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第一章

なんだか分からないが、拙い気がする…

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アパートに戻って風呂を済ませ、一弥にも入ってくるように勧めた。

……布団、どうしたものかな。

俺んちにはベッドなんてものは無い。
物にこだわりの無い俺は、余分なものは買わない主義だ。

……いくら畳間だからって直寝は痛いだろう。敷布団も余分に無いし……。

考えあぐねた結果、座布団を三枚くらい縦に並べて置いて、敷布団の代わりにしてもらうことにした。
上布団は一応予備があるのでそれを被ってもらえばそれでいいだろう。

「お風呂ありがとう。凄いいい湯だった。久しぶりにさっぱり出来たよ」

そう言いながら、すっかり温まりホカホカ状態の一弥が機嫌よく傍にやって来た。
これが本来の姿なんだろう。髪はさっきよりも艶々していてふわふわだ。しかも頬も唇も血行が良くなって、艶やかプルプルの桜色度を増している。
……やっぱりこれは、思わず撫でてしまいたくなるよな。さっきのナンパ男の気持ちも、うん。……分からなくはない。

……これが同じ男だなんて、あり得ねぇ。

「……健輔さん?」
「……っ、えっ!?」

一弥のことを色々考えているところに突然名前を呼ばれ、素っ頓狂な声が出た。

「……? あ、間違ってた? 確か川口……」
「ああ、健輔だ。間違ってないよ。ちょっとぼうっとしてたからびっくりしただけだ。何?」

まさか一弥が俺の名を呼んでくれるとは思っても無かった。
そう言ったら自分は一弥のことを呼び捨てにしてるくせにと思うかもしれないけど、一弥はそんなフレンドリーなキャラには見えなかったから、せいぜい苗字呼びだと勝手に想像していたんだ。

「パジャマ、ありがとう。……でも俺にはちょっと大きすぎるみたい」
「ああ、そう言えば少しブカブカしてるな……」
「でも着心地いいよ。……彼シャツみたい」
「え゛……っ!?」

艶やかな笑みを見せながらとんでもないことを言うから、裏返った変な声が出た。

「ぷはっ……。なんて声出してんだよ?」
「あ……、いや……。ええっと、悪いが敷布団が一つしかないんだ。座布団で代用させてもらったが、それでいいか?」
「うん、構わないよ。……寝るところがあるんなら、雑魚寝でもなんでも苦にならないから」
「そうか。じゃあ、眠たかったら先に寝てていいぞ。俺はもう少し起きてるから」
「俺も、まだいいよ」
「そうか?」

まあ、いいか。一弥の相手をしないといけないわけじゃ無いんだ。
俺はリビングに戻ってパソコンを立ち上げ、『なんでも屋・川口』のHPを開いた。

……少し、出来る仕事を増やした方がいいのかな。

背もたれに凭れて腕を組み、うーんと唸る。

背後から、一弥の顔がひょいっと出てきた。

「うわっ、なっ、なんだ!」

突然綺麗な顔が真横に出てきて、びっくりした。

心臓がバクバク言っているのは、驚いたからだよな?
絶対一弥にドキドキしているわけじゃないぞ。

「健輔さんって『なんでも屋』やってるんだ」
「ああ」
「……俺もお手伝いしようかな」
「――え?」
「ダメ? ……ダメならしょうがないけど……、俺、行く当て無いんだよね。身寄りもないし金もないし。……健輔さんがここに居ても良いって言うなら、俺もなんでも屋の従業員になりたいんだけど」

「…………」

丸めの切れ長の瞳をくるんとさせて、かなりの至近距離で俺を見つめる。

……トクン。……トクン。……トクン。

……おい、なんだこのトクントクンと騒がしいのは……っ。

「ダメ……なの? やっぱ、俺なんて迷惑……」
「あっ、いや、そう言う事じゃない! 手伝ってくれるのなら、俺も助かる!」

途端にシュンとしたその幼さを残す表情に、俺は咄嗟にその手を取って否定した。
そんな俺に、みるみる一弥の表情が明るく輝いた。

「本当!? ありがとう、ありがと! 俺、頑張るから!」

ガバリと抱き着く一弥から、何とも言えないほわりとした温かく柔らかな匂いを感じる。


――拙いだろ……。

何が拙いのかは分からないけど、俺はわけの分からない焦燥感に陥っていた。
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