拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第五章

一応の、落着

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石川さんを送り、部屋の前まで一緒に行った。彼女の疲弊した表情が気になったから。

「チェーンを掛け忘れないようにして下さいね。それだけで防犯上だいぶ変わりますから」
「……はい」
「それと何かあったら遠慮なく連絡ください。必ず直ぐに駆けつけますから」
「ありがとうございます」

石川さんはぺこりと頭を下げ、カギを差し込んだ。それを見て俺らがその場を後にしようとしたところを彼女が呼び止める。

「あの ……!」

何かまだ心配事があるのかと振り返ると、彼女は少し目を潤ませていた。

「あっ、ありがとうございました! 動画はまだ見る気にはなれませんけど、……悔しさと恨みは……少し減った気がします」
「……動画?」

何の事だかわからなくて一弥を見ると、苦笑している。

「いいんですよ、それで。あれはその為のものなんですから」

一弥がそう言うと、石川さんはまたペコリと頭を下げた。

話しの流れが分からず混乱する俺の腕を一弥が引っ張る。その場で聞くのはまずいことなのかと何となく察し、一弥に引っ張られるままその場を後にした。

車に乗り込みながら、一弥に聞いてみた。

「さっきの動画ってなんのことだ?」
「ちょっとね、石川さんが前向きになれるようにって、サービスしてみたんだ」
「……そうか」

軽い感じで話してはいるが、詳細を話す気はないようだ。だが石川さんがお礼を言っていたあの感じは、彼女にとって悪い事では無さそうに思えたので、まあいいかと流した。

車を走らせる中、一弥は言葉少なだった。ずっと窓の外を眺め、うつらうつらとしているようだった。
ずっと忙しい日々が続いていたから疲れているのかもしれないが、俺には他にも何か理由があるような気がしてならなかった。

アパートに戻り部屋に入った途端、一弥が背後から抱きついてきた。

「しよう。したい、抱いて」

言いながら、一弥は俺の体中をまさぐる。

「おい、もうちょっと待て……」
「嫌だ、待てない」

そう言いながら一弥は俺の上着を脱がし、シャツのボタンを外し始める。そして直に俺の肌をいやらしく撫でる。

「おいっ!」

焦って引き離そうとする俺を嫌がり、一弥は俺の首をグイッと引き寄せ噛みつくようなキスをした。

……こいつは!

これ以上ここで煽られて、玄関先でことに及んでしまうような事は御免だ。
俺は夢中で俺の唇を貪っている一弥を無理やり抱き上げカギを掛け、寝室へと直行した。
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