拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第五章

慎重、かつ確実に

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「ごちそうさま、美味しかった」
「いや、まあ。お粗末だった」
「そんなことないよ。……あ、俺片付けるね」

一弥は食器を台所に運びながら、「ごめんね、建輔さん。そういう訳だから俺、しばらく他の仕事出来そうにないや」と、すまなさそうに言った。

「それは構わないけど、護衛だなんて本当に一人で大丈夫なのか?」
「え? もちろん大丈夫だよ」

振り返ったその顔は、まだそんなに心配なの?と言うような表情だった。

「谷塚に相談しようかとも、ちょっと思ったんだが……」
「何の?」
「いや、尾行がうまくて喧嘩の強い奴貸してくれないかなって」
「いらないよ」

びっくりするくらいの即答だった。それが顔に出ていたんだろう、一弥は苦笑する。

「尾行はね、多分俺の右に出る奴なんてそうそいない。だからいいんだ。……だけどそうだなあ、人手が必要な時には頼むかも」

そう言いながらも、薄く笑うその表情から見てその気はないんだろうなと思った。

洗い物を済ませて風呂に入った一弥は、パソコンを起動して何やらし始めた。画面を見つめるその表情はどことなく仄暗く、出会った頃の一弥を彷彿とさせて心配になる。

「一弥?」

邪魔をしたいわけじゃないが気になって声を掛けると、一弥は顔もこちらに向けず画面を見つめたまま返事を返した。

「ごめん、ちょっと待って。今ちょっと気の抜けない作業をしてるから」

手は、忙しなくキーボードを叩き続けている。ひょいと画面を覗くも、俺には何がなんだかさっぱりわからない画面だった。ただ一弥が真剣な事だけはわかるので、俺は邪魔にならないようにと少し離れた位置に腰掛けた。


「建輔さん、終わった」
「……何をしてたんだ?」
「んー、もしかしたら必要になるかもしれないなあと思って、ちょっと下準備をね」

それは何だと聞きたかったのだけれど、口に出すことが出来なかった。一弥のまとう雰囲気が、頑ななように感じたから。きっと俺には聞かれたくないことなんだろう。

「それは石川さんの為になる事なんだよな?」
「俺はそう思うよ。ただ、これを使うような最悪の事態にならないように気を付けるつもりだけど」

「そうか。……じゃあ俺はこいつらの今までの情報を収集して、警察があいつらを逮捕出来るように協力してみるかな」

「それ、いいね。多分警察の方にも被害届が出ていると思うし。匿名で、集めた証拠を送りつけてやったらいいよ」
「そうだな。じゃあ仕事の合い間に、ちょっとずつ集めてみるか」
「でも建輔さん、無茶しちゃダメだからね」
「分かってる。俺の出来る範囲でするよ。一弥の存在を知られるようなへまなんかしたら、後悔してもしきれないからな」

「建輔さん……」

「意外と同業の奴らもこの手の依頼を受けてる可能性がありそうだから、後で谷塚に詳しいことを聞いてみる」
「うん……」

パソコンを閉じて俺の隣にやって来た一弥が、ポスンと俺にもたれ掛かった。

「しばらくお仕事別々になっちゃうね」
「……そうだな」

竹本の意図が分かった以上、後はいかに無事にあいつらから石川さんを引き離すかを考えなければならない。
その為には少なくともあの店くらいは、警察に手入れをしてもらって潰してもらわなければ。

のんびりしてる暇はないかもしれないな。

やわらかい一弥の髪を撫でながら、俺は細く息を吐いた。
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