拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第四章

再度現れた城田 3

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「同業者を売る気かよ」
「その同業者に迷惑かけてるのはお前だろ」

緊張した雰囲気がほぐれないせいか、リクもモモも未だにグルグルと唸っている。城田は一歩後退り、ため息をついた。

「ローザにとっては朝飯前な仕事が、山のように入って来るんだけどな」
「そんな名前は使うなと言っている! こいつはもうあの組織の人間じゃないんだ」

一弥が嫌がっているにも拘らず、しつこくローザの名前を使う城田にいいかげん腹が立ってきた。
やっと少しずつ一弥の価値観が上がり始めているんだ。あんな自分のことを人間扱いしないような捨鉢な状態になんて、絶対に戻させたりなんかしない。

カッとなって思わず声を荒げる俺の背後で、空気がゆらりと動いた。

「……城田さん、だっけ。俺のモラルはあんたが考えているようにかなり低いよ。だから気に入らない奴を陥れる事になんの躊躇もないし。……言ってる意味、わかる?」

低く冷たい、ドスの利いた声と表現すべきだろうか。しかもそれに加えて、最近見かけなくなっていた一弥の陰のある冷酷で艶のある表情が重なり、ぞくりと腹の中に奇妙な疼きが起こった。

城田は、そんな一弥を目の当たりにして息を呑み無言だ。

「……そんな俺をコントロール出来るのは、建輔さんだけなんだよ。建輔さんだけだ……」

冷たく暗い壮絶な色気を放ったままの一弥に、俺は出会った当初の事をふと思い出した。
あの頃の一弥は感情が偏り、どこか危なげで頑なだった。だがそれでも一弥の心の奥底には、ちゃんと温かく優しい気持ちがあったんだ。

一弥の今の変化は、別に俺がコントロールしているわけじゃない。カイリが植え付けた負の感覚はまだ残っているのだろうけれど、きっと心を壊すような殺伐とした世界に在していないことが、彼が本来の自分を取り戻す起因になっているはずだ。

だからこそきっと、今が一弥にとって一番大事な時なんだ。

「俺は揉め事は嫌いだ。だけど大事なモノを守るためなら、しなきゃならない事もあると思っている」

だから余計なちょっかいを出さないでくれと思いながら、城田を真正面からじっと見据えた。

どのくらいの長さだっただろう。俺も城田もお互い目をそらさずに、緊迫した空気が流れた。その状態に息がつまったのか、城田が先に少し視線をずらし息を吐いた。

「……ったく、噂は当てにならないな。腑抜けじゃねえじゃん、お前」
「当たり前だろ。建輔さんをバカにするなよな」
「…………」

すかさず切り返す一弥に少し呆れる。

……お前がそれを言うか?
以前かなり辛辣に馬鹿にされた記憶があるんだが。

まあだけど、意外と正直者な一弥のことだ。きっと俺に対して、両方の思いがあるのだろう。

「……お互い痛い腹を探り合うのは御免だから、引くことにしよう。だけど報酬はちゃんと払うし悪いようにするつもりはない。だからその気になったら声を掛けてくれ」

「その気になるわけないって言ってんだろ」

ボソッと一弥が吐き捨てるように言うのを聞き、城田は苦笑いをこぼした。そして片手を上げて踵を返し、もと来た道を戻って行った。

やれやれと思いながら一弥を抱き寄せ、「絆されるなよ」と言うと、「あり得ないよ」と返事が返った。


そして、ギュッと俺に抱きついた。
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