俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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ノエル

灰咲さんのサングラス

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「うっそみたい。採用だって! 明日から来てくれって!」
「良かったな」
「うん!」

俺のバイトが決まって最初は少し心配そうにはしていたけど、オーナーともちゃんと話をしてくれて、結果灰咲さんは、「尚哉をよろしくお願いします」と言ってくれた。
ただ、灰咲さんは俺の身バレを警戒しているようで、接客に出ることは無いのかを確認していた。

余りにもソレを気にする灰咲さんに、オーナーも俺が訳ありな事を察したようで、その理由を聞かれてしまった。一瞬それに息をのんだ俺だけど、灰咲さんは動じずその理由を伝えてオーナーを納得させていた。

「……それにしても俺がストーカー被害に遭ったことがあるだなんてさ。よくスルッと、あんな言い訳出て来たよな」

「いいだろ? それで納得してもらえたんだから。まあでも、キッチンは奥の仕事が主だし、だからよほど店が忙しくない限りは接客やテーブルの片づけはしないでいいことになってるって言ってくれただろ? 俺としては、そう言ってもらえただけでも安心できた」

「うん、それは俺も」
「たとえ低い確率でも、リスクは最小限に抑えた方が良いからな」

思えば、あの時灰咲さんがサングラスを外したのは、俺の印象を悪くしないようにという灰咲さんなりの配慮だったんだろう。

――常識、あったんだなあ。
ちょっと驚いちゃった。

……なんて言うと失礼かもしれないけど。

だってさ、寝る時と顔洗う時と(歯磨きの時もサングラス掛けてる!)風呂に入る時以外はずっとサングラス掛けてんだぞ?
夜道をその格好で歩いている人間なんて、どう見たって普通じゃないじゃん!

目の前には、美味しそうにぶり大根を頬張る灰咲さんの姿。
もちろん、もうトレードマークとしか言いようのないサングラスも掛ったままだ。

まあいいか。
だって、俺の為に普段は掛けっぱなしのサングラスを取ってくれたんだもの。


いつか、家に居る時だけでもそのサングラスを普通に外してくれる時が来るといいな。

そんな事を思いながら、俺もぱくりと大根を口に放り込んだ。
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