拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第四章

心配のタネ

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ざっとシャワーを浴びながら顔を洗い、すぐに朝食の支度に取り掛かった。

みそ汁の具にと、冷蔵庫から豆腐を取り出したところで一弥が寝室から出て来た。
ペタペタとスリッパの音を鳴らせ、瞼を擦りながらゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。

……まだ寝ぼけているのか?

一弥はバスルームへの方向から少しずれて、俺をめがけて歩いて来る。真っ直ぐペタペタと近付いて、そのままトンと俺の肩口に額を付けた。

「……一弥?」
「…………」

俺の問いには返事もせず、一弥はひとしきりギュウッと抱きついて、それで満足したのかそのままバスルームへと歩いて行った。

「何だあいつ……」

いかん。顔がにやける。

ご飯はすでに炊きあがっていたので味噌汁を作り卵を焼いて、キュウリを軽く塩揉みしてプチトマトを添えた。

……俺の料理なんてこんなもんだ。

食卓に並べていると、ちょうどタイミング良く一弥がやって来た。

「食べれるだろう? 支度できてるぞ」
「うん」

あきらかにいつもの朝食よりも劣る料理だが、それでも一弥は嬉しそうに食べ始めた。

「ところで峯野さんの個展、何時から行くの?」
「そうだな、午前中にリクとムムの散歩を済ませてから、個展の方は午後から行くことにしよう」
「今日はお掃除は入っていないの?」
「ああ。掃除の方は、もう少し先でいいらしい」
「へえ……」
「前橋さん、出来る範囲で頑張って掃除しているそうだぞ」
「そう言えばあの人、きっちりしていそうだったもんな」
「あの人じゃなく、前橋さんな」
「前橋さん……」
「そうだ」

朝食を済ませてから二人で前橋さんの家まで行った。

本当はあの二匹の散歩くらい一人で出来るので、俺だけで行って来ようと思ったのだが、犬好きの一弥が行きたがったので二人で行くことにした。

一弥を一人で行かせるのは、何となく不安だったからだ。城田の事もあるし。


それになにより、カルキとかいう奴のことが心配だったから。
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