拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第五章

動き出した獅子

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なかなか風呂から戻ってこない一弥が気になって寝室の戸を開け覗いてみると、彼はパソコンに向かって何やら作業をしている。その真剣な表情に少し不安を感じたが、思い直した。
たとえ違法に近い事をしていたとしても、それはきっと石川さんの為になる事に違いない。獅子に気付かれないための工作を施しているのだろう。

こちらから見る一弥の顔は、少しイラついているように見えた。声を掛けようかと一瞬迷ったが止めた。恐らく邪魔にしかならないだろうから。

しばらくして寝室に入ってくる気配がして目を開けた。

「一弥……?」
「あっ、ゴメン。起こしちゃった?」
「いや……。作業は済んだのか?」
「えっ?」

暗くてよく顔は見えないが、明らかに一弥は動揺していた。

「一弥?」
「……あっ、うん、なんとかね」
「そうか。……悪いな、俺こういうの色々疎くて」
「そんなこと! 建輔さんが謝ることじゃないよ。俺はただああいう作業が得意なだけだから」
「おかげで広報的な作業は一弥に丸投げで悪いな」

ボフン!

「うわっ! おい、一弥!?」

少し緊張した雰囲気を持っていた一弥が、急に勢いよく俺の布団の中に入ってきた。

「今日は一緒に寝よ? ハグして?」

そう言いながら一弥は俺に抱きついてきた。抱いて欲しいではなくハグして欲しいという言葉に少し思うところはあったが、要望通りに彼をギュッと抱きしめた。
一弥はそれにほうっと安堵の溜息をつき、安心したように俺に体を預ける。どうやら完全に体の力を抜いたようだ。

だいぶ疲れてたんだなあ……。

泥のように眠りはじめた一弥を抱きしめながら、俺も目を閉じた。


うるさく鳴り響く着信音。いやいや瞼を開けると、まだ夜が明けたばかりといった感じだ。隣の一弥がもぞりと動いた。
俺はとっさに昨日の疲れた一弥を思い出し、起こしちゃいけないと素早く電話に出た。
相手は谷塚だ。

「谷塚、お前なあ」
「川口! 獅子が妙な動きをしているぞ」
「……え?」

「例のカン・ハイに、獅子から中堅幹部っぽい奴らが数人あわただしくやって来ている。報告では、被害者の現在の洗い出しを急いでるみたいだぞ」

「どういうことだ?」

「よくわからないが、何らかの危機感を覚えているんだろう。既に何件か俺ら同業者が係わって女の子を助け出しているから、その警戒もあるのかもしれないけどな」

「石川さんも危ないか?」
「危なくないとは言えないんじゃないか。なるべく早く警察に行って、事件を明るみにした方がいい」
「わかった、ありがとう谷塚」

電話を切り顔を上げると、一弥が起きて座っていた。

「獅子が動き出したの?」
「そのようだ。谷塚から連絡があった」
「わかった、準備する」

一弥は素早く布団から出た。
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