拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

文字の大きさ
上 下
77 / 98
第五章

現状報告

しおりを挟む
久し振りだけど、なるべく手際良く支度を進める。

煮立ったので落としぶたをして、と……。

「ただいまー、建輔さん?」

玄関を開ける音と同時に、どかどかと一弥が台所に向かって来た。

「お疲れ、お帰りなさい」
「あっ、もう作り始めてたんだ。ごめん、食材あまり無かっただろう?」

一弥は、たくさんの食材が入った買い物袋を持っていた。気が利かないのは俺だ。

「すまなかったな、疲れているのに」
「ええっ、ちっとも! こっちこそ、ご飯作ってくれてありがたかったよ?」

そう言って、一弥は俺にぎゅっと抱きついてからテキパキと冷蔵庫に食材を片付けた。

「何作ってるの?」
「かなり手を抜いた肉じゃがだ。大丈夫だから、のんびりしてていいぞ」
「そ? じゃあ、お言葉に甘えて」

そう言った一弥はリビングには行かず、手近な椅子を引っ張って来て俺の傍で腰かけた。

「そう言えば竹本だけどさ、やっぱりカルキらとつながっていた」
「え? 確認出来たのか?」

「うん。一番下っ端の奴だったけど間違いない。獅子で見かけたことがある奴と会って話していた。あの店の店長と同席でね」

「そうか……」

谷塚から聞いていてある程度覚悟はしていたけれど、それが確実となった事が分かるとかなり複雑だった。

「大丈夫だよ建輔さん」
「え?」
「俺は尾行はプロだ。しかもしっかり変装しているから、変なことになったりしないよ」
「一弥……」

ピピピピピピピピ

話を続けようと思ったのだけど、キッチンタイマーの音に遮られた。

「そろそろ出来そうだね。俺も手伝うから、食べながら話そうか」
「そうだな、じゃあ頼む」

最後の味付けとかを一弥に任せて、俺はご飯を装ったりテーブルの上を片づけた。


「石川さんだけどさ、俺、しばらく彼女のこと極秘で護衛しようかと思う」
「護衛? 何かあったのか?」
「んー、ヤバくなりそうな雰囲気がさ。今石川さんに、竹本の連絡を無視するように言ってるだろう?」
「ああ」
「それでさ、今日竹本があいつらに叱咤されてた」
「もっと追い込めってか?」

「うん。斡旋料が目的なのか何が目的なのか分からないけど、……組織が風俗関係に、力を入れているのかもしれない」

一弥のその一言に、俺は依頼の深刻さを改めて思い知らされた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...