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第四章
聞き込み 2
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「やっぱり、佐孝さんが言っていたことは本当だったね」
「そのようだな」
「で、 どうする? そのまま別荘の方に行く?」
「いや、もう少し調べたい。ちょっと待ってろ」
俺はスマホを取り出して、彼の SNSを調べてみた。なんとなく今まで聞いてきた彼の勝手なイメージからは、SNSで発信すると言うタイプではなさそうだとは思っていたが、検索するとすぐに出てきた。意外に思ったが仕事のためにはやはりこういう発信力は必要なんだろう。
彼の出身は白川町。色々と目を通していくと白川商店街のことが親しみを持って書かれていることに気がついた。どうやら彼の実家はこの辺りらしい。ついでに白川商店街の場所も調べ、ここからそう遠くないことを確認した。
「行くぞ」
「え? どこへ?」
「白川商店街。きっとそこなら彼の素顔を知っている人達がたくさんいる」
「そこで聞き込み?」
「ああ、そうだ。俺らはフリーのジャーナリストだということにしておこう」
「……なるほど。分かった」
白川町は独特な雰囲気が残っている街だった。寂れてなくなってしまう商店街が多い中、まずまずの賑わいを見せていた。
肉屋に魚屋、それに雑貨店やドラッグストアなどが並んでいる。どこか聞きやすそうな店はないかとキョロキョロしていると、一弥が店の一箇所を凝視しているのに気がついた。その視線の先を見てみると、肉屋の店頭で売られているコロッケだった。
「どうした、欲しいのか?」
「うん……、美味しそうだなーって思って」
「そうか、じゃあ聞き込みが終わったら買って帰ろう」
「うん!」
嬉しそうに俺を見上げる一弥の顔が可愛い。頭に手を乗っけてグリグリした後、その肉屋で聞き込みをしてみようと思った。
「すみません」
「はい、いらっしゃい」
「美味しそうなコロッケですね。後で買いに伺いたいんですが、その前に陶芸家の峯野真人さんのことでお話を伺いたいんですが、ご存知でしょうか」
「真人君? 真人君なら小さい頃から知ってますけど、あなたは?」
「すみません、申し遅れました。私はフリーのジャーナリストの川口と申します。今回期待の陶芸家と言う特集ページを組むことになりまして、峯野先生のことを取材させていただきたいと思いまして」
「まあ、真人くんの?」
「はい、峯野さんはお小さい頃どんなお子さんでしたか?」
「それはもう、礼儀正しくてしっかりしたお兄ちゃんタイプでしたね」
「そうなんですか。ということは、真人さんには妹か弟がいたんですか?」
「兄弟としては、確かお兄ちゃんがいたんじゃなかったかしら。ああ、そうそう。そういえばよく夕海ちゃんを連れていたわね……」
「夕海ちゃん?」
「あっ、ええ、そう。家がお隣同士だったから、真人君がよく面倒見てあげていたみたい」
「そうなんですか。じゃあその夕海ちゃんって子にも、お話を伺いに行こうかな。彼女は今どこにいるかご存知ですか?」
「あ……、それは……」
佐孝さんの話を出してしまった後から店主の歯切れが悪くなった。きっと事情を知っているからなんだろう。思い出話で思わずポロっと話してしまったことを、気まずく感じているらしい。
「その夕海ちゃんの居所がわからないのなら別にいいですよ。他の方にも取材しようと思っていますので、その時に伺ってみます」
「それは止めてあげてください」
「え?」
「どういうことですか? 何か事情でも?」
「ここだけの話にしておいてもらえますか? 他言無用で記事にしないと約束してくれるのなら話します」
「わかりました、お約束します」
俺が真剣な表情で頷くと、店主は諦めたような表情でため息をつき口を開いた。
「真人君と夕海ちゃんはお隣さんだったこともあり、仲良かったです。面倒見のいい真人君に夕海ちゃんが随分懐いていて、お兄ちゃんお兄ちゃんって言いながらよく後をついていましたよ。彼女が中学生になった頃真人君は大学生だったんですけど、ちょっと雰囲気が違っていたんですよね。今から思い起こせば、その頃からお互いを恋愛対象として意識していたんでしょう」
「ということは今は……」
「彼女が短大に入学した頃には、もう二人は付き合っていたと思うんです。その後も順調にお付き合いが続いて婚約の話まで持ち上がっていて、私ら商店街のみんなも何かお祝いをしてあげなければって話していたんですけど……。叶わなかったんですよ」
「それは……」
「私らにも詳しい事情はわからないんです。ただ、婚約破棄が決まってすぐに、一岡のお嬢さんとの結婚が決まってしまったでしょ? だから私らの間でもいろんな噂が飛び交ってね。それからは夕海ちゃんも、ここには来づらくなったのか顔を見せなくなってしまったんですけどね」
「そうなんですか……。言いにくいことを話してもらってありがとうございます。それでは他に、峯野さんの学生時代で陶芸に関わるようなエピソードとかあれば教えていただけませんか」
「そうねえ、確かもともと絵の好きな子じゃなかったかしら……」
この店主の話からもって、おそらくこの商店街では彼女以上のことを知っている人物はいないのではないだろうかと推測した。俺達にとってはとりとめのない彼の学生時代の話をいくつか聞き、一弥待望のコロッケを買った後、俺はもっと別のところに矛先を向けることを考えた。
