上 下
82 / 98
第五章

情報の収集

しおりを挟む
鶴田さんは谷塚から俺の家を知らされていたようで、ナビはいらないと断った。

……あいつ、守秘義務という言葉はどこにやった。まあ、いいけど。

鶴田さんは道に迷うことなく俺のアパートにたどり着き、現在リビングで向かい合っている。

「ええっと、お茶でいいかな?」
「私が淹れますよ。急須とかがどこにあるかだけ教えてもらえますか?」

そう言って鶴田さんがテキパキと動き始めたので、遠慮するのは止めにして、急須や茶碗を出して後はお願いする事にした。

「ところで瀬川さん」
「はい」

俺に呼ばれて彼女は、ビクッとした感じで返事を返した。
どうしてもまだ緊張した様子が拭えていない。どうしたら俺のことを信用してもらえるだろう……。

「……あっ、そうだ。これ」

俺が変な商売をしている輩じゃないという事は、以前一弥が作ってくれたホームページを見せた方が早いと思った。言葉で説明するよりも、てっとり早い。

ホームページを開いて見せると、瀬川さんは興味深そうに覗き込んだ。

「何でも屋……でもこれには、トラブルを解消みたいな事は載っていませんね。……あ、最後に書かれているその他相談事がそうですか?」

「ああ。前は一人でこの仕事をしていたから、ほぼハウスクリーニングや引っ越し作業、小さな修理みたいな事ばかりやっていたんだ。今は従業員が一人増えたから、少し仕事の幅を広げたんだよ」

「優秀な従業員だと社長からは聞いています。どうぞ」
「ありがとう、瀬川さんも遠慮しないで。喉乾いているでしょう?」
「ありがとうございます、いただきます」

ホッと一息、俺が淹れるよりもはるかに美味いお茶を飲んでリラックスした頃に、瀬川さんに話しを聞くことにした。

「……で、単刀直入に聞くけど、竹本に近づいてどうする気だったの?」

まわりくどく聞くよりもその方がいいかと思って直球をぶつけてみた。それに瀬川さんは一瞬唇を噛んだ後、思い切ったように前を向いた。

陽菜ひなが……私の友人が、あいつに騙されて借金漬けにされて……あげくの果てに自殺しちゃったんです」

鶴田さんから先に情報をもらっていたので大仰に驚くことはせずに済んだが、それでも彼女の痛々しさが伝わって来てなんと返事をしてあげればいいのか答えに詰まった。
だけどだからと言って、無謀な彼女の行動を認めてやるわけにはいかない。

「そう……か。辛かったな……。それで復讐したいと思ったのか?」
「そうですよ! 悪いですか? あんな奴、少しくらいはいやな目に合わせないと!」

瀬川さんの表情は怒りにまみれていた。絶対に許せないという気持からか、目の前の俺を睨む。

「だけどそれであなたが酷い目に遭う事になっては、お友達も浮かばれません」
「綺麗ごとなんて言わないでよ! あなたに何がわかるって言うの! 私の気持ちなんて……っ」

言葉を詰まらせた瀬川さんは、とうとう嗚咽を洩らし始めた。しゃくりあげ、涙を手の甲で拭っている。

「あなたにどんな事情があってご自分で手を下したいと思っているのか分かりませんけど、それでも俺達はあなたを危険な目にあわせたくないんです」

「…………」

「だけどあいつをこのまま放置しておくわけにはいかない。だから協力して欲しい。あいつを警察に捕まえてもらうためにも」

俺が瀬川さんの目を見てはっきりそう告げると、彼女はハッとしたように俺を見た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ
BL
枇々木尚哉は母子家庭で育ったが、母親は男がいないと生きていけない体質で、常に誰かを連れ込んでいた。 そんな母親が借金まみれの男に溺れたせいで、尚哉はウリ専として働かされることになってしまっていたのだが……。 尚哉の家族背景は酷く、辛い日々を送っていました。ですが、昼夜問わずサングラスを外そうとしない妙な男、画家の灰咲龍(はいざきりゅう)と出会ったおかげで彼の生活は一変しちゃいます。 人に心配してもらえる幸せ、自分を思って叱ってもらえる幸せ、そして何より自分が誰かを好きだと思える幸せ。 そんな幸せがあるという事を、龍と出会って初めて尚哉は知ることになります。 ほのぼの、そしてじれったい。 そんな二人のお話です♪ ※R15指定に変更しました。指定される部分はほんの一部です。それに相応するページにはタイトルに表記します。話はちゃんとつながるようになっていますので、苦手な方、また15歳未満の方は回避してください。

処理中です...