私、異世界へ会いに行きます

飛狼

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第一章 異世界へと誘われ

◇そして、私はステータスを確かめる。

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 最初の岩室に戻ると、さっそくメニューと唱えてみる。
 すると驚いた事に、目の前に半透明のウィンドウが展開された。
 本当に不思議。
 ここは異世界というより、ゲームが現実化した世界。
 ゲーム好きの人なら堪らないのだろうけど、あいにくと私はゲーム初心者。
 今も胸がどきどきと激しく動悸するのも、興奮よりも恐怖のためだ。
 そもそも私が、ここでこうしているのも全て……。

 ――あの馬鹿!

 勇吾のまぬけ顔を思い浮かべぶつぶつ文句を言いつつ、浮かび上がるウィンドウを眺める。 

ステータス
名前     :ユウコ・キムラ
年齢  :16
種族  :ヒューマン
level  :2
職業  :従魔師Lv1(SUB 弓師Lv1)
※※  :※※
※※  :※※
(以下、略)

固有スキル
【※※】

スキル(SP 20)
【※※】
【※※】
【※※】

〈チュートリアルモード継続中〉
達成クエスト
1「魔獣を倒してみよう」(難易度F)

未達成クエスト
2「地図を作成してみよう」(難易度F)
3「魔法を使ってみよう」(難易度F)
4「従魔に指示を出してみよう」(難易度F)
5「スキルポイントを使ってみよう」(難易度F)

 あれっ、見えない部分があるけど……てか、普通にステータス表示があるのに驚かされる。

 ――それに、クエストって、まんまゲームの中かよ! て、感じなんだけど。

 このクエストは、どうやらチュートリアルモードを選んだので発生したようだった。
 ここは、全く不可解な世界。ゲームみたいな仮想空間なようであり、でも、現実と同じく五感もある。それに何より、さっきから強烈な空腹感を覚えていた。


 この場所、あの『炎帝グリューエン』と名乗る魔物が現れた祭壇のあるこの部屋も不思議な場所だ。
 部屋から私が出たいと願うと、壁に縦の亀裂が走り、むにゅんと左右に分かれ簡単に出入りすることが出来る。
 どうやら、今まで誰も出入りした痕跡が無いことからも、私以外は出入りが出来ないように思えた。外には、さっき出会った魔物みたいなのが沢山いるようなので、安全地帯ともいえるこの部屋の存在は非常にありがたい。ここなら魔物に襲われる事も無いだろうと、私もホッと、ひと安心できた。

 それにしても、あまりにも非現実的な馬鹿げた話よね。
 でも、どのような仕組みか分からないこの部屋も、ステータスやレベル等もだけど、もう深く考えるのは止めようと思う。これ以上考えても、頭が混乱するだけだし。だから、ここはそういう世界なのだと、納得する事にした。
 そうなると、当面の問題は……。

 ――さて、何か食べるものがあったかしら。

 そう、食べ物の問題だ。さっきからしきりに、お腹がクゥクゥと音を鳴らしている。
 ここには、私以外は誰もいないのだけれど、そこはやっぱり私も十代の乙女。恥ずかしくなって、ちょっと赤くなる。
 さっそく、リュックの中に何か無いかと、ごそごそ探してみる。

 リュックの中には鍋やロープなどといった、ちょっとしたサバイバル道具と共に、干し肉やよく分からない物を練り固めた食物が入っている。それと、革を鞣して作られた袋。この中には、一リットルほどの水が入ってる事から、水筒なのだと思えた。

 私がリュックの中に手を入れごそごそやってると、胸元から顔を出したキキが興味深そうに眺めてる。そのキキが、食べ物を見つめて、「キュッ!」と嬉しそうな鳴き声をあげた。

「なに? キキもお腹がすいた?」

 私を見上げたキキが、その円らな瞳を向けてコクコクと頷いている。

「さっきは、キキも頑張ったからね。はい、これ」

 何かを練って固めた物は、コンビニで売られているおにぎりほどの大きさ。それを半分に割り、片方をキキにあげることにする。
 そして、残りを自分の口に入れるが……。

「げげっ、しょっぱぁぁい! 水、みず!」

 慌てて、革の袋に入ってる水を飲む。
 なにこれ、塩辛すぎてとても食べれたものでない。これは、保存するために、塩漬けにでもしてたのかしら。
 涙目で、そんな事を考えながらキキに目を向けると、カリカリと美味しそうに食べている。

 うぅん、小動物とは味覚が違うのかしら。ちょっと、羨ましい。

 それではと、干し肉の方に手を伸ばす。こちらは、可もなく不可もなくといった感じの味。普通のビーフジャーキーに似てるけど、ただひとつ難点が。
 とにかく、固い。噛みちぎるのに、ひと苦労。
 現代人は昔の人に比べて、顎の力が弱まってるとか聞くけど、私は正にその典型。固い食べ物が苦手だったりする。

 ――うぅ、顎が疲れるぅ……。

 私が干し肉と悪戦苦闘していると、食べ終わったキキが、物欲しそうにまた見上げてくる。

「ん? まだ欲しいの?」

 コクコクと頷くキキ。

「あんまり食べると、太るよ」

 私は苦笑を浮かべながらも、ジャーキーの欠片をキキにあげる。そして、キキにも水を飲ませてあげようと、水筒から鍋に水を注ごうとしてある事に気付く。
 注いでも注いでも、水が尽きることが無いのだ。

「ほえぇ、凄いね。この水筒」

 もう、色々と驚き過ぎて、今更だけどね。もう、これぐらいではあまり驚かなくなっていた。
 しかし、魔法の水筒かあ……これで、水に困ることはないわね。人が生きていくのに、水分は一番大事だから。

 ――あっ、もしかして!

