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ノエル

もう一人じゃない

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バタンと遠くで音がしたような気がした。
そしてそれに続いて遠くから誰かが俺の名前を呼んでいて、それが段々と近づいてくる。

「起きろ、尚哉!」
「……え? な、何?」

余程大声で俺の名を呼び続けていたんだろう。寝入っていた俺は、意識を急激に浮上させられたせいで頭がぼんやりとして、気分が悪かった。

ボーッとする俺に業を煮やしたのか、パチンと俺の両頬を灰咲さんが挟むように叩いた。

「な、何すんだよ、いきなり!」
「バカヤロー! 出てくんならちゃんと行き先を書いて行け! 心配するだろーが!!」

唖然とする言葉。
あんなに邪険にしておいて、何て言い草だよ。

……だけど。

灰咲さんの額には大粒の汗。
こんな寒い中、こんなに汗を掻いているという事は、きっと俺を探して走り回ってくれていたからだ。

「ご……、ごめんなさい」

驚くほど素直に、俺の口から謝りの言葉が滑り落ちた。

「――分かればいい」

怒りをかみ殺しているような声だ。
灰咲さんは昂っている神経を落ち着かせるように、フーッと軽く息を吐いた。

「帰るぞ」
「……うん」

ベッドから降りて仮眠室を出ると、店長が苦笑いをして待っていた。

「先ほどは失礼しました」
「いやいや、保護者の立場なら心配して当たり前ですよ」
「店長、あの、休ませてくれてありがとうございました」
「構わないよ。それより、明日はいつも通りだからよろしくね」
「はい」
「じゃあ、失礼します」

2人で店長に見送られて店を出た。


外はシンと冷えている。
だけどそこかしこに見えるイルミネーションのおかげで、真っ暗では無かった。
俺が灰咲さんと見たいと思っていた通りに比べると、かなりまばらで貧相だけど。


……あれ?

足早に歩く灰咲さんの後を、俺も早歩きで追いかけているのだけど。
灰咲さんの歩いていく行き先が、家に帰るにしては大回りだ。

首を傾げながらついていく俺の目に、だんだんと煌びやかな光の洪水が近づいてきた。

あ、ここ。
行きに俺が、灰咲さんと見たいと思っていたあの通りだ。

煌びやかな洪水の中には、こんな時間だというのにまだ人が歩いている。中にはイルミネーションを楽しみながら、離れがたく話し続ける高校生らしき奴らまでいた。

微笑ましいよなぁ。

「…………」

……俺、やっぱり変わったよな。

去年まではああいう奴らを目の前にすると、心の中で悪態を吐いたり見ないふりをする事ばかりを考えてた。……淋しかったから。

だけど。

俺の前を颯爽と歩く、この怖くて優しい人が、俺の心の中を変えてしまった。

「綺麗だよな」

ポツリと灰咲さんが、まるで独り言のように話しかける。

「うん……。凄く綺麗」

だから俺も、小さな声で独り言のように返事を返した。
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