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第四章

では、出発

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「……かな?」
「…………」
「建輔さん……?」

そんな気はなかったのだが顎に手をついたまましばらく浸ってしまっていたらしい。一弥に袖を引っぱられて我に返った。

「ああ、悪い。何だ?」
「……なんだよ、もう。てっきり気分を害させたかと思っていたら、ぼーっとしていただけなの?」
「はは、悪いな。で?」
「……だからさ、峯野さんに伝えるかどうかは様子を見てから考えようかって」
「ああ、そうだな。その方がいいだろう」

食事を終えて席を立った。
先ほどこちらを見てはしゃいでいた子たちの前を通ると、みんな一斉にポカンとした表情になった。そしてお互いの肩をパシパシ叩きながら騒ぎ始める。

「ねえねえ、見た? あのダサい帽子の人。めっちゃ綺麗な顔だったー」
「見た、見た。でもなんであんな帽子被ってたんだろう? あんだけイケてて顔隠してるってことは、有名人とか?」
「えーっ、そうなのかなあ。でも私見たことないよ。何やってる人なんだろう?」

まあ、これが普通の反応だ。想像通り過ぎる彼女らの騒ぎぶりに、思わず笑いが込み上げてきた。

俺なんかより一弥の方が、ずっとずっと美形だし華というかオーラもすごい。一弥が俺なんかのことで焼き餅焼く要素なんて本当はこれっぽっちも無いんだ。

チラリと視線を一弥に向けると、なんだか複雑な表情をしている。

支払いを済ませ店を出て車に乗り込んでもなお、一弥の表情は複雑なままだ。
何がそんなに気になっているんだか。

「個展に直行するぞ」
「うん。……ねえ、建輔さん」
「なんだ?」
「…………」

発進させる前に振りむいて、一弥の返事を待ったが、こいつは俺の顔をじっと見るだけで言葉を続けようとはしなかった。

「一弥?」
「ごめん、何でもない。……ええっと、俺、峯野さんに佐孝さんのこと自然に伝えられるよう頑張ってみるね」
「……ああ」

取り繕った感ありありだが、それでも。
こいつも初めて会った時より、随分成長したもんだよな。

そう思った途端、思わずくすりと笑いがこぼれた。

一弥に関心を抱く奴らへの不安は未だ解消されたわけではないが、確実に一弥は変わってきている。

「じゃあ、行くぞ」
「うん」

笑顔を向けた俺に、一弥も明るく笑い返した。


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