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プロローグ
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「よお、川口。どうだ? 儲かってるか?」
俺と同業の谷塚は、時々俺を心配しているのか揶揄いに来る。
「儲かってるように見えるか? ――ぼちぼちだ」
「だろうな―。お前、仕事をえり好みしすぎなんだよ。ホラ」
「……何?」
勝手知ったる他人の家。谷塚はソファにドカリと座って、スマホを俺に手渡した。ディスプレイを見ると、やたら綺麗な少年が映っていた。
「……誰だ? 谷塚の知り合いか?」
「まさか。……「目を開けた獅子」って聞いたことあるだろ?」
「――ああ、犯罪集団とだけは……」
「本当かどうかは分からないが、殺しも請け負っているって話だぜ」
「なんで捕まらないんだ」
「居所が知れてないからな。……噂では、そこのトップ、死んだらしいぞ」
内緒話でもするかのように、谷塚は声を落として俺に話した。
それにしても……。
「お前、そういう噂に結構詳しいよな。まさかとは思うが、裏の世界に知り合いでもいるのか?」
俺がそう聞くと谷塚は片眉を上げて、肩をすくめた。
「俺らの仕事は結構ギリギリだろ? あー、お前は別だったか……。まあ、そう言う事だから、こういう情報は入りやすいんだよ」
「おい……。前にも言ったけど、あまり無茶な仕事をして変な事になったら元も子もないんだぞ? 仕事はちゃんと選ばないと……」
「ああ、はいはい。川口はそんなことばかり言ってるから客が来なくなるんだよ。今やこの業界も客の取り合いだぜ? 少し考え方を変えろよ」
「…………」
確かに、最近の『なんでも屋』は増えすぎている。一時「なんでも屋」の大手と言われるフロスコジャパンがもの凄く儲かったことが切っ掛けで、次から次へと同じような商売が増えて行ったからだ。
だがありがちな話、供給が需要を上回れば商売として成り立つわけが無く、多くが倒産、縮小に追いやられていった。
そしてそのうち残った「なんでも屋」の一部が、法のギリギリラインの仕事まで請け負いますと宣言したことが切っ掛けで、他の個人でなんでも屋を営んでいる人たちまでもが真似をし始めて、現在の危なっかしい形態に陥っている。
「お前の業界でのあだ名、知ってるか?」
「あだ名?」
「そ。腑抜けだってさ。あの腑抜けどうしてるって、俺よく聞かれるんだぜ?」
「……ほっとけ」
まったく。
視線を手元に落として、もう一度さっきの少年を見た。
画面の中の少年は、白いシャツを靡かせて少し俯き加減に歩いている。そしてゆっくりとこちら側に顔を向けて儚く眼を伏せた。
本当に綺麗な少年だ。色は白いし頬はほんのりとバラ色がかって、まるで少女のような瑞々しさだ。明るめの茶色い髪がふわふわと風になびいている。
じっとその画面に釘付けになっていると、谷塚が寄って来た。
「コードネームはローザだってさ」
「え?」
「そいつの名前だ。女みたいな名前だよな。『目を開けた獅子』のリーダーが付けたらしいぞ」
「へえ? ……この子が、さっき言ってた殺しを請け負っているって子なのか?」
「どうかな? 噂も色々あってどれが真実だか分からないけど……。ただ言えることは、ローザは死んだそのリーダーの愛人だったってことだ」
「愛人? この男の子が?」
「そうだ。組織に属していたとはいえ、そいつが愛人としていいように使っていただけだったみたいだから、奴が死んだ今、ローザは組織から姿を消したらしい」
「それは……?」
「組織に溶け込んでいなかったんだろ。リーダーがいなくなった今となっては、ローザをみんなが持て余して、結局組織を出ていくしか他無かったんだろうなあ」
……こんな愛らしく綺麗な少年が、犯罪組織だの殺しだのって……。死んだ奴には悪いが、この子に取ってはそんな組織から出られたんだ。却って良かったんじゃないだろうか。
「で、今みんなそのローザの行方に興味津々なんだよな」
「……何?」
「だってそうだろ? 犯罪組織にいたんだぜ? ピッキングだってハッキングだってお手のモノだろう? 依頼で証拠を集めてくれだとかさ、誰それに盗られた物を取り返してほしいとかそんな依頼があった時に重宝しそうだろ?」
「……お前! 何考えてんだ! せっかく自由の身になったこの子に、また変な仕事をさせる気か?」
「はあ? どこが変な仕事だよ! このくらいのことなんてどこの「なんでも屋」だってやってることだろ! 証拠集めは違法だとバレなきゃいいんだよ! それに盗られたものを取り返して何が悪い! だいたいお前は頭が固すぎるから貧乏な生活しか送れないんだろ!」
ブチンと切れた谷塚は、俺からスマホを奪い返してドカドカと玄関から出て行った。
「…………」
まあ、いつものことだ。
あいつはあいつなりに俺のことを気にしてくれてるのは分かっているんだが、出来ないものは出来ないし、逆に俺は俺であいつが一線を越えることが無いかと危惧しているんだ。
時計に目をやると、二時を回ったところだ。今日は水漏れの修理依頼が入っていて、二時半には家に戻っているから来て欲しいと言われていた。
