上 下
40 / 98
第四章

聞き込み 2

しおりを挟む
「やっぱり、佐孝さんが言っていたことは本当だったね」
「そのようだな」 
「で、 どうする? そのまま別荘の方に行く?」
「いや、もう少し調べたい。ちょっと待ってろ」

俺はスマホを取り出して、彼の SNSを調べてみた。なんとなく今まで聞いてきた彼の勝手なイメージからは、SNSで発信すると言うタイプではなさそうだとは思っていたが、検索するとすぐに出てきた。意外に思ったが仕事のためにはやはりこういう発信力は必要なんだろう。

彼の出身は白川町。色々と目を通していくと白川商店街のことが親しみを持って書かれていることに気がついた。どうやら彼の実家はこの辺りらしい。ついでに白川商店街の場所も調べ、ここからそう遠くないことを確認した。

「行くぞ」
「え? どこへ?」
「白川商店街。きっとそこなら彼の素顔を知っている人達がたくさんいる」
「そこで聞き込み?」
「ああ、そうだ。俺らはフリーのジャーナリストだということにしておこう」 
「……なるほど。分かった」 

白川町は独特な雰囲気が残っている街だった。寂れてなくなってしまう商店街が多い中、まずまずの賑わいを見せていた。
肉屋に魚屋、それに雑貨店やドラッグストアなどが並んでいる。どこか聞きやすそうな店はないかとキョロキョロしていると、一弥が店の一箇所を凝視しているのに気がついた。その視線の先を見てみると、肉屋の店頭で売られているコロッケだった。

「どうした、欲しいのか?」
「うん……、美味しそうだなーって思って」
「そうか、じゃあ聞き込みが終わったら買って帰ろう」
「うん!」

嬉しそうに俺を見上げる一弥の顔が可愛い。頭に手を乗っけてグリグリした後、その肉屋で聞き込みをしてみようと思った。

「すみません」
「はい、いらっしゃい」
「美味しそうなコロッケですね。後で買いに伺いたいんですが、その前に陶芸家の峯野真人さんのことでお話を伺いたいんですが、ご存知でしょうか」

「真人君? 真人君なら小さい頃から知ってますけど、あなたは?」

「すみません、申し遅れました。私はフリーのジャーナリストの川口と申します。今回期待の陶芸家と言う特集ページを組むことになりまして、峯野先生のことを取材させていただきたいと思いまして」 

「まあ、真人くんの?」
「はい、峯野さんはお小さい頃どんなお子さんでしたか?」
「それはもう、礼儀正しくてしっかりしたお兄ちゃんタイプでしたね」
「そうなんですか。ということは、真人さんには妹か弟がいたんですか?」

「兄弟としては、確かお兄ちゃんがいたんじゃなかったかしら。ああ、そうそう。そういえばよく夕海ちゃんを連れていたわね……」

「夕海ちゃん?」
「あっ、ええ、そう。家がお隣同士だったから、真人君がよく面倒見てあげていたみたい」

「そうなんですか。じゃあその夕海ちゃんって子にも、お話を伺いに行こうかな。彼女は今どこにいるかご存知ですか?」

「あ……、それは……」

佐孝さんの話を出してしまった後から店主の歯切れが悪くなった。きっと事情を知っているからなんだろう。思い出話で思わずポロっと話してしまったことを、気まずく感じているらしい。 

「その夕海ちゃんの居所がわからないのなら別にいいですよ。他の方にも取材しようと思っていますので、その時に伺ってみます」
「それは止めてあげてください」
「え?」
「どういうことですか? 何か事情でも?」
「ここだけの話にしておいてもらえますか? 他言無用で記事にしないと約束してくれるのなら話します」
「わかりました、お約束します」

俺が真剣な表情で頷くと、店主は諦めたような表情でため息をつき口を開いた。

「真人君と夕海ちゃんはお隣さんだったこともあり、仲良かったです。面倒見のいい真人君に夕海ちゃんが随分懐いていて、お兄ちゃんお兄ちゃんって言いながらよく後をついていましたよ。彼女が中学生になった頃真人君は大学生だったんですけど、ちょっと雰囲気が違っていたんですよね。今から思い起こせば、その頃からお互いを恋愛対象として意識していたんでしょう」 

「ということは今は……」

「彼女が短大に入学した頃には、もう二人は付き合っていたと思うんです。その後も順調にお付き合いが続いて婚約の話まで持ち上がっていて、私ら商店街のみんなも何かお祝いをしてあげなければって話していたんですけど……。叶わなかったんですよ」

「それは……」

「私らにも詳しい事情はわからないんです。ただ、婚約破棄が決まってすぐに、一岡のお嬢さんとの結婚が決まってしまったでしょ? だから私らの間でもいろんな噂が飛び交ってね。それからは夕海ちゃんも、ここには来づらくなったのか顔を見せなくなってしまったんですけどね」

「そうなんですか……。言いにくいことを話してもらってありがとうございます。それでは他に、峯野さんの学生時代で陶芸に関わるようなエピソードとかあれば教えていただけませんか」

「そうねえ、確かもともと絵の好きな子じゃなかったかしら……」


この店主の話からもって、おそらくこの商店街では彼女以上のことを知っている人物はいないのではないだろうかと推測した。俺達にとってはとりとめのない彼の学生時代の話をいくつか聞き、一弥待望のコロッケを買った後、俺はもっと別のところに矛先を向けることを考えた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...