2 / 98
第一章
出会い
しおりを挟む
「終わりました」
水漏れはパッキンを交換して終了。大したことは無かった。
「ありがとう。お世話様。川口さんは仕事が丁寧だから助かるわ。近いうちに剪定もしてもらいたいから、また連絡するわね」
「はい、ありがとうございます」
代金をもらい、向坂さんの家を後にした。
真面目で堅物な性格が、たまには功を奏することがある。
仕事だけは丁寧に仕上げたい。そんな俺の姿勢に好感を持ってくれる向坂さんのようなお客さんもたまにいて、気が付くと常連さんが何人かついていたのだ。
……とは言っても単価はたかが知れているので、懐が潤うというほどまでには至らないところが悲しいところだ。
仕事がないよりはましだよなぁ。
HPだけじゃなく、たまにはチラシ配りとかもした方がいいんだろうか……。
考え事をしながらペットショップの前を通りかかったら、ギャンギャンと煩い犬の鳴き声と怒声が聞こえて来た。
え? と思って振り返った途端、誰かにぶつかりもふもふの毛玉の塊が顔の辺りを掠める。
「お兄さん! そこのあんた! その犬捕まえて!!」
必死の形相で言い募るその人の迫力に押されて指した指の先を見ると、まだちっちゃな子犬がひっくり返った状態で投げ出されていた。きっとさっきのもふもふの毛玉だ。
見ると今にも起き上がって走り出しそうな気配だったので、慌ててタックルするように子犬を抱きかかえた。
「ハア―。ありがとうございました、助かりましたー」
エプロンをしたおじさんがホッとした表情で近寄って来た。どうやらペットショップの店員のようだ。
「ああ、いや。捕まえられて良かったです」
「テメー、このヤロー! 何邪魔しやがってんだよ!」
子犬を無事に店員に渡せたと思ったら、横から胸倉をつかむくらいの勢いで怒鳴られた。
「なに言ってんだお前! この人が捕まえてくれたから助かったんだろうが! 来い! 警察に通報するからな!」
え? え? え?
何がどうなってるんだ?
……あ?
この子、どこかで……。あっ! さっきの、谷塚が見せてくれた少年じゃないか!
俺がそう気づいた瞬間、その少年は走って逃げだした。
「おい! 待ちなさい、……ああっ」
店員の慌てる声を背に、俺は気がついたら反射的にその少年の後を追いだしていた。
水漏れはパッキンを交換して終了。大したことは無かった。
「ありがとう。お世話様。川口さんは仕事が丁寧だから助かるわ。近いうちに剪定もしてもらいたいから、また連絡するわね」
「はい、ありがとうございます」
代金をもらい、向坂さんの家を後にした。
真面目で堅物な性格が、たまには功を奏することがある。
仕事だけは丁寧に仕上げたい。そんな俺の姿勢に好感を持ってくれる向坂さんのようなお客さんもたまにいて、気が付くと常連さんが何人かついていたのだ。
……とは言っても単価はたかが知れているので、懐が潤うというほどまでには至らないところが悲しいところだ。
仕事がないよりはましだよなぁ。
HPだけじゃなく、たまにはチラシ配りとかもした方がいいんだろうか……。
考え事をしながらペットショップの前を通りかかったら、ギャンギャンと煩い犬の鳴き声と怒声が聞こえて来た。
え? と思って振り返った途端、誰かにぶつかりもふもふの毛玉の塊が顔の辺りを掠める。
「お兄さん! そこのあんた! その犬捕まえて!!」
必死の形相で言い募るその人の迫力に押されて指した指の先を見ると、まだちっちゃな子犬がひっくり返った状態で投げ出されていた。きっとさっきのもふもふの毛玉だ。
見ると今にも起き上がって走り出しそうな気配だったので、慌ててタックルするように子犬を抱きかかえた。
「ハア―。ありがとうございました、助かりましたー」
エプロンをしたおじさんがホッとした表情で近寄って来た。どうやらペットショップの店員のようだ。
「ああ、いや。捕まえられて良かったです」
「テメー、このヤロー! 何邪魔しやがってんだよ!」
子犬を無事に店員に渡せたと思ったら、横から胸倉をつかむくらいの勢いで怒鳴られた。
「なに言ってんだお前! この人が捕まえてくれたから助かったんだろうが! 来い! 警察に通報するからな!」
え? え? え?
何がどうなってるんだ?
……あ?
この子、どこかで……。あっ! さっきの、谷塚が見せてくれた少年じゃないか!
俺がそう気づいた瞬間、その少年は走って逃げだした。
「おい! 待ちなさい、……ああっ」
店員の慌てる声を背に、俺は気がついたら反射的にその少年の後を追いだしていた。
10
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

幸福からくる世界
林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。
元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。
共に暮らし、時に子供たちを養う。
二人の長い人生の一時。

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる