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第四章

情けない雇い主

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「建輔さん……」

突然俺に抱きしめられてびっくりしたようだったが、俺の気持ちが伝わったのか、一弥もすぐに俺の背に腕を回した。きゅっと抱きついて俺の肩口に頬をスリスリと擦る。

返ってきた余りの可愛い反応に、しまったと思った。

いや、もちろんこんな戸外で一弥を可愛がる気なんてないけれど。俺も一応成人男子なので、触発されたりはするというものだ。

「――建輔さん」
「じっ、じゃあ行くか」

ガバッと一弥を離してギクシャクと歩き出す。このまま可愛い一弥を見続けていると、ヤバい気がした。昨夜の幸せそうに甘く震える姿が脳裏に浮かんじまったから。

「ちぇーっ、もう少し堪能させてくれてもいいのにな」

ぶつぶつと口では文句を言いながら、それでも一弥は俺の隣を楽しそうに歩き始めた。俺のぎこちない動きと真っ赤であろう顔を見て、大体の推測がついたのだろう。
恥ずかしい心の中を見透かされるのはいい気分ではないが、変な勘違いをされるよりはましだ。そう心の中で必死で言い訳をして、走って逃げ出したくなる衝動を何とかこらえた。


一岡家所有別荘の玄関前まで近づき、一弥はカギを確認している。俺の方は、建物をぐるりと回って人の気配がない事を確認し終わっていた。

「この鍵なら開けられるよ」
「……そうか」

下見と称したのは、やはり俺の中で迷いがあったからだ。一弥はそれを見透かしているのだろう。
だけど文句は言わずに、ただじっと俺を見ている。

佐孝さんにも依頼の承諾はしているのだし、その内容が事実だと分かったいじょう先延ばしにする理由なんて本当はもうあるわけないんだ。

……本当情けないよなあ。

「開けてくれ。俺も入る」
「……俺だけでも、いいんだよ」
「いや。前にも言っただろ。一弥一人に負わす気は無いって」
「――わかった。……開いたよ」
 
……!?
早っ!!

扉を開けた一弥は靴を脱いで、なんの躊躇もなく中に入って行く。俺もそれに倣って中に足を踏み入れた。

「建輔さん、これ使って」
「え……?」

差し出されたのは手袋だった。
用意の良すぎる助手にため息をつき、不甲斐ない自分に脱力した。
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