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第四章

細やかでも幸せなこと

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しばらく愛おしい気持ちで一弥を抱きしめていた。
そのうち、一弥の方の震えも収まり落ち着いてきたようなので、そっと腕を離す。

「そろそろ始めようか」
「……うん。――で、どっから手を付けるの?」

「そうだなあ。一応陶芸の世界では名の知れた人物だろうから、ネットで略歴を見てみるか。それを元に知人を捜して色々と聞いてみよう」

「ああ、なるほど。その方が正確な情報を聞けるかもしれないね」

俺の言葉に、一弥は検索を始めた。

「ええっと……、峯野真人……と。あ、出た」
「……なになに、北条美術工芸大学を卒業後、〇△陶芸展、日展入賞……。それはどうでもいいか、……岐阜の窯元に就職。三十歳に独立、後に重鎮一岡重光の目に留まり、長女ひろ美と結婚」

「あまり詳しいプロフィールは書かれてないんだね。どうする? この大学に行ってみる?」
「そうだな。ある程度有名になっているわけだから、訪ねれば知り合いに会えるかもしれんな」
「えっと、お昼ご飯どうしようか。作ってから……」
「ああ、いい、いい。どっかファーストフードにでも入ろう。たまにはいいだろ」
「あ……、うん!」

……?
一瞬嬉しそうに、キラキラと目を輝かせて頷く一弥に小首を傾げた。
あ、もしかしたら、ご飯作るの面倒くさくなってきてるのかな?
以外に美味いから、ついつい一弥任せになってたものなあ。

「あー、悪かったな一弥」
「何が?」
「俺もご飯づくり手伝うようにするからな」
「――なんで?」
「え? いや、面倒くさいだろ? ついつい任せっぱなしだったし……」
「別にそんなこと考えたことも……、あっ、ああ……。もしかしてファーストフード店で食べようって言われて喜んだの気づいちゃった?」

「え? まあ」
「だってしょうがないだろ? 外食ってやつ、俺ほとんどしたことないんだもん」
「え?」
「……前にいたところでは以外ではほとんど外に出してもらえなかったし、それ以前も……、最低な生活だったからさ」

あ……。

特に卑下するわけでもなく全く普通の表情で俺を見上げる一弥に、胸の中が熱くなってきた。愛しくてそれでいて切ないような、大切にしたいと思うそんな気持ちが……。

手を伸ばして一弥の頭を、犬をめでるようにわしゃわしゃしてみた。そしてギュッとこちら側に引き寄せる。

「建輔さん?」
「……金がなくて、たいして良いところに連れて行ってやれなくて悪いな」

熱く込み上げて来るものをごまかす為に、ぼそりと格好悪いことをつぶやいた。

一弥は小さく笑って俺の背中に腕を回した。
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