94 / 98
第五章
逮捕
しおりを挟む
埠頭に着いて倉庫を目指し車を走らせる。
13番と言っていたよな……。
倉庫の番号まで気にしたことがなかったので、薄暗い中俺は目を細める。すると俺の車の横に、すごい勢いでバイクが横に並んできた。
一瞬"獅子"が妨害しに来たのかと焦ったが、違った。
「建輔さん!」
「一弥!?」
「ついて来て!」
突然の登場に驚く俺を気にすることなく、一弥はさらにスピードを上げて俺の前を走った。
バイクなんか何処で手に入れたのかとか、石川さんはどうしたんだとかいろいろ疑問は湧き起こったが今はそんな事を考える余裕なんてなかった。一弥の後をついていき、倉庫の前で車を止めた。
「あそこ、車が止まってるでしょ!」
「わかった、急ごう。すぐに谷塚や松藤刑事も駆けつけて来てくれるはずだ!」
扉は少し開いている。車もあるし、間に合ったに違いない。
前を行く一弥が走って中に入ろうと扉をくぐろうとした瞬間、まるで壁にぶつかるように跳ね返されるような格好になった。
「っと、大丈夫か?」
「いてっ、て、お前ら!」
一弥とぶつかったのはあいつらだった。俺らの顔を見てぎょっとして、殴りかかろうとした態勢の時に一弥の蹴りがさく裂した。
それは恐ろしいくらいの切れ味で、男は「グハッ」と痛そうな声を発して文字通り飛ばされた。
もう一人の男が俺に向かって来るのを横目で確認した一弥は素早くその男の腕を掴み、まるで柔道選手のようにこれも凄い勢いで投げ飛ばした。
呆気にとられる俺をよそに、一弥は二人の転がる男の腹を容赦なく踏みつける。
「建輔さんは鶴田さんをお願い!」
「わ、わかった!」
一弥に大声で指示をされハッと我に返った。慌てて後ろ手に縛られている鶴田さんの縄をほどいて、意識を失っている彼女を揺する。
「鶴田さん、鶴田さん大丈夫か!」
「いた……あっ、川口さん」
俺の顔を確認した鶴田さんは、心底ホッとしたような顔をした。
彼女にはかなり殴られた後があった。暗さになれた俺の目に、それがしっかりと映る。
「ひどい怪我だ。大丈夫か?」
「大丈夫です……。私もこういう場での自信は結構あったんですけどね……。でもそれが却って仇になって……徹底的に潰さないとダメだと思われちゃったみたいです」
「女性相手にひどい奴等だ」
「本当だよね」
頭上から降ってきた一弥の声に顔を上げると、彼は少し疲れたように首をコキコキとさせていた。
「警察だ! 川口さんはいるか?」
松藤刑事の怒鳴り声と共に、倉庫の明かりがついた。一瞬まぶしく目を細めている間に、一弥が俺の背後に移動してきた。
「拉致された女性というのは君か?」
松藤刑事が俺らの傍にやって来た。もう一人の刑事は、一弥が倒し、既にベルトで縛られた状態になっている奴らの方へと向かっていた。
「はい……お騒がせしてすみません」
「いや、無事で何よりだった。だが酷い怪我だ。病院に行った方がいい」
「はい、あ……」
「鶴田さん、川口!」
血相を変えた谷塚が駈け込んで来た。
「社長……」
谷塚が現れた途端、今まで気丈に振る舞っていた鶴田さんの様子が変わった。手足が震え出し、涙をこらえるように唇にも力が籠る。
「よかった、無事だったな」
谷塚が鶴田さんの腕をさすると、こらえ切れなくなった彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「はい……大丈夫です。大丈夫です……」
どんなに気丈に振る舞っててもやっぱり女性だ。信頼できるボスが来て、タガが外れてしまったようだ。
「刑事さん、彼女を病院に連れて行きたいんですけど」
「頼むよ、事情徴収は後からお願いすることになるけど」
「わかりました。行こう、鶴田さん。川口も……ありがとうな」
「とんでもない! こっちこそ……鶴田さん、迷惑かけてすまなかった!」
巻き込んでしまった形になった鶴田さんに慌てて謝った。俺の声に彼女は振り向き、疲れた表情ではあったけど「大丈夫です」と微笑んでくれた。
はあ……。
依頼人を完ぺきに守ってやることも出来なかったし、応援に来てくれた女性にまで迷惑を掛けるだなんて……。
「建輔さん、俺らも警察に行こう」
「ああ……って、それよりお前、石川さん!」
「うん、今警察にいるよ」
「えっ?」
「刑事が駆け付けて来てくれたから、だから俺ここに来たんだよ」
あ……そうだよな。
「じゃあ石川さんに会いに行くか。……待てよ一弥、お前バイクは」
「緊急事態だから仕方ないよ。でも大事にならないように、元に戻してから行こうかな。建輔さんついて来てくれる?」
「……仕方ないな」
俺は男らを逮捕し車に乗せている最中の松藤刑事に声を掛け、この場を後にした。
13番と言っていたよな……。
倉庫の番号まで気にしたことがなかったので、薄暗い中俺は目を細める。すると俺の車の横に、すごい勢いでバイクが横に並んできた。
一瞬"獅子"が妨害しに来たのかと焦ったが、違った。
「建輔さん!」
「一弥!?」
「ついて来て!」
突然の登場に驚く俺を気にすることなく、一弥はさらにスピードを上げて俺の前を走った。
バイクなんか何処で手に入れたのかとか、石川さんはどうしたんだとかいろいろ疑問は湧き起こったが今はそんな事を考える余裕なんてなかった。一弥の後をついていき、倉庫の前で車を止めた。
「あそこ、車が止まってるでしょ!」
「わかった、急ごう。すぐに谷塚や松藤刑事も駆けつけて来てくれるはずだ!」