 私は大急ぎでリュックの中を確かめる。

「あぁ、駄目かぁ……」

 もしかしたら、食料も尽きることなくリュックの中に現れるかもと思ったけど、どうやら食べ物は今あるだけのようだ。

 となると、早急に食べ物をどうにかしないと。
 ざっと見たところ、干し肉や練った食物は切り詰めても、もって三日ぐらいかなと思える。

 その三日の間に、周りを探索して食べ物を探すか、或いはこの世界にいる住人に出会うかしないと。
 あの炎の精霊さんと話した感じだと、この世界にも人がいるみたいな感じだった。
 となると、さっさとこのダンジョンから脱出するしかない。

 ――ふぅ……やっぱり、魔物と戦わないといけないみたいね。

 いや、分かってはいるけど。それでも、私は普通の女子高生。自分が望んでここに来たとはいえ、いきなり怪物と戦うのに怖じ気づくのは仕方ないよね。

 私は「ふぅ」と、ため息を吐き出し、水をごくごくと飲んでいるキキの背中をそっと撫でる。
 すると、キキが気持ち良さそうに目を細めていた。

「キキ、ありがとう」

「キュウ?」

 キキは首を傾げて、不思議そうに私を見上げる。

「キキがいて助かったわ。私ひとりだと、不安で押し潰されてた所だったから」

 私がそう言うと、キキは嬉しそうに鳴き声をあげると、私の肩の上まで腕を伝って駆け登って来る。そして、私の頬に甘えるように体を擦り付けてきた。

 ――うん、キキは可愛いねぇ。

 指先をキキに伸ばすと、キキがその指先にじゃれ付いてくる。出会ってまだ数時間だけど、本当に癒やされる。
 そのまま指先でキキを遊ばせながら、目の前にまた、ステータスが表示されたウィンドウを浮かびあがらせた。やはり、ステータスの大半が読み取る事が出来ない。
 これは、レベルを上げると、見えるようになるのだろうか?

 どちらにせよ、魔物と戦ってレベルを上げなければいけないということね。まあ、レベルを上げる事によって自分が強化されていくなら、ある意味簡単。分かりやすいといえば、分かりやすい。
 でもそれは、この世界での死についても考えさせられる。元の世界には私の体が残されてるはず。
 
 それなら、この世界で死んでも大丈夫なのかしら?
 それとも、ここでの死は実際の死となり、元の世界にある体も、その生を終えてしまうのだろうか?

 だからといって、これは確かめる事も出来ない難しい問題だ。ここでの死が実際の死なら、確かめた時点で、私の人生が終わってしまうのだから。
 そんな事を考えながら、ウィンドウに並んでいる項目を目で追っていく。

 ――クエストねぇ。

 このクエストも、よく分からない。
 あの蜘蛛の怪物を倒した時に、スキルポイントなるものが貰えた。この事から、与えられた課題を達成すると、スキルポイントが加算されるのだと思われた。

 クエストの一番目、「魔獣を倒してみよう」を達成したので、スキルポイントが10増えて、今は20のポイントがある。

 そして、まだ達成していないクエストが、あと4つも発生していた。その未達成のクエストに目を向ける。
 2番目の「地図を作成してみよう」は、よく分からない。
 ウィンドウの枠外、ここには本来、日付、時刻、ログアウトや機能、ヘルプ等といった文字が並び、操作が出来るようになっていた。けど、今はデジタル表示の時刻と、マップの文字があるだけ。
 このマップが地図作成に関係してるのだと思うのだけど、今は暗転して使えないようだ。クエストにあるという事は、どうにかしたら使えるようになるはず。でも、それが今は分からないので、どうしようもない

 3番目の「魔法を使ってみよう」は、私が魔法を修得していないのでって、魔法がある事に驚きだ。ここは、ゲームと似た世界なので、普通に魔法があるのだろうと思うけど、私も魔法が使えるようになるのだろうか。
 これも、今はよく分からないな。

 4番目の「従魔に指示を出してみよう」は、たぶん、キキに命令を出して何かをさせれば良いのだと思う。
 これは後で、キキに試してみよう。

 そして、5番目の「スキルポイントを使ってみよう」が問題だ。
 スキルポイントって、なに?
 せっかく増えたスキルポイントの使い道が、私にはよく分かっていなかったのだ。
 スキルって事は、能力や技能って事なのかしら。

 私が「スキル、スキル」と呟いていると、ウィンドウの表示が突然切り替わる。
 そして……。

《現在、修得可能のスキルの一覧です。この中からお選びください》

 チューさんの抑揚の無い声が、頭の中に響く。
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