俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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Stop me!

優し過ぎるんだよ…

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近づいてきた灰咲さんが、紐に手を掛け俺の顔を見た。



「尚哉。……お前、食べ終わっても出て行くなんて言わないよな?」
「……言わない」

何だか腹が空いたことに抗えなくて、負けた気がして悔しいけど仕方がない。口を尖らせて不服感たっぷりに返事を返した。

俺のそんな拗ねた様子に灰咲さんはただ楽しそうに笑って、結んでいた紐を外した。

「ほら、席に着け。ご飯、装ってやるから」

そう言って、灰咲さんは俺を席に着かせてから、キッチンに入って行った。今までにない珍しい状況に、ちょっぴり戸惑いつつ大人しく待つ。
そんな俺を、斜め前に座っている朱里さんが複雑な表情で見ていた。

そこに灰咲さんがやってきて、ご飯に味噌汁、卵焼きを俺の目の前に並べてくれた。

「この卵焼きは久しぶりに俺が作った。結構イケルから、心して食え」
「あ、ありがと」

照れ隠しなのか何なのか、ぶっきらぼうな割には大仰な態度だ。
俺は箸を手にして卵焼きを一口サイズに切り分け、パクリと口に放り込んだ。

……うん。美味いよ。
ちょっぴり冷えてしまってるし、普通のなんの変哲もないただの卵焼きだけど……。

「……どうだ?」
「……うん。美味い。とっても美味しいよ」
「――そうか。それは良かった」

サングラスを掛けたままでも分かるくらい、灰咲さんはすごく優しいオーラを出している。それは声の色や態度からもにじみ出ていて、俺を落ち着かなくさせた。

……どうしよう。
本当にこの人は……。

時々、何気ないふとした瞬間に、こんなふうにもの凄く灰咲さんの優しさを感じさせられてしまって、俺は本気でこの人と離れたくないって気持ちに陥っちゃうんだ。


「……ご馳走様」

俺は、食べ終わった食器を片付けようと席を立った。

「尚哉。そこ済んだら、部屋に来い」
「……え?」
「話がある」

「……分かった」

……どうしよう。やだな。

『何で出て行こうとしたんだ?』って聞かれたらどうしよう。
何て言い訳したらいいんだろう。

下手なこと言って、俺が灰咲さんに依存し始めちゃってる事や朱里さんに嫉妬してる事とか知られたら、きっとウザいと思われるだろうに……。

洗い物をしながら、俺は何度もため息を吐いた。
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