拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第四章

用心に越したことは無いと思うんだ

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ちょっぴり剥れながらも素直に車に乗り込んだ一弥と共に、俺は峯野さんの個展近くにあるファミリーレストランへと向かった。

駐車場に車を入れながら、ランチ目当ての客なのだろうが余りの多さに驚いた。ふだん外食しないせいもあって、お昼時がこんなにも混むとは思わなかったのだ。

「…………」
「どうしたの? 建輔さん」
「ああ、いや……」

気にし過ぎかもしれないが、最近一弥の周りに胡散臭い奴がうろちょろし始めているし。もしこの大勢の客の中に、一弥の過去を知っている奴がいて彼を狙っている奴がいたとしたら……?
そう思ったら矢も楯もたまらなくなった。

「ちょっと待ってろ」

確か後ろの席に、以前使った帽子が置いてあったはずだ。暑くなり始めた時期に草むしりの手伝いを頼まれた時のものが……。

ひょいと後ろの席を覗き込むと、さほど格好も良くないつばの少々広めの帽子が無造作に転がっていた。

無精者の自分に感謝だな。

「一弥、これ被ってろ」

一弥は目の前に差し出された帽子を小首を傾げて眺めること数秒、だけど文句は言わずそのまま被った。

「もしかしてこれ、変装的な感じ?」
「一応な。……どれ、……まあ、いいじゃないか。キラキラ感がだいぶ減ったな」
「……なにそれ?」
「お前の動画が出回っている事、もっとしっかり考えるべきだった。城田みたいに考える奴が、他にも出て来ないとは言い切れないだろ」

「…………」

俺の言葉に真顔になって、一弥は視線を少し下にずらした。そしてほんの少し意味深に表情を崩して、呟くように囁く。

「俺に手を出そうとする奴なんて、うるさいだけのただの小物に決まってるけどね」
「……え?」

一弥が言わんとすることを測りかねて聞き返すと、また背中がぞくりとするような妖艶な笑みを向けられた。

「――なんでもない。あ、もちろん建輔さんのことじゃないよ。建輔さんは、俺が欲しいと思うただ一人の人だから」
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