扉は少し開いている。車もあるし、間に合ったに違いない。
前を行く一弥が走って中に入ろうと扉をくぐろうとした瞬間、まるで壁にぶつかるように跳ね返されるような格好になった。
「っと、大丈夫か?」
「いてっ、て、お前ら!」
一弥とぶつかったのはあいつらだった。俺らの顔を見てぎょっとして、殴りかかろうとした態勢の時に一弥の蹴りがさく裂した。
それは恐ろしいくらいの切れ味で、男は「グハッ」と痛そうな声を発して文字通り飛ばされた。
もう一人の男が俺に向かって来るのを横目で確認した一弥は素早くその男の腕を掴み、まるで柔道選手のようにこれも凄い勢いで投げ飛ばした。
呆気にとられる俺をよそに、一弥は二人の転がる男の腹を容赦なく踏みつける。
「建輔さんは鶴田さんをお願い!」
「わ、わかった!」
一弥に大声で指示をされハッと我に返った。慌てて後ろ手に縛られている鶴田さんの縄をほどいて、意識を失っている彼女を揺する。
「鶴田さん、鶴田さん大丈夫か!」
「いた……あっ、川口さん」
俺の顔を確認した鶴田さんは、心底ホッとしたような顔をした。
彼女にはかなり殴られた後があった。暗さになれた俺の目に、それがしっかりと映る。
「ひどい怪我だ。大丈夫か?」
「大丈夫です……。私もこういう場での自信は結構あったんですけどね……。でもそれが却って仇になって……徹底的に潰さないとダメだと思われちゃったみたいです」
「女性相手にひどい奴等だ」
「本当だよね」
頭上から降ってきた一弥の声に顔を上げると、彼は少し疲れたように首をコキコキとさせていた。
「警察だ! 川口さんはいるか?」
松藤刑事の怒鳴り声と共に、倉庫の明かりがついた。一瞬まぶしく目を細めている間に、一弥が俺の背後に移動してきた。
「拉致された女性というのは君か?」
松藤刑事が俺らの傍にやって来た。もう一人の刑事は、一弥が倒し、既にベルトで縛られた状態になっている奴らの方へと向かっていた。
「はい……お騒がせしてすみません」
「いや、無事で何よりだった。だが酷い怪我だ。病院に行った方がいい」
「はい、あ……」
「鶴田さん、川口!」
血相を変えた谷塚が駈け込んで来た。
「社長……」
谷塚が現れた途端、今まで気丈に振る舞っていた鶴田さんの様子が変わった。手足が震え出し、涙をこらえるように唇にも力が籠る。
「よかった、無事だったな」
谷塚が鶴田さんの腕をさすると、こらえ切れなくなった彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「はい……大丈夫です。大丈夫です……」
どんなに気丈に振る舞っててもやっぱり女性だ。信頼できるボスが来て、タガが外れてしまったようだ。
「刑事さん、彼女を病院に連れて行きたいんですけど」
「頼むよ、事情徴収は後からお願いすることになるけど」
「わかりました。行こう、鶴田さん。川口も……ありがとうな」
「とんでもない! こっちこそ……鶴田さん、迷惑かけてすまなかった!」
巻き込んでしまった形になった鶴田さんに慌てて謝った。俺の声に彼女は振り向き、疲れた表情ではあったけど「大丈夫です」と微笑んでくれた。
はあ……。
依頼人を完ぺきに守ってやることも出来なかったし、応援に来てくれた女性にまで迷惑を掛けるだなんて……。
「建輔さん、俺らも警察に行こう」
「ああ……って、それよりお前、石川さん!」
「うん、今警察にいるよ」
「えっ?」
「刑事が駆け付けて来てくれたから、だから俺ここに来たんだよ」
あ……そうだよな。
「じゃあ石川さんに会いに行くか。……待てよ一弥、お前バイクは」
「緊急事態だから仕方ないよ。でも大事にならないように、元に戻してから行こうかな。建輔さんついて来てくれる?」
「……仕方ないな」
俺は男らを逮捕し車に乗せている最中の松藤刑事に声を掛け、この場を後にした。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします
muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。
非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。
両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。
そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。
非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。
※全年齢向け作品です。
繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
猫になってはみたものの
竜也りく
BL
寡黙で無愛想な同僚、トルスにずっと片想いしている僕は、ヤツが猫好きと知り古の魔術を研究しまくってついに猫の姿をゲットした!
喜んだのも束の間、戻る呪文をみつけ切れずに途方に暮れた僕は、勇気を出してトルスの元へ行ってみるが……。
*******************
2000字程度の更新。
『小説家になろう』でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる