俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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向き合わされる感情

中途半端で終わるなよ!

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望月さんがいなくなってホッとして、脱力する俺の目に飛び込んできたのは買って来た野菜や缶詰たち。庭にばらけられたままになっているのを慌てて拾った。
隣では灰咲さんもフーッと息を吐いて脱力し、頭を掻いた後俺に並んで一緒にジャガイモたちを拾ってくれた。

しっかり落としちゃったからな―、ジャガイモが傷になっている。ジャガイモだけじゃないけど……。

それにしても望月さんも人が悪いよ。何も急にあんな風に羽交い絞めになんてしなければ、荷物を落とすことも無かったのに。

「……これで全部だろ。家に入るぞ」
「あ、うん」

なんとなーく微妙な雰囲気を引きずったまま、俺たちは不自然に野菜を抱っこして家の中に入った。


「尚哉」

傷んだものは先に使おうと出しておいて、その他の食材は冷蔵庫や棚に仕舞った。ひと段落ついたのを見た灰咲さんが、リビングから俺を呼んだ。

「……なに?」

「――さっきの、望月とかいう奴……、店の人間なんだよな? なんだか嫌にお前に執心していたみたいだが……。……関係もあったみたいだけど……、お前、絆されて戻ろうなんて考えるなよ」

「そ、そんなこと考えてなんか無いよ! ……それに、あの、ソレに関してだって、あの頃の俺の生活は異常だったから……、そんな優しさでも、……俺には必要だったんだよ」

そうだ。
正常な今なら異常で馬鹿げて情けない行為だと思えることも、あの時の俺には、そんな薄っぺらい優しさでも受け入れてしまえるほど、心は死んでいろんなことに麻痺していた。

「望月さんだけだったんだ。俺のこと、いろいろ考えてくれたのは……」

それが本当の助けにならなくても、あの頃の俺には必要だった。

「お前は、男好きする顔だからな」

はあ?
なに言うの、灰咲さん!
 
灰咲さんの口から、そんな言葉が出てくるなんてすごくショックだ。

「そ、そんなわけあるか! そうじゃなくて……、何もかも忘れたくなる時だってあったんだよ! そういう時に望月さんが気づいてくれて……、だから時々……、だ、抱かれたときもあったわけで……」

「…………」

……?
は、反応なし?

恐る恐る灰咲さんの顔を仰ぐ。仰ぎ見てギョッとした。

灰咲さんを纏うオーラは冷え冷えとして、凄く、凄く怒っていることは明白だ。

スッとソファから腰を上げた灰咲さんは、そのままスタスタとアトリエに向かった。

「俺は仕事する。入るなよ」
「え? ちょっと、灰咲さん!」

これで終わり?
こんな会話で終わりだなんて、ヤだよ!

焦って追いかける俺を無視して、灰咲さんはアトリエのドアをバタンと閉じた。
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