拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第五章

聞き込み開始

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竹本の通う大学は結構広い。どこから手をつけようかと思っていたら、一弥に腕を掴まれた。

「ちょっと待って、いまサークルのSNS見てる」

一弥はあれこれ見ながら少し考える素振を見せ、顔を上げた。

「部室は学生会館に入ってるみたいだね」
「そうか……そろそろ昼になるから、部室で飯を食う奴もいるかもしれないなあ」
「行ってみようか」
「そうだな」
「出来れば竹本のとこの部室には、誰もいないといいけど」
「え? なんでだ」

「だってせっかく女装してるんだよ。俺がこのSNSを見て竹本に一目ぼれしたっていった方が、いろいろ探りやすいじゃないか。一応まずまずの容姿だし」

「ああ……そういう事」

それならそういう設定で聞き込みに入るかと、ザッとあたりを見渡して苦笑した。

「わかってはいたけど、俺結構場ちがいだよなあ」

一応二十代とはいえ、もうすぐ三十の身だ。これじゃあ職員と言った方が疑われなさそうだ。

「……大丈夫だよ。流石に新入生を名乗るのは痛いけど、4浪して 24歳だってことにしておけば?」
「24? 5つもサバ読むのか? 無理があるだろう」
「そんなことないよ。建輔さん、外見だけは十分若く見えるもん」

外見だけは……? 中身は爺むさいというのか。

自覚があるだけに溜息が出るが、気を取り直して学生会館に行くことにした。
何か聞かれたときに面倒臭いので、俺と一弥はいとこ同士ということにし、一弥は新入生ということにしようと決めておいた。

「で、竹本のサークル……"Wake up"だっけ? そこは何階だ?」
「ええっと、五階だね」
「そうか、じゃあまずは三階の部室によって行くか。そこに間違えて行ったことにして、いろいろ聞いてしまおう」
「オッケー」

俺達が学生会館に向かって歩いていると、その数メートル前をお弁当を持った女子大生が二人歩いていた。
思わず一弥と目配せし合い、早歩きで彼女らのところへ行き竹本のサークルの事を聞くことにした。

「ちょっと済みません、先輩」

二人の女性は一弥に声を掛けられて振り向いた。そして俺の顔を見てぎょっとする。

「え……? 先輩?」
「え? いや、ちがくて。呼んだのはこっち」

どう見ても30歳直前のおっさんに先輩扱いされたことに、嫌悪を感じていたらしい。俺に訂正されて隣の一弥に気が付き、納得の表情になった。そして今度は笑いをかみ殺す顔に変わった。

「ごめんなさい。……そうよね。何か?」
「えっと、一……、弥生がWake upってサークル幹部の竹本って奴のことを気になってるみたいで」
「竹本……。ああ~、あいつ顔はいいからね」
「真由は竹本君のこと嫌いなのね。彼優しいじゃない」
「外面がいいだけでしょう? あいつ自分がモテると思って、だいぶ調子に乗ってるよ」
「そうなんですか?」

一弥がオドオドとした様子で訊ねたら、真由と呼ばれた子が気の毒そうな表情で一弥を見た。

「あなたみたいな大人しそうな子は近寄らない方がいいと思う。なんかヤバそうな店に連れてかれて、大変だった子もいたみたいだよ」

「大変って?」
「したたか飲まされて意識失ったんだって」
「え? それで、その子は大丈夫だったのか?」

暴行された子までいるんだろうか?
一瞬冷やりと汗が伝った。

「うん、一応ね。その連れてかれた子の彼氏って言うのがこれまた嫉妬深い奴でね、彼女の後をこっそりつけていたらとんでもない所を目撃してしまって、仲間呼び出して大暴れして助けたらしいよ」

「え~? それ私の聞いたのと違う」
「どういうふうにですか?」

「彼が嫉妬深いってのは一緒で、彼女がみんなと楽しくやっているのが許せない彼氏が散々暴れまくったって聞いたけど」

なるほどな。
それぞれの主張が違い過ぎると、どっちが本当なのか分からなくなるな。

その彼女に会って聞いてみるか?
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