俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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向き合わされる感情

逃げないで

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「疲れた、風呂入ってくる」
「灰咲さん!」

上着を脱いで、風呂に行こうとする灰咲さんの腕を強引にとった。
今逃げられたら、必死に決心した向き合おうって気持ちが萎えちまう。
そんなんじゃ絶対だめだもの!

「話が合って待ってたんだ。風呂は後にしてよ! ……て、お酒飲んできたの?」
「――少しな。大したことない量だ」

灰咲さんがお酒を飲んでるところなんて見たことないから分からないけど、確かに酔った風情は無いし大した量じゃないかもしれないけど……。
……もしかして、普段そんなにお酒なんて飲もうとしないくせに、毎晩毎晩そうやってお酒を飲みに行ってたってこと……?

そんなに俺の傍に居るのが苦痛だった……?

知らないうちに灰咲さんを捕まえる腕の力が強くなる。

「……? 尚哉?」

訝し気に名前を呼ばれてハッとした。だけど放す気は無い。

「……気持ち悪い? 俺と一緒に居るのが……、嫌なの? 灰咲さん……」

腕をギュウッと掴んで絞り出すように聞く俺に、灰咲さんは驚いたようだつた。
ピクリと体を揺らして、俺の方を見ている。

ああ、やっぱそうなの?
……そうなんだ?

「……図星?」
「……っ! バカ野郎!! そんなことあるか!!」

「……!?」

びっくりした。
びっくりし過ぎて呼吸が止まるかと思った。
……てか、苦しすぎて息がしづらい。

「そんな……、わけ……あるかっ」
「灰咲さん……」

灰咲さんの腕が、俺の背中に回っている。
強く、これでもかと言うくらいに強く、俺の体を抱きしめている。

背中を抱き寄せる腕と、首裏と後頭部を支える力強い腕のせいで、俺の体はまるで磁石に吸い寄せられる鉄のように、灰咲さんの体にぴったりと密着していた。

……あ、え?
えっと、ちょっと……これって……。

望月さんに抱き寄せられた時とは明らかに違って、嬉しいと思う気持ちがじわじわと沸き起こってくる。
体が熱いし……、なんだかちょっと不味い気が……。
何だろ、これ。凄く凄く恥ずかしいんだけど。

「は……、灰咲さん……」

もっと引っ付いてはいたいけど、恥ずかしさとモゾモゾし始めた変な気持ちが居た堪れなくて、灰咲さんのシャツをギュッと引っ張った。
俺のその仕草に、灰咲さんはハッとしたように俺の体を離した。

あ……。

やっぱ、もうちょっと引っ付いていたかったかも……。

名残惜しいなと思ったけど、大人しく離れてそっと灰咲さんを見上げた。
灰咲さんは俺の両肩に手を置いて、ハアッと一つため息を吐いた。
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