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第五章

逮捕

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埠頭に着いて倉庫を目指し車を走らせる。
13番と言っていたよな……。

倉庫の番号まで気にしたことがなかったので、薄暗い中俺は目を細める。すると俺の車の横に、すごい勢いでバイクが横に並んできた。
一瞬"獅子"が妨害しに来たのかと焦ったが、違った。

「建輔さん!」
「一弥!?」
「ついて来て!」

突然の登場に驚く俺を気にすることなく、一弥はさらにスピードを上げて俺の前を走った。

バイクなんか何処で手に入れたのかとか、石川さんはどうしたんだとかいろいろ疑問は湧き起こったが今はそんな事を考える余裕なんてなかった。一弥の後をついていき、倉庫の前で車を止めた。

「あそこ、車が止まってるでしょ!」
「わかった、急ごう。すぐに谷塚や松藤刑事も駆けつけて来てくれるはずだ!」

扉は少し開いている。車もあるし、間に合ったに違いない。
前を行く一弥が走って中に入ろうと扉をくぐろうとした瞬間、まるで壁にぶつかるように跳ね返されるような格好になった。

「っと、大丈夫か?」
「いてっ、て、お前ら!」

一弥とぶつかったのはあいつらだった。俺らの顔を見てぎょっとして、殴りかかろうとした態勢の時に一弥の蹴りがさく裂した。
それは恐ろしいくらいの切れ味で、男は「グハッ」と痛そうな声を発して文字通り飛ばされた。
もう一人の男が俺に向かって来るのを横目で確認した一弥は素早くその男の腕を掴み、まるで柔道選手のようにこれも凄い勢いで投げ飛ばした。

呆気にとられる俺をよそに、一弥は二人の転がる男の腹を容赦なく踏みつける。

「建輔さんは鶴田さんをお願い!」
「わ、わかった!」

一弥に大声で指示をされハッと我に返った。慌てて後ろ手に縛られている鶴田さんの縄をほどいて、意識を失っている彼女を揺する。

「鶴田さん、鶴田さん大丈夫か!」
「いた……あっ、川口さん」

俺の顔を確認した鶴田さんは、心底ホッとしたような顔をした。
彼女にはかなり殴られた後があった。暗さになれた俺の目に、それがしっかりと映る。

「ひどい怪我だ。大丈夫か?」

「大丈夫です……。私もこういう場での自信は結構あったんですけどね……。でもそれが却って仇になって……徹底的に潰さないとダメだと思われちゃったみたいです」

「女性相手にひどい奴等だ」
「本当だよね」

頭上から降ってきた一弥の声に顔を上げると、彼は少し疲れたように首をコキコキとさせていた。

「警察だ! 川口さんはいるか?」

松藤刑事の怒鳴り声と共に、倉庫の明かりがついた。一瞬まぶしく目を細めている間に、一弥が俺の背後に移動してきた。

「拉致された女性というのは君か?」

松藤刑事が俺らの傍にやって来た。もう一人の刑事は、一弥が倒し、既にベルトで縛られた状態になっている奴らの方へと向かっていた。

「はい……お騒がせしてすみません」
「いや、無事で何よりだった。だが酷い怪我だ。病院に行った方がいい」
「はい、あ……」
「鶴田さん、川口!」

血相を変えた谷塚が駈け込んで来た。

「社長……」

谷塚が現れた途端、今まで気丈に振る舞っていた鶴田さんの様子が変わった。手足が震え出し、涙をこらえるように唇にも力が籠る。

「よかった、無事だったな」

谷塚が鶴田さんの腕をさすると、こらえ切れなくなった彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。

「はい……大丈夫です。大丈夫です……」

どんなに気丈に振る舞っててもやっぱり女性だ。信頼できるボスが来て、タガが外れてしまったようだ。

「刑事さん、彼女を病院に連れて行きたいんですけど」
「頼むよ、事情徴収は後からお願いすることになるけど」
「わかりました。行こう、鶴田さん。川口も……ありがとうな」
「とんでもない! こっちこそ……鶴田さん、迷惑かけてすまなかった!」

巻き込んでしまった形になった鶴田さんに慌てて謝った。俺の声に彼女は振り向き、疲れた表情ではあったけど「大丈夫です」と微笑んでくれた。

はあ……。
依頼人を完ぺきに守ってやることも出来なかったし、応援に来てくれた女性にまで迷惑を掛けるだなんて……。

「建輔さん、俺らも警察に行こう」
「ああ……って、それよりお前、石川さん!」
「うん、今警察にいるよ」
「えっ?」
「刑事が駆け付けて来てくれたから、だから俺ここに来たんだよ」

あ……そうだよな。

「じゃあ石川さんに会いに行くか。……待てよ一弥、お前バイクは」
「緊急事態だから仕方ないよ。でも大事にならないように、元に戻してから行こうかな。建輔さんついて来てくれる?」
「……仕方ないな」

俺は男らを逮捕し車に乗せている最中の松藤刑事に声を掛け、この場を後にした。
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