拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第四章

わけありの依頼人

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飯を食い終わり、片づけを済ませたころ時計の針が十時を指した。その時間を見計らったかのように、玄関チャイムが鳴る。
出迎えて扉を開けると、二十代後半くらいの控えめな女性が立っていた。

「佐孝です。あの、十時に予約させていただいてたのですが……」
「はい、伺っております。どうぞ」
「失礼します」

来客用のソファに座らせ、一弥にお茶を淹れるように頼んだ。緊張しているのだろう、表情の硬い佐孝さんをリラックスさせるように努めて明るく切り出した。

「ご相談内容は確認しました。盗まれた天女像を取り返してほしいとのことですが、大事にしたくないという事情をよければ教えていただけますか?」

「事情……、ですか?」

佐孝さんは戸惑いの表情を見せた。そんなことまで言わなきゃならないのかと思ったようだ。

「うちは依頼人に対して守秘義務を負っています。ですのでここで聞いたことは、決して他に漏らすことはありませんので安心してください。ただ、俺自身はこういう犯罪は、犯罪者のためにも警察に届けるべきだと考えています」

「それは……、出来ません。駄目なんです」
「でしたら教えてください。事情によってはあなたの力になりたいと思っています」
「…………」

佐孝さんの表情が揺れた。もしかしたら彼女は、他人に自分のことを相談することが苦手なタイプなのかもしれない。

「どうぞ」
「……あ、すみません」

いいタイミングで一弥がお茶を持ってきた。三人分のお茶をテーブルに置いた後、自分も俺の隣に腰かけた。

「話した方がいいと思うよ」
「……え?」

突然一弥に話しかけられて、驚いたように佐孝さんが顔を上げた。

「……実は俺も訳ありでさ。建輔さんに……、あ、この人ね。に、世話になってる。こんなお人好し、俺他に知らないよ。だからお姉さんも、ここで相談した方がいいと思う。他の何でも屋や探偵よりもきっと親身になって解決してくれるから。ね?」

そう言って、俺に同意を求めるように俺の方を向く。言っていることは嘘ではないので、苦笑しながら俺は頷いた。

それにしても驚いたのは、人見知りだと言っていたくせに一弥が初対面の佐孝さんに自分から話しかけていたことだ。
もしかしたら佐孝さんの浮かべるその不安の色から、ここに来る前の自分とを重ね合わせてしまっているのかもしれないが。

「……分かりました。お話しします」

佐孝さんは意を決したように、キュッと唇を結んだ。
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