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第五章

大切な人を心配するのは当然なんだ

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依頼人の石川さんに連絡を取り、今日話しを聞くことになっていた。
ただ俺は、一弥がどんなに大丈夫だと言っても、あのカルキとかいう奴が牛耳っている夜の街を一人で行かせるのは不安だった。
依頼人が連れて行かれたバーというのが、あの時車で通った繁華街にあるものだと分かったからだ。

「どうしたの?」
「ん? 何がだ?」

どうやら俺はソファに座ったまま、難しい顔で腕を組み続けていたようだ。心配した一弥が俺の隣に座り、ペッタリとくっついてきた。

「だってさっきから、難しい顔してる」
「一弥がどう言っても心配なんだよ」
「カルキのこと?」
「そうだよ」

何度も大丈夫だって言われている。一弥が言うように、彼は本当に強いんだろう。
でも例えそうだとしても、やっぱり俺は心配なんだ。

「そこまで心配されると、逆に不安になるな。……俺、建輔さんに呆れられそうだ」
「なんでだ」

思いもよらない一弥の言葉に、思わず俺は一弥の顔を覗き見た。その表情は彼の言葉通りに、少し曇って見える。

「だって……」

一弥が時々見せる子供なのか大人なのか分からない危なっかしい表情。俺が心配するのは、こいつにそんな顔をさせたいからじゃない。
一弥をぐいっと引き寄せて、思いっきり抱きしめた。

「例え大丈夫だと分かっていてもな、それでも大切な人のことは心配するものなんだ」
「……建輔さん」

愛情を知らずに生きてきたせいか、彼は時々俺をびっくりさせる感情を示す。そしてその不安定さを知る度に、彼を引き上げてやりたいと切に思うんだ。

ピンポーン。

「時間だ。石川さんが来たようだな」

少し名残惜しいが一弥から体を離して、俺は玄関へと向かった。

現れたのは小柄で可愛らしい女性だった。でも想像していたようなオドオドとした大人しい風貌ではなく、彼女はしっかりと前を向いて俺の顔を見ている。そして「初めまして。予約していた石川です」と言った。
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