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第五章

加減しろよ

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いるかどうかは分からないけど、俺は一弥と別れてすぐに学生会館へと急いで引き返した。もう一時を大部回っているので、もしかしたら既に移動している後かもしれないが。

「…………」

……もう30分は経ったか。やっぱり移動した後だな。
どうするかな? こんな仕事は初めてだから、情報の取り方とかどうしたらいいのか……。

「情報……」

都合のいいことに、急に谷塚のことを思い出した。あいつならこういう事に関して、何か情報を持っているかもしれない。さっそく携帯を取り出した。

「よう、久しぶり。トラックか?」

久しぶりの電話で第一声がこれだ。そう言えば電話をする時は仕事で急ぎの用件ばかりだものな。トラックだと思われても仕方がないか。

「いや、今日は別件で。お前、女の子が食い物にされているような相談依頼は受けていないか?」
「ああ、それか。お前の所にもそんな依頼が来てるのか?」
「まあな。で?」
「来てるよ。てか俺の所には、風俗に落されたから消息を絶つ手伝いをして欲しいって依頼だった」
「大変な依頼だな。上手く行ったのか?」
「時間は掛かったけどな」
「そうか……」

伊達に危ない仕事をしていたわけじゃないんだな。

「ところでそれは、例の"目を開けた獅子"絡みか?」

「多分な。依頼人の周りをうろちょろしていたのは、下っ端の下っ端だったから確認まではしていない。だけど舞台となった店があいつらの牛耳っている界隈だったから、恐らく間違いはないだろう」

「そうか……」
「で? その依頼を、川口は受けたのか?」
「まあな」
「普段のお前なら受けてないよな。またローザに説得されたか?」
「ローザ言うな」
「ああ、悪い悪い。……ところで何か俺に聞きたい事があったんじゃなかったのか?」
「あ……竹本という大学生なんだけど、その依頼の中でそいつの名前は出てこなかったか?」

「竹本……? いや、そんな名前は出てこなかったな。ただやっぱり大学生が絡んでいて、有名な私立大学に通っている林って奴だった」

「それ、H大か?」
「ああ、そうだ。なんだ川口のところもH大の学生絡みか?」
「そうだよ。一弥に言わせるとそいつらは、頭がいいだけのプライドの高いバカらしい」
「辛辣だな」
「だが間違ってはいない。弱い者から金を巻き上げようとする奴等なんて最低だ」
「だな」
「それともう一つ、竹本の先輩と名乗っているバーの店長なんだが……」
「"カン・ハイ"か?」
「そうだ! そこの店長だ」
「どうやら繋がってるな。俺が手掛けた依頼も、そこの店が関わっていた」
「やっぱり、そうか」

「だな。……そっちにはローザがついているから大丈夫だとは思うけど、調べるのも慎重にな。首を突っ込みすぎるなよ」

「普段と逆だな」
「こういう仕事を無事に済ませるには、加減が必要なんだ」

加減か……。
俺はともかく、一弥が暴走しないように気をつけなくては。古巣が相手だ。
一弥の存在が知られて、妙なごたごたを引き起こすことになってはならないからな。

「ありがとう、気を付けるよ」

谷塚に素直に礼を言って、俺は電話を切った。
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