俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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Stop me!

警戒し過ぎだろ?

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なんだよ、もう―!!

怒りに任せてドアをバン!と閉じて足早に外に出た俺はため息を吐く。

何なんだろう、このイライラ。
自分のテリトリーだと思っていたところを侵された気分だ。

……だってさ、灰咲さん、迷惑そうな顔はしてたけど朱里さんを振りほどこうとかそんな素振りは一切無かったんだもん。

ハアッとため息を吐き、ハッと気が付いた。

キャップ忘れて来ちゃった!

一瞬迷いはしたけれど、伊達メガネも掛けてるし昔の印象とはかけ離れているから、まあいいかと思い直した。

どうしようかな。
そこらを一周してから家に戻るか?
それとも久しぶりに本屋に寄ってみようか。

家の前で立ち止まって考えていたけど、とりあえず歩きながら考えようと一歩踏み出したところでドスンと人にぶつかった。

「あ、ごめん…っ」

俯いて考え込んでいたから人が歩いてくることに気が付かなかった。咄嗟に謝って脇に寄ろうとしたところを、呼び止められた。

「すまない。ちょっと道を教えて欲しいんだが……」
「はい」

びっくりしたけれど、物腰柔らかく尋ねられて変な警戒心は吹き飛んだ。目の前の人は三十代後半くらいの人だ。どこにでもいるような普通の人で、ラフな格好をしている。今日は休日だから、遊びに出かける途中なんだろう。

「悪いね。慌ててスマホを忘れて来たもんだから……。ええっと、松戸屋って和食のレストランなんだけど」
「松戸屋……?」

この辺にレストランなんてあったっけ?
外食なんてしないから、よくわからないな……。

「確か傍に大手書店があるはずなんだが……」
「……書店。……ああ! あるある! 松戸屋って言うんだ、あそこ。確かにレストランっぽいとこあったよ」
「ああ、よかった! 良ければ案内してくれるかな」
「あ、うん。いいよ」

俺は、どうせ暇だしと松戸屋に向かって歩き出した。するとその人は、俺の肩に手を回して「ありがとう、ありがとう」と言いながらポンポンと叩いた。そしてそのまま俺の肩を抱いたまま歩き続ける。

なんか近すぎないか?とも思ったけど、勘繰り過ぎるのも変かと思い、気にせず無視することにした。

……と、遠くから凄い足音聞こえてきて、それが段々近づいてくる。
ドタドタドタドタ……!
グイッ!!

足音がすぐそばで止んだと思ったら、突然誰かに後ろから羽交い絞めにされて驚いた。びっくりしてその腕を外そうとすると、増々強く締められて苦しい。

「……っ、うぐっ……。く、……苦し……。っな……?」
「おい!! この子をどこに連れて行く気だ! 変な真似すると許さんぞ!!」
「……? へ?」

後ろから俺を羽交い絞めにしているのは、灰咲さん!?

「いや……、俺は……!」

道を聞いてきたこの人も、びっくりした顔をしている。そりゃ、そうだ。道案内を頼んだだけで誘拐犯扱いじゃ、面食らうだろう。

「……ち、違うよ灰咲さん……っ! 道……! 道を聞かれただけだから……!」

とにかくその腕を離してほしくて、未だ締め付けている灰咲さんの腕をパンパンと叩いた。

「……道?」

俺の言葉に誤解が解けたのか、腕を緩めてくれてホッとした。
あー、ホント死ぬかと思った。

それにしてもなんてバカ力だよ!
非難を込めて灰咲さんを見ると、相変わらずのサングラスでその表情は分かり辛いけど、未だに警戒心を解いてないように見えた。

……なんで?

「行き先は?」
「あ、ああ。松戸屋だ」
「……道案内くらい、アプリでも出来そうだが?」
「あ、この人、スマホ忘れたんだって」

俺が知らせてやると、なぜだか灰咲さんは眉間にしわを寄せて俺の方を向いた。
どうやら、『黙ってろ』ってことらしい。はい、はい。

「何か書く物、持ってるか?」
「ああ、それなら……」

相手は鞄を開けて、手帳のようなものを渡した。灰咲さんは、そこにサラサラと地図を書いてその男によこす。

「これ見れば分かるだろ。……気を付けていけ」
「……ありがとう。それじゃ、……君もありがとね」
「あ、うん」

ひらひらと手を振って挨拶をすると、男はニコリと笑って背を向けて歩き出した。

ふーっと息を吐いて、肩を落とす。灰咲さんを見上げると、パチリと目が合った。(たぶん)

「来い、帰るぞ」
「えっ?」

有無を言わさず俺の腕を取った灰咲さんは、そのまま俺を引っ張った。
だから結局俺は、すぐに家に戻ることになっちまったんだ。
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