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タクマの決心

遺物?餞別?いや、仕送りみたいなものらしい

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 ノートンの執務室へと移動したタクマ達は改めて手紙について話を進めることになった。タクマと夕夏がノートンの対面に、アークスは主の後ろで立つという形で話が始まる。

「さてタクマ殿。手紙の内容についてなのだが、本当に話しても良いものだったのだろうか」

 確かにノートンは封印された箱の中身が知りたくもあったが、興味で聞いて良いのか分からなかった。転移者、召喚者に関するものとなればなおさらだ。ノートンは改めてタクマに大丈夫なのか確認する。

「ええ、手紙の内容について話しても何の問題もありません。それにもう一つのこれに関しても」

 タクマは頷き懐から手紙とスマホ…らしきアイテムