俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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ノエル

冬は嫌いだったんだ

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望月さんが店に俺のことを通告する気はやはり無かったようで、彼が現れてからだいぶ経った今でも俺はそのままいつも通りに暮らせている。
誰も変な人は訪ねてこないし、誰かに付け狙われている気配だってない。

なんだけど、あれ以来灰咲さんは、俺が出かける際は出来るだけついて来ようと思っているみたいだ。

「ねえ、灰咲さん」
「なんだ?」
「たまには少し寄り道とかしてみない?」
「ああ? お前、1人で買い物に行ってるときは勝手気ままにほっつき歩いてたのか?」

ギクッ。

「ち、違うよ! そうじゃなくてっ。灰咲さんだって、気分転換とか必要だろ? こないだ言ってたじゃないか。飲みに行くことで何かに刺激されてアイデアが湧くって。俺も灰咲さんと散歩とか、いいかなって思ったし……」

「……しょうがないな。で? どんなところに行ってみたいんだ?」
「え!? リクエスト、あり?」
「なんだ? そんなに行きたいとこが沢山あるのか?」
「そうじゃなくて! 行ったことのない通りに出てみたい。えーっと、表通りの華やかなとことか!」
「……華やかねぇ。電車にでも乗るか?」
「え? そんなに離れたとこじゃなくてもいいよ。あまり遠くに行くと、灰咲さんの仕事の邪魔になるでしょ? 近いところで一番賑やかなところでいいよ」

俺がそう言うと、灰咲さんは少し考えて、俺を誘導してくれた。

歩くこと三十分少々。大通りに面した道路に出た。
通りには、何件かブランドショップのような店があった。
クリスマスが近いせいか、電飾が幾らか飾られていて華やかな雰囲気か演出されている。

「おいおい、危ないぞ」

キョロキョロ辺りを見回しながら歩いていたら、人にぶつかりそうになった。慌てて灰咲さんが俺の腕を引っ張る。

「あ、ごめ……」

振り返った俺の目に、大きなガラスで仕切られたシックで高そうな店が飛び込んできた。店の名前は横文字で、なんと読むのか分からない。

「高そうな店だなぁ」

通りから見えるように飾られている、マネキンに着せられているコートがカッコイイ。

「どうした?」

立ち止まってショーウィンドウから目を離さない俺に気づいた灰咲さんが、近くに寄って来た。

「あ、いや。格好いいコートがあるなーって」
「どれ。……なるほど」

キャメル色のグレートコート。
見た目もカッコイイが、値段もかなりのものだ。
ウールって書かれているから、それで高いんだろうか?
それともブランドものだから?

それにしても――

「こんな高いもの、簡単に買える奴っているんだよな。……一度着てみたいなぁ」
「…………」

「あ、そろそろ買い物行かなきゃだよね? いこっか」
「ああ」
「ねえ、灰咲さん、今日は何食べたい?」
「……ぶり大根」
「また? 好きだねー灰咲さん」
「嫌なら筑前煮」
「大丈夫、大丈夫。嫌だなんて言ってないだろ? ……和食、好きなんだね」
「ああ。……特に尚哉の料理は俺の舌に合ってるから、何食べても美味しく感じる」
「…………」

なに?
なに突然爆弾なんて落としちゃってるの?
なんか、めっちゃうれしいんですけど!

も、もしかして……、知らないうちに餌付け成功……している?

「なんだ?」
「あ、ううん! 何でもない! いいブリがあるといいねー」
「ああ。……照り焼きも良いかもしれん」
「ハハ。じゃあいいブリカマがあったらぶり大根にしよう。切り身だけなら照り焼きな!」
「おう。楽しみだ」

木枯らしが吹き始めて、冬の気配を感じる。
寒々とした夕暮れなんて、俺は大っ嫌いだった。

寒いと、独りぼっちだってことを痛感して、辛い気持ちや不幸だと思う気持ちがグサグサと俺に突き刺さるから。


なのに今は、――今年は寒さも風さえも心地よく感じている。
傍に信頼できる誰かがいるという事が、こんなにも力強いものなんだって、やっぱりこれも灰咲さんが知らないうちに教えてくれたことだった。
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