10 / 98
第二章
ローザ 2
しおりを挟む
「ちょ……っ、お、お前……!」
明らかに一弥を目の前にして、谷塚は完璧にパニクっている。その様子を見た一弥は一弥で、訝しい表情で俺を見た。
「……ああ、ホラ。いいから、……ええっと、食器とか片付けといてくれ」
「――分かった」
胡乱げな視線を俺らに投げつけた後、一弥は一応素直に台所へと向かった。
「……おいっ、おい!」
「煩い、静かにしろよっ」
興奮冷めやらない谷塚に少々うんざりしてきた。
「谷塚」
「……なんだ?」
「あいつのこと、誰かに喋ったら許さないからな」
「誰かにって、お前……。ああっ! 独り占めする気だな! 狡いぞ、それ」
「バカなことを言うな! 変な奴らにいいように利用されるような人生は、終わりにさせてやりたいって言ってるんだ! それに、今のあいつはここの従業員だ。契約書も後でちゃんと作ってやる」
「随分肩入れしてるんだな」
「そんなわけじゃない。それより、いいか? 他言無用だからな」
「わかったよ。誰にも喋らない、約束する」
「ならいい、入れよ」
谷塚はいつものようにリビングのソファに座った。そしてそこから一弥が食器を洗っている姿をしばらく黙って見ていた。
「……随分懐いてるようだったよな」
「そうか?」
「そうだろ! さっきお前の背中にべったり張り付いてたぜ? 俺、しっかり見てたんだからな」
「…………」
「なあ」
谷塚が、声を落として体を乗り出した。
「……なんだよ」
警戒心たっぷりに聞き返すと、谷塚は可笑しそうに口角を上げた。
「ローザにもっと懐いてもらってさ、俺の仕事に貸してくれよ」
「……お前っ! 俺がさっき行ったことちゃんと聞いて無かったのかよ! やっと自由になれたんだろ? 危なっかしい仕事に巻き込むなよ!」
「だからお前は甘っちょろいんだ! 当の本人は今まできっと、俺らになんて想像つかない凄いことをして来たんだぞ。それに比べりゃ俺の仕事なんて、奴には目を瞑ってても出来る簡単な仕事だろ?」
「なんだお前のその言い方は……! 偏見に満ち溢れて……、お、おいっ!!」
お互いヒートアップして言い合いをしている最中に、突然包丁が視界に入ってきてびっくりした。
一弥がいつの間にかやってきて、谷塚の胸倉を掴み包丁を突き付けている。
「おい! アンタわざわざ健輔さんに喧嘩売りに来たのかよ」
「お……、お……、おいっ」
さすがの谷塚も、目の前に逆さ包丁を突きつけられては生きた心地がしないのだろう。真っ青な顔で固まっている。
「一弥! 止めろ!」
「なんでさ? こいつアンタの敵なんだろ?」
「違う、違う。同業者だ! 敵じゃない」
一弥のとんでもない勘違いを俺が慌てて否定すると、一弥は胸倉を掴んでいた手をパッと離した。そして包丁を持って台所に向かう途中、俺の目の前で立ち止まった。
「遠慮しないでもいいんだよ。アンタの気に入らない奴は、俺がみんな殺してやるから」
「一弥……」
本気なのか冗談なのか、二ッと笑っておれに告げる一弥に背筋が冷えた。谷塚も、俺同様蒼い顔をしている。
「……随分川口にご執心だな。犯罪集団のリーダーの愛人から、川口の用心棒に変わったのか?」
強がりなのか何なのか、よせばいいのに谷塚が一弥に意味深な悪態を吐く。見てるこっちが冷や冷やだ。
その声に立ち止まった一弥は、フッと口元を緩ませ静かに笑んだ。
「用心棒じゃないよ。――愛人だ」
!!?
とんでもない爆弾発言に、驚いたのは谷塚じゃなく俺だった。
愛人!? 何でそうなる!
谷塚も、さっきまで蒼くなっていたのに今はそれも吹っ飛ぶ間抜け面で俺を見ている。
「一弥!?」
「昨日一緒に寝たじゃない」
「お……、お前そんな趣味が……」
「ち……、違う違う違うー!!」
何を元にそんなあほなことを言い出すのか、シレっとした態度が、変な信ぴょう性を増していた。おかげで俺もきっと顔は真っ赤だが、谷塚も赤くなったり蒼くなったりと顔色を様々に変えている。
慌てふためく俺らを前に、一弥がニコリと微笑んだ。
「――最も、カイリみたいに抱いてはくれなかったけど。……でもいつかは抱いてくれるんだろ?」
「……一弥……!!」
「……!!」
俺はもう、絶句するしかない。顔は熱いし、汗ダラダラだ。
俺はもしかしなくても、とんでもない奴を拾っちまったんじゃないだろうか……。
どうやらこの流れに、谷塚も色々と理解はしてくれたらしいが……。
「……邪魔したな。そろそろ仕事に向かわないといけないから、俺、もういくわ」
「あ、……お、おう」
玄関に送り出す俺に、谷塚がコソッとささやいた。
「……あいつ、やっぱりローザだったな」
「…………」
「カイリってのは、例の『目を開けた獅子』のリーダーだ」
「谷塚……」
「分かってる。誰にも内緒だ。じゃあな」
「ああ、またな」
パタンとドアが閉まり、足音も遠のいていく。
俺は知らずため息を吐いていた。
明らかに一弥を目の前にして、谷塚は完璧にパニクっている。その様子を見た一弥は一弥で、訝しい表情で俺を見た。
「……ああ、ホラ。いいから、……ええっと、食器とか片付けといてくれ」
「――分かった」
胡乱げな視線を俺らに投げつけた後、一弥は一応素直に台所へと向かった。
「……おいっ、おい!」
「煩い、静かにしろよっ」
興奮冷めやらない谷塚に少々うんざりしてきた。
「谷塚」
「……なんだ?」
「あいつのこと、誰かに喋ったら許さないからな」
「誰かにって、お前……。ああっ! 独り占めする気だな! 狡いぞ、それ」
「バカなことを言うな! 変な奴らにいいように利用されるような人生は、終わりにさせてやりたいって言ってるんだ! それに、今のあいつはここの従業員だ。契約書も後でちゃんと作ってやる」
「随分肩入れしてるんだな」
「そんなわけじゃない。それより、いいか? 他言無用だからな」
「わかったよ。誰にも喋らない、約束する」
「ならいい、入れよ」
谷塚はいつものようにリビングのソファに座った。そしてそこから一弥が食器を洗っている姿をしばらく黙って見ていた。
「……随分懐いてるようだったよな」
「そうか?」
「そうだろ! さっきお前の背中にべったり張り付いてたぜ? 俺、しっかり見てたんだからな」
「…………」
「なあ」
谷塚が、声を落として体を乗り出した。
「……なんだよ」
警戒心たっぷりに聞き返すと、谷塚は可笑しそうに口角を上げた。
「ローザにもっと懐いてもらってさ、俺の仕事に貸してくれよ」
「……お前っ! 俺がさっき行ったことちゃんと聞いて無かったのかよ! やっと自由になれたんだろ? 危なっかしい仕事に巻き込むなよ!」
「だからお前は甘っちょろいんだ! 当の本人は今まできっと、俺らになんて想像つかない凄いことをして来たんだぞ。それに比べりゃ俺の仕事なんて、奴には目を瞑ってても出来る簡単な仕事だろ?」
「なんだお前のその言い方は……! 偏見に満ち溢れて……、お、おいっ!!」
お互いヒートアップして言い合いをしている最中に、突然包丁が視界に入ってきてびっくりした。
一弥がいつの間にかやってきて、谷塚の胸倉を掴み包丁を突き付けている。
「おい! アンタわざわざ健輔さんに喧嘩売りに来たのかよ」
「お……、お……、おいっ」
さすがの谷塚も、目の前に逆さ包丁を突きつけられては生きた心地がしないのだろう。真っ青な顔で固まっている。
「一弥! 止めろ!」
「なんでさ? こいつアンタの敵なんだろ?」
「違う、違う。同業者だ! 敵じゃない」
一弥のとんでもない勘違いを俺が慌てて否定すると、一弥は胸倉を掴んでいた手をパッと離した。そして包丁を持って台所に向かう途中、俺の目の前で立ち止まった。
「遠慮しないでもいいんだよ。アンタの気に入らない奴は、俺がみんな殺してやるから」
「一弥……」
本気なのか冗談なのか、二ッと笑っておれに告げる一弥に背筋が冷えた。谷塚も、俺同様蒼い顔をしている。
「……随分川口にご執心だな。犯罪集団のリーダーの愛人から、川口の用心棒に変わったのか?」
強がりなのか何なのか、よせばいいのに谷塚が一弥に意味深な悪態を吐く。見てるこっちが冷や冷やだ。
その声に立ち止まった一弥は、フッと口元を緩ませ静かに笑んだ。
「用心棒じゃないよ。――愛人だ」
!!?
とんでもない爆弾発言に、驚いたのは谷塚じゃなく俺だった。
愛人!? 何でそうなる!
谷塚も、さっきまで蒼くなっていたのに今はそれも吹っ飛ぶ間抜け面で俺を見ている。
「一弥!?」
「昨日一緒に寝たじゃない」
「お……、お前そんな趣味が……」
「ち……、違う違う違うー!!」
何を元にそんなあほなことを言い出すのか、シレっとした態度が、変な信ぴょう性を増していた。おかげで俺もきっと顔は真っ赤だが、谷塚も赤くなったり蒼くなったりと顔色を様々に変えている。
慌てふためく俺らを前に、一弥がニコリと微笑んだ。
「――最も、カイリみたいに抱いてはくれなかったけど。……でもいつかは抱いてくれるんだろ?」
「……一弥……!!」
「……!!」
俺はもう、絶句するしかない。顔は熱いし、汗ダラダラだ。
俺はもしかしなくても、とんでもない奴を拾っちまったんじゃないだろうか……。
どうやらこの流れに、谷塚も色々と理解はしてくれたらしいが……。
「……邪魔したな。そろそろ仕事に向かわないといけないから、俺、もういくわ」
「あ、……お、おう」
玄関に送り出す俺に、谷塚がコソッとささやいた。
「……あいつ、やっぱりローザだったな」
「…………」
「カイリってのは、例の『目を開けた獅子』のリーダーだ」
「谷塚……」
「分かってる。誰にも内緒だ。じゃあな」
「ああ、またな」
パタンとドアが閉まり、足音も遠のいていく。
俺は知らずため息を吐いていた。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる