一年の吉凶を占えるものなんだよな?
「ほら、ここに手を突っ込んで一枚引いてみろ」
さっさと二人分のおみくじ代を払った灰咲さんに急かされて、言われた木箱のような中に手を突っ込み、さんざん漁った後、一つを選んで取り出した。
続いて灰咲さんも一枚取り出した。
俺の手には、小吉。灰咲さんの手には吉のおみくじ。
「小吉って、小さな吉って事?」
「だろ? 俺は普通に吉だな」
「ふう~ん。どうせならもっと最上級の吉を引きたかったな」
おみくじの中身を読みながら、軽く愚痴る。そんな俺に灰咲さんが笑った。
「考え方は、それぞれだけどな。大吉なんて引いたら、その年が最高で後は落ちるだけだっていう説もあるぞ?」
「え? そうなの?」
「ああ、だから小吉の方が縁起が良いかもしれないぞ?」
「……ホントかなー?」
……ええっと、健康、飽食は凶。足るを知るべし。……なんだ、これ。
次は恋愛、身近な人があなたを思っています。心を開いて吉。
……身近な人。
そろりと灰咲さんの顔を窺う。
「あーっ!! 灰咲さん!」
「なんだ! 急に大声出すな!」
突然叫んだ俺に、心底驚いたように灰咲さんが胸に手を当てた。
「だって! 参拝する前にサングラス外すんじゃなかったの?」
「……ああ、そう言えばそんなことを言ったな」
「もう―! 今からでも遅くないよ。外したら?」
「……もう帰るだけだ。いいだろ、そんなこと。さ、行くぞ」
「ええ~?」
「いいから、来い。お前、酷い目にも遭っただろ。大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫」
「……本当か?」
「うん、本当」
こんなことを言ったら灰咲さんがまた俺に同情してしまいそうだから言わないけど、あれくらいの暴力なんて大したことは無い。だって、灰咲さんの元に来る前の俺は、あれよりも酷い目にだって何度も遭っているんだ。
「……でも、もう眠いだろ?」
「え? あー、うん。今日は、大丈夫みたい」
「いい加減な奴だな。……俺は、ちょっと疲れた。ホラ、来い。帰るぞ」
ぶうぶう駄々を捏ねる俺の手を取り、また手を繋いだ状態で灰咲さんが俺を引っ張って行く。
まばらにある外灯が、俺たちの寄り添った影を長く作っていた。
……ああ。なんか、いいなこれ。
ずっとこうやって、俺の事引っ張って行ってくれないかなあ……。
もしかしたらやっぱり、俺の頭は少し寝ぼけていたのかもしれない。
お花畑のような思考に陥りながら、俺は灰咲さんに引かれるように家までの道のりをまたひたすら歩いた。
そして、俺が灰咲さんの家で初めて迎えた元日は、ダラダラと、ただダラダラと過ごすだけの一日となった。
参拝を済ませてもう帰るのかなと思ったら、灰咲さんに違う方向に引っ張られた。
(参拝の時に離れていた手は、また繋がってるよ♪)
「おみくじ引いて行こう」
「あ、うん!」
実物は手にしたことは無いけど、これは聞いたことがある。確か、一年の吉凶を占えるものなんだよな?
「ほら、ここに手を突っ込んで一枚引いてみろ」
さっさと二人分のおみくじ代を払った灰咲さんに急かされて、言われた木箱のような中に手を突っ込み、さんざん漁った後、一つを選んで取り出した。
続いて灰咲さんも一枚取り出した。
俺の手には、小吉。灰咲さんの手には吉のおみくじ。
「小吉って、小さな吉って事?」
「だろ? 俺は普通に吉だな」
「ふう~ん。どうせならもっと最上級の吉を引きたかったな」
おみくじの中身を読みながら、軽く愚痴る。そんな俺に灰咲さんが笑った。
「考え方は、それぞれだけどな。大吉なんて引いたら、その年が最高で後は落ちるだけだっていう説もあるぞ?」
「え? そうなの?」
「ああ、だから小吉の方が縁起が良いかもしれないぞ?」
「……ホントかなー?」
……ええっと、健康、飽食は凶。足るを知るべし。……なんだ、これ。
次は恋愛、身近な人があなたを思っています。心を開いて吉。
……身近な人。
そろりと灰咲さんの顔を窺う。
「あーっ!! 灰咲さん!」
「なんだ! 急に大声出すな!」
突然叫んだ俺に、心底驚いたように灰咲さんが胸に手を当てた。
「だって! 参拝する前にサングラス外すんじゃなかったの?」
「……ああ、そう言えばそんなことを言ったな」
「もう―! 今からでも遅くないよ。外したら?」
「……もう帰るだけだ。いいだろ、そんなこと。さ、行くぞ」
「ええ~?」
「いいから、来い。お前、酷い目にも遭っただろ。大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫」
「……本当か?」
「うん、本当」
こんなことを言ったら灰咲さんがまた俺に同情してしまいそうだから言わないけど、あれくらいの暴力なんて大したことは無い。だって、灰咲さんの元に来る前の俺は、あれよりも酷い目にだって何度も遭っているんだ。
「……でも、もう眠いだろ?」
「え? あー、うん。今日は、大丈夫みたい」
「いい加減な奴だな。……俺は、ちょっと疲れた。ホラ、来い。帰るぞ」
ぶうぶう駄々を捏ねる俺の手を取り、また手を繋いだ状態で灰咲さんが俺を引っ張って行く。
まばらにある外灯が、俺たちの寄り添った影を長く作っていた。
……ああ。なんか、いいなこれ。
ずっとこうやって、俺の事引っ張って行ってくれないかなあ……。
もしかしたらやっぱり、俺の頭は少し寝ぼけていたのかもしれない。
お花畑のような思考に陥りながら、俺は灰咲さんに引かれるように家までの道のりをまたひたすら歩いた。
そして、俺が灰咲さんの家で初めて迎えた元日は、ダラダラと、ただダラダラと過ごすだけの一日となった。
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