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第五章

依頼人、石川さん

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石川さんを中に案内し、一弥がお茶を運んで来たところで話を始めた。

「依頼文は読みました。その中に書かれていた彼、竹本雅之さんの素行調査ですね。何か調査するのに役立つような資料はありますか?」

「あっ、はい」

石川さんはスマホを取り出して、俺らの前に差し出した。
そこに映し出されていたのは、彼女が連れて行かれたバーと彼の写真、そして彼の先輩という人物の写真だった。そして払わされた飲食代の領収書と。

「それ、転送させてもらいますね」
「どうぞ」

了承を得て一弥が弄っているのを見ながら溜息をつき、石川さんは深く座り直した。

「彼とはまだ連絡を取り合っているのですか?」
「返信は何度か……。返さない方がいいとは思っていたんですけど、つい返しちゃって。そしたらどんどん嫌な話しになってきて」
「どんな風に?」

一弥が口を挟み、真正面から石川さんをじっと見る。彼女はちょっぴり目を瞬いて、言いよどんだ。ほんのりと頬を染めているので、言いたくないことを聞かれたと言うよりは綺麗な一弥に緊張していると言った方が正しいだろう。

「えっと、あの……彼の財布代わりになっていると思い始めてから、お金を使うような所には行かないようにしていたんですけど、またあの店に連れて行かれてしまったんです。だけどその時はお金がないから払わないって言ったんですけど……知らない内にそれが私のツケになってしまってて。利息がだいぶ膨らんでいるから払ってもらわないと困るとか、お金がないならバイト先を紹介するって先輩が言ってくれているとか」

「それは酷い……」
「未練はないの?」

絶句する俺をよそに、一弥は冷静だ。さらに心情まで突っ込んで聞かれて、石川さんは一瞬言葉に詰まった。

「そ、れは……、未練がないと言ったらウソになりますけど」

石川さんはそこまで言って唇をキュッと噛み、掌をギュッと握りしめた。

「自分一人ではもう……、踏んばる事が難しくて……、だから、来ました」

まだ未練がある。それを自覚している恐怖があって、何とかしたいともがいているのだ。
他人には想像しにくい心情――、そういう事なんだろう。

「建輔さん、提案してもいい?」
「ああ、勿論だ」

多分こういう事は、俺なんかより一弥に考えさせた方がいい。もうこれは、今までの経験から分かった事実だ。
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