「そのようだな」
「で、 どうする? そのまま別荘の方に行く?」
「いや、もう少し調べたい。ちょっと待ってろ」
俺はスマホを取り出して、彼の SNSを調べてみた。なんとなく今まで聞いてきた彼の勝手なイメージからは、SNSで発信すると言うタイプではなさそうだとは思っていたが、検索するとすぐに出てきた。意外に思ったが仕事のためにはやはりこういう発信力は必要なんだろう。
彼の出身は白川町。色々と目を通していくと白川商店街のことが親しみを持って書かれていることに気がついた。どうやら彼の実家はこの辺りらしい。ついでに白川商店街の場所も調べ、ここからそう遠くないことを確認した。
「行くぞ」
「え? どこへ?」
「白川商店街。きっとそこなら彼の素顔を知っている人達がたくさんいる」
「そこで聞き込み?」
「ああ、そうだ。俺らはフリーのジャーナリストだということにしておこう」
「……なるほど。分かった」
白川町は独特な雰囲気が残っている街だった。寂れてなくなってしまう商店街が多い中、まずまずの賑わいを見せていた。
肉屋に魚屋、それに雑貨店やドラッグストアなどが並んでいる。どこか聞きやすそうな店はないかとキョロキョロしていると、一弥が店の一箇所を凝視しているのに気がついた。その視線の先を見てみると、肉屋の店頭で売られているコロッケだった。
「どうした、欲しいのか?」
「うん……、美味しそうだなーって思って」
「そうか、じゃあ聞き込みが終わったら買って帰ろう」
「うん!」
嬉しそうに俺を見上げる一弥の顔が可愛い。頭に手を乗っけてグリグリした後、その肉屋で聞き込みをしてみようと思った。
「すみません」
「はい、いらっしゃい」
「美味しそうなコロッケですね。後で買いに伺いたいんですが、その前に陶芸家の峯野真人さんのことでお話を伺いたいんですが、ご存知でしょうか」
「真人君? 真人君なら小さい頃から知ってますけど、あなたは?」
「すみません、申し遅れました。私はフリーのジャーナリストの川口と申します。今回期待の陶芸家と言う特集ページを組むことになりまして、峯野先生のことを取材させていただきたいと思いまして」
「まあ、真人くんの?」
「はい、峯野さんはお小さい頃どんなお子さんでしたか?」
「それはもう、礼儀正しくてしっかりしたお兄ちゃんタイプでしたね」
「そうなんですか。ということは、真人さんには妹か弟がいたんですか?」
「兄弟としては、確かお兄ちゃんがいたんじゃなかったかしら。ああ、そうそう。そういえばよく夕海ちゃんを連れていたわね……」
「夕海ちゃん?」
「あっ、ええ、そう。家がお隣同士だったから、真人君がよく面倒見てあげていたみたい」
「そうなんですか。じゃあその夕海ちゃんって子にも、お話を伺いに行こうかな。彼女は今どこにいるかご存知ですか?」
「あ……、それは……」
佐孝さんの話を出してしまった後から店主の歯切れが悪くなった。きっと事情を知っているからなんだろう。思い出話で思わずポロっと話してしまったことを、気まずく感じているらしい。
「その夕海ちゃんの居所がわからないのなら別にいいですよ。他の方にも取材しようと思っていますので、その時に伺ってみます」
「それは止めてあげてください」
「え?」
「どういうことですか? 何か事情でも?」
「ここだけの話にしておいてもらえますか? 他言無用で記事にしないと約束してくれるのなら話します」
「わかりました、お約束します」
俺が真剣な表情で頷くと、店主は諦めたような表情でため息をつき口を開いた。
「真人君と夕海ちゃんはお隣さんだったこともあり、仲良かったです。面倒見のいい真人君に夕海ちゃんが随分懐いていて、お兄ちゃんお兄ちゃんって言いながらよく後をついていましたよ。彼女が中学生になった頃真人君は大学生だったんですけど、ちょっと雰囲気が違っていたんですよね。今から思い起こせば、その頃からお互いを恋愛対象として意識していたんでしょう」
「ということは今は……」
「彼女が短大に入学した頃には、もう二人は付き合っていたと思うんです。その後も順調にお付き合いが続いて婚約の話まで持ち上がっていて、私ら商店街のみんなも何かお祝いをしてあげなければって話していたんですけど……。叶わなかったんですよ」
「それは……」
「私らにも詳しい事情はわからないんです。ただ、婚約破棄が決まってすぐに、一岡のお嬢さんとの結婚が決まってしまったでしょ? だから私らの間でもいろんな噂が飛び交ってね。それからは夕海ちゃんも、ここには来づらくなったのか顔を見せなくなってしまったんですけどね」
「そうなんですか……。言いにくいことを話してもらってありがとうございます。それでは他に、峯野さんの学生時代で陶芸に関わるようなエピソードとかあれば教えていただけませんか」
「そうねえ、確かもともと絵の好きな子じゃなかったかしら……」
この店主の話からもって、おそらくこの商店街では彼女以上のことを知っている人物はいないのではないだろうかと推測した。俺達にとってはとりとめのない彼の学生時代の話をいくつか聞き、一弥待望のコロッケを買った後、俺はもっと別のところに矛先を向けることを考えた。
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