拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第三章

一弥の需要

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出ていた荷物は総て詰め込んだ。一弥の方も、ちょうどすべての本を縛り終えたところのようだった。

「さて、じゃあ荷物をトラックに積んでいくか」

冷蔵庫のトレイの水を捨てた後、タオルで水けをふき取り一弥を呼んだ。1人用の小型冷蔵庫なので、だいぶ楽だ。運搬時に傷を付けないように、ビニールシートや古い毛布などを使ってトラックに積み込む。
何度か荷物を運ぶために往復しているとき、後ろで一弥が誰かとぶつかる気配がした。

「おいっ、何だよお前」

迷惑そうな一弥の声に驚いて振り向くと、どこかで見たことのある奴が一弥に腕を振り払われているところだった。
誰だったか……?

「あれ? あんた……、ああ、もしかしてあんた同業者の……腑……、ああ、いや。えっと、川口さん?」

……こいつ、今俺のこと腑抜けって言おうとしたな……。

どこかで見た顔だと思ったら、そうか、同業者か。

「川口さん、どうかしましたか?」

俺らの戻りが遅いのを不審に思い、大田さんが部屋から出てきた。まだ運ぶものが残っている。

「大丈夫です! すぐ行きますから」
「あ、もしかして引っ越し作業中か」
「そうだ、仕事中だ。一弥、行くぞ」

一弥を呼び部屋に行こうとしたとき、男は俺に素早く名刺を渡す。城田次郎サービス?

「同業の城田だ。今度その一弥君を貸してくれないかな? 彼、例のだろ?」
「断る」
「え? いやもちろん、助っ人料は払うよ」
「そういう問題じゃない。こいつは俺の専属だ。契約も交わしているから、優秀な人材を確保したいのなら他を当たってくれ。行くぞ」
「うん」
「あ、おい! ちょっと君、話くらい……」

後ろから城田がさらに声をかけるが、無視をして一弥を引っ張った。
何が優秀な人材だ。一弥に違法ギリギリな仕事をさせる気だろう。

そんなことは絶対にさせないと、俺はギュッと一弥の手を握り締めた。

「大田さん、すみません。ええっと、荷物はこれで最後ですね?」
「はい。お願いします」

結構大きい段ボールは、中にぎゅうぎゅうに詰めこまれているようでまあまあ重い。一人で無理して運ぶことも出来なくはないが、無理して腰とかを痛めてしまっては元も子もないので一弥と二人で運びトラックに積み込んだ。

「川口さん」
「…………」

まだ待ってやがったのか、この野郎。
嫌な気分だが、客の前で言い争う気は無いので無言で城田の方を向いた。

「仕事中とは知らずにすみませんでした。……一弥君の件については、後程お願いにあがります」

「それはさっきちゃんと断った。一弥はうちの専属で正社員だし、こいつが抜けると手が回らないんだ。余所を当たってくれと言ったはずだ」

「……それでもお願いしたいのですよ。では、仕事中失礼しました」

城田は悪びれる風もなく、言うだけ言って帰って行った。
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