拾ったのは、妖艶で獰猛な猫だった

くるむ

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第一章

あざとい猫 2

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「健輔さん!」

俺がくるりと向こうを向いたことに驚いたのか、一弥がもどうしたの?とでも言いたげな声音で俺を呼んだ。
だけどそんな声で振り向こうものなら、また揶揄われるか笑われるかが落ちだから、俺は無視してそのままの姿勢を維持することにした。

ピトリ。

起き上がった一弥が、俺の肩に手を置いた。だけど強引にこちらを向かせるようなことはせず、強請るように肩をスリスリと撫で続ける。

……こいつ。

「健輔さん……。1人で先に寝ちゃわないでよ。こっち向いて? 淋しいよ」
「……!!」

「健輔さんと喧嘩したままなんて眠れないよ。お願いだから……」
「…………」

猫なで声……、いや、またしょんぼりとした声で一弥が背後から訴える。

可愛いこと言いやがって……。そんなこと思っても無いくせに……。

とにかく! こいつの声音に翻弄されるのはもう止めだ。
知らん、知らん!

心の中で「知らん」と何度も呪文のように唱えて無視を決め込む。だけど背後の一弥は諦める気配はなく、体を起こしたまま一向に横になろうとはしなかった。

「健輔さん……」

弱弱しく俺を呼ぶ声に心が揺れる。
知らんったら、知らないんだからな!

「…………」
「…………」

呼んでも聞かない俺に、今度はシーツをいじいじと弄り始めた。

「…………」

……この野郎。

……根負けだ。

「……こっち向いてやるから、さっさと寝ろ」

しょうがないからまた俺は、くるりと一弥の方を向いた。
すると、するりと一弥は布団の中に入ってきて向き合ったまま俺にくっ付いてきた。

え?

さらに一弥は、少し体をずらして俺の胸の中に潜り込むような態勢になり、ぴっとりと俺にくっ付いた。

「お……、おい?」

驚きすぎて声が上ずる。
どうしたものかと躊躇する俺の胸に、一弥はすりっと頬を寄せた。

「寒いんだもん」

悪びれも無くそう呟いて、安堵したのか目を閉じて寛いだ表情をしている一弥を見ては、無理やり引き剥がす気にはなれなかった。

……くそっ。

上になっている方の手で、一弥の肩を抱いた。
布越しに、一弥のぬくもりがじわじわと伝わってくる。

ドキドキと煩い心臓はしばらく治まる気配はなく、俺は悶々とした時間と長い間戦う羽目に陥っていた。
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