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第四章
信頼される喜び(だが可愛すぎる)
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散歩を終えて前橋さんの家に着いた時には、いつもの所要時間より30分程オーバーしていた。
「お帰りなさい。……いつもより遅かったけど、この子たちが何か粗相でもしたかしら?」
「ただ今戻りました。……いえ、すみません。実は途中で同業者に会ってしまって、一弥を勧誘されて揉めてしまってたんです」
「まあ……。今は人材の取り合いが盛んだって聞いたけど、大丈夫だったの?」
「はい。なんとか納得してもらえたと思います」
「そう? よかったわ。リクもモモも一弥君に随分懐いているから」
そう言いながら前橋さんは、一弥に優しい視線を向けた。
「お、俺もリクとモモは大好きですから! 他所の仕事なんかしたりしません」
「そうなの? 嬉しいわ。これからもよろしくね」
「は、はい」
一弥の声は、どことなくうれしそうだ。信頼されるという喜びを覚えたのかもしれない。
前橋さんの家を出て、一旦家に戻った。お昼までまだ1時間以上もあるので出かけるにはまだ早いかとも思ったが、以前外食した時に一弥が喜んでいたことを思い出したので、大したところには行けないがファミレスくらいには連れてってやろうかと思った。
「そろそろ出ようか」
「うん。……あ、でも昼の支度……」
「いいよ。行きながら食べよう。こないだとはまた違うところに連れてってやる。……大した所じゃないけどな」
あまり期待されるとがっかりされると思い、自虐的に最後に一言付け加えたのだけど、一弥は全く意に介していないようだった。
「建輔さんが連れてってくれるんなら、どこでもオッケーだよ!」
表情も態度も何もかも、全身でうれしいと表現した一弥が勢いよく俺に抱きついた。あまりに可愛い表現が愛おしくて、俺も一弥の髪をくしゃりと撫でる。
柔らかくサラサラとしたその感触が気持ちいい。しばらくそのまま髪を撫でていると、一弥が更に密着してきたので焦った。
「そろそろ行くぞ……」
ゆっくりと体を引き離すと、一弥は少し恨めしそうな眼で俺を見た。どうやらもう少し甘えていたかったらしいのだが、簡単に煽られてしまう俺の気持ちも察してほしい。
昼間っから仕事も忘れて、恋人に溺れてちゃまずいだろう。
非難の眼差しを向ける一弥を無視して歩き始めると、諦めがついたのだろう。ため息をつきながら、俺の後をついてきた。
「お帰りなさい。……いつもより遅かったけど、この子たちが何か粗相でもしたかしら?」
「ただ今戻りました。……いえ、すみません。実は途中で同業者に会ってしまって、一弥を勧誘されて揉めてしまってたんです」
「まあ……。今は人材の取り合いが盛んだって聞いたけど、大丈夫だったの?」
「はい。なんとか納得してもらえたと思います」
「そう? よかったわ。リクもモモも一弥君に随分懐いているから」
そう言いながら前橋さんは、一弥に優しい視線を向けた。
「お、俺もリクとモモは大好きですから! 他所の仕事なんかしたりしません」
「そうなの? 嬉しいわ。これからもよろしくね」
「は、はい」
一弥の声は、どことなくうれしそうだ。信頼されるという喜びを覚えたのかもしれない。
前橋さんの家を出て、一旦家に戻った。お昼までまだ1時間以上もあるので出かけるにはまだ早いかとも思ったが、以前外食した時に一弥が喜んでいたことを思い出したので、大したところには行けないがファミレスくらいには連れてってやろうかと思った。
「そろそろ出ようか」
「うん。……あ、でも昼の支度……」
「いいよ。行きながら食べよう。こないだとはまた違うところに連れてってやる。……大した所じゃないけどな」
あまり期待されるとがっかりされると思い、自虐的に最後に一言付け加えたのだけど、一弥は全く意に介していないようだった。
「建輔さんが連れてってくれるんなら、どこでもオッケーだよ!」
表情も態度も何もかも、全身でうれしいと表現した一弥が勢いよく俺に抱きついた。あまりに可愛い表現が愛おしくて、俺も一弥の髪をくしゃりと撫でる。
柔らかくサラサラとしたその感触が気持ちいい。しばらくそのまま髪を撫でていると、一弥が更に密着してきたので焦った。
「そろそろ行くぞ……」
ゆっくりと体を引き離すと、一弥は少し恨めしそうな眼で俺を見た。どうやらもう少し甘えていたかったらしいのだが、簡単に煽られてしまう俺の気持ちも察してほしい。
昼間っから仕事も忘れて、恋人に溺れてちゃまずいだろう。
非難の眼差しを向ける一弥を無視して歩き始めると、諦めがついたのだろう。ため息をつきながら、俺の後をついてきた。
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