拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第五章

目立たない女装

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あんなに美少女に変身するなと言ったのに、元がいいのでどうあがいても美少女にしか見えない。それでも試行錯誤の上、くすんだ肌にして少しでも目だたない風貌にしようと一弥は頑張っていた。

「ねえ、少しはまし?」
「そうだな……。すごい美人ではなくなった」
「そう? じゃもう少し頑張って弄ってみる」

そう言って一弥は俺に背を向けて、まるでキャンバスに色を塗っていくように自分の顔に化粧を施していった。


「どう?」

そう言ってくるんと俺の方へ向いた一弥の顔は、先程とはだいぶ違っていた。どういう技術を使ったのか目元は腫れぼったくなってるような感じだし、さっきよりも肌艶が悪くなっているように感じる。ぱっと見、そんなに特別美人でもない普通の女子大生に近くなった。

「すごいな……」
「よかった。合格みたいだね。こんな化粧初めてだったから、難しかったよ」
「だろうなあ……。普通はきれいに見せるために頑張るものなんだろう?」
「と思うよ。俺だって相手を油断させるために、色っぽい美女に変身しようと頑張ってたもん」
「…………」
「建輔さん?」

一弥の忌わしい過去を連想させるような発言に、俺の眉間にしわが寄った。ついムッとして口を閉じた俺を訝しみ、一弥が俺の顔を覗き込む。
どうやら当の本人には、自分にはもうどうでもいい過去の話としてとっくに心の中で処理されていたもののようだった。
健気に強かに、一弥はしっかりと生きている。

「いや、なんでもない 」
「そう? じゃ、そろそろ出かける?」
「そうだな」

竹本の通う大学はここから交通の便はいい。おまけに市街地のため駐車料金が高いので、電車で行くことにした。

一弥は清楚のワンピースを着て黒髪長髪のかつらをかぶっている。それにしても、一体いつこんなものを調達したのか。

「お前ここに来た時、荷物なんて持ってなかったよな」
「うん。替えの下着すら持ってなかったから、建輔さんにコンビニで買ってもらったよね」
「……だよな」
「何? ああ、この女装一式が気になってるの?」
「まあ……」
「こないだカルキたちを見かけた時、もしかしたらいつか必要になることがあるかもしれないと思って買っといたんだ」
「ああ……」

こういう所はしっかりしてるんだよなあ。俺は逆に心配になってしまうけど。

そういえばこいつ、しっかり女性ものの靴も履きこなしているな。

完ぺきな女装で誰にも変な目で見られず、俺らは無事に電車に乗り竹本の通う大学へと着いた。
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