俺は工具入れを肩に担いで、依頼主の下へと急いだ。
俺と同業の谷塚は、時々俺を心配しているのか揶揄いに来る。
「儲かってるように見えるか? ――ぼちぼちだ」
「だろうな―。お前、仕事をえり好みしすぎなんだよ。ホラ」
「……何?」
勝手知ったる他人の家。谷塚はソファにドカリと座って、スマホを俺に手渡した。ディスプレイを見ると、やたら綺麗な少年が映っていた。
「……誰だ? 谷塚の知り合いか?」
「まさか。……「目を開けた獅子」って聞いたことあるだろ?」
「――ああ、犯罪集団とだけは……」
「本当かどうかは分からないが、殺しも請け負っているって話だぜ」
「なんで捕まらないんだ」
「居所が知れてないからな。……噂では、そこのトップ、死んだらしいぞ」
内緒話でもするかのように、谷塚は声を落として俺に話した。
それにしても……。
「お前、そういう噂に結構詳しいよな。まさかとは思うが、裏の世界に知り合いでもいるのか?」
俺がそう聞くと谷塚は片眉を上げて、肩をすくめた。
「俺らの仕事は結構ギリギリだろ? あー、お前は別だったか……。まあ、そう言う事だから、こういう情報は入りやすいんだよ」
「おい……。前にも言ったけど、あまり無茶な仕事をして変な事になったら元も子もないんだぞ? 仕事はちゃんと選ばないと……」
「ああ、はいはい。川口はそんなことばかり言ってるから客が来なくなるんだよ。今やこの業界も客の取り合いだぜ? 少し考え方を変えろよ」
「…………」
確かに、最近の『なんでも屋』は増えすぎている。一時「なんでも屋」の大手と言われるフロスコジャパンがもの凄く儲かったことが切っ掛けで、次から次へと同じような商売が増えて行ったからだ。
だがありがちな話、供給が需要を上回れば商売として成り立つわけが無く、多くが倒産、縮小に追いやられていった。
そしてそのうち残った「なんでも屋」の一部が、法のギリギリラインの仕事まで請け負いますと宣言したことが切っ掛けで、他の個人でなんでも屋を営んでいる人たちまでもが真似をし始めて、現在の危なっかしい形態に陥っている。
「お前の業界でのあだ名、知ってるか?」
「あだ名?」
「そ。腑抜けだってさ。あの腑抜けどうしてるって、俺よく聞かれるんだぜ?」
「……ほっとけ」
まったく。
視線を手元に落として、もう一度さっきの少年を見た。
画面の中の少年は、白いシャツを靡かせて少し俯き加減に歩いている。そしてゆっくりとこちら側に顔を向けて儚く眼を伏せた。
本当に綺麗な少年だ。色は白いし頬はほんのりとバラ色がかって、まるで少女のような瑞々しさだ。明るめの茶色い髪がふわふわと風になびいている。
じっとその画面に釘付けになっていると、谷塚が寄って来た。
「コードネームはローザだってさ」
「え?」
「そいつの名前だ。女みたいな名前だよな。『目を開けた獅子』のリーダーが付けたらしいぞ」
「へえ? ……この子が、さっき言ってた殺しを請け負っているって子なのか?」
「どうかな? 噂も色々あってどれが真実だか分からないけど……。ただ言えることは、ローザは死んだそのリーダーの愛人だったってことだ」
「愛人? この男の子が?」
「そうだ。組織に属していたとはいえ、そいつが愛人としていいように使っていただけだったみたいだから、奴が死んだ今、ローザは組織から姿を消したらしい」
「それは……?」
「組織に溶け込んでいなかったんだろ。リーダーがいなくなった今となっては、ローザをみんなが持て余して、結局組織を出ていくしか他無かったんだろうなあ」
……こんな愛らしく綺麗な少年が、犯罪組織だの殺しだのって……。死んだ奴には悪いが、この子に取ってはそんな組織から出られたんだ。却って良かったんじゃないだろうか。
「で、今みんなそのローザの行方に興味津々なんだよな」
「……何?」
「だってそうだろ? 犯罪組織にいたんだぜ? ピッキングだってハッキングだってお手のモノだろう? 依頼で証拠を集めてくれだとかさ、誰それに盗られた物を取り返してほしいとかそんな依頼があった時に重宝しそうだろ?」
「……お前! 何考えてんだ! せっかく自由の身になったこの子に、また変な仕事をさせる気か?」
「はあ? どこが変な仕事だよ! このくらいのことなんてどこの「なんでも屋」だってやってることだろ! 証拠集めは違法だとバレなきゃいいんだよ! それに盗られたものを取り返して何が悪い! だいたいお前は頭が固すぎるから貧乏な生活しか送れないんだろ!」
ブチンと切れた谷塚は、俺からスマホを奪い返してドカドカと玄関から出て行った。
「…………」
まあ、いつものことだ。
あいつはあいつなりに俺のことを気にしてくれてるのは分かっているんだが、出来ないものは出来ないし、逆に俺は俺であいつが一線を越えることが無いかと危惧しているんだ。
時計に目をやると、二時を回ったところだ。今日は水漏れの修理依頼が入っていて、二時半には家に戻っているから来て欲しいと言われていた。
俺は工具入れを肩に担いで、依頼主の下へと急いだ。
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