32 / 98
第四章
わけありの依頼人
しおりを挟む
飯を食い終わり、片づけを済ませたころ時計の針が十時を指した。その時間を見計らったかのように、玄関チャイムが鳴る。
出迎えて扉を開けると、二十代後半くらいの控えめな女性が立っていた。
「佐孝です。あの、十時に予約させていただいてたのですが……」
「はい、伺っております。どうぞ」
「失礼します」
来客用のソファに座らせ、一弥にお茶を淹れるように頼んだ。緊張しているのだろう、表情の硬い佐孝さんをリラックスさせるように努めて明るく切り出した。
「ご相談内容は確認しました。盗まれた天女像を取り返してほしいとのことですが、大事にしたくないという事情をよければ教えていただけますか?」
「事情……、ですか?」
佐孝さんは戸惑いの表情を見せた。そんなことまで言わなきゃならないのかと思ったようだ。
「うちは依頼人に対して守秘義務を負っています。ですのでここで聞いたことは、決して他に漏らすことはありませんので安心してください。ただ、俺自身はこういう犯罪は、犯罪者のためにも警察に届けるべきだと考えています」
「それは……、出来ません。駄目なんです」
「でしたら教えてください。事情によってはあなたの力になりたいと思っています」
「…………」
佐孝さんの表情が揺れた。もしかしたら彼女は、他人に自分のことを相談することが苦手なタイプなのかもしれない。
「どうぞ」
「……あ、すみません」
いいタイミングで一弥がお茶を持ってきた。三人分のお茶をテーブルに置いた後、自分も俺の隣に腰かけた。
「話した方がいいと思うよ」
「……え?」
突然一弥に話しかけられて、驚いたように佐孝さんが顔を上げた。
「……実は俺も訳ありでさ。建輔さんに……、あ、この人ね。に、世話になってる。こんなお人好し、俺他に知らないよ。だからお姉さんも、ここで相談した方がいいと思う。他の何でも屋や探偵よりもきっと親身になって解決してくれるから。ね?」
そう言って、俺に同意を求めるように俺の方を向く。言っていることは嘘ではないので、苦笑しながら俺は頷いた。
それにしても驚いたのは、人見知りだと言っていたくせに一弥が初対面の佐孝さんに自分から話しかけていたことだ。
もしかしたら佐孝さんの浮かべるその不安の色から、ここに来る前の自分とを重ね合わせてしまっているのかもしれないが。
「……分かりました。お話しします」
佐孝さんは意を決したように、キュッと唇を結んだ。
出迎えて扉を開けると、二十代後半くらいの控えめな女性が立っていた。
「佐孝です。あの、十時に予約させていただいてたのですが……」
「はい、伺っております。どうぞ」
「失礼します」
来客用のソファに座らせ、一弥にお茶を淹れるように頼んだ。緊張しているのだろう、表情の硬い佐孝さんをリラックスさせるように努めて明るく切り出した。
「ご相談内容は確認しました。盗まれた天女像を取り返してほしいとのことですが、大事にしたくないという事情をよければ教えていただけますか?」
「事情……、ですか?」
佐孝さんは戸惑いの表情を見せた。そんなことまで言わなきゃならないのかと思ったようだ。
「うちは依頼人に対して守秘義務を負っています。ですのでここで聞いたことは、決して他に漏らすことはありませんので安心してください。ただ、俺自身はこういう犯罪は、犯罪者のためにも警察に届けるべきだと考えています」
「それは……、出来ません。駄目なんです」
「でしたら教えてください。事情によってはあなたの力になりたいと思っています」
「…………」
佐孝さんの表情が揺れた。もしかしたら彼女は、他人に自分のことを相談することが苦手なタイプなのかもしれない。
「どうぞ」
「……あ、すみません」
いいタイミングで一弥がお茶を持ってきた。三人分のお茶をテーブルに置いた後、自分も俺の隣に腰かけた。
「話した方がいいと思うよ」
「……え?」
突然一弥に話しかけられて、驚いたように佐孝さんが顔を上げた。
「……実は俺も訳ありでさ。建輔さんに……、あ、この人ね。に、世話になってる。こんなお人好し、俺他に知らないよ。だからお姉さんも、ここで相談した方がいいと思う。他の何でも屋や探偵よりもきっと親身になって解決してくれるから。ね?」
そう言って、俺に同意を求めるように俺の方を向く。言っていることは嘘ではないので、苦笑しながら俺は頷いた。
それにしても驚いたのは、人見知りだと言っていたくせに一弥が初対面の佐孝さんに自分から話しかけていたことだ。
もしかしたら佐孝さんの浮かべるその不安の色から、ここに来る前の自分とを重ね合わせてしまっているのかもしれないが。
「……分かりました。お話しします」
佐孝さんは意を決したように、キュッと唇を結んだ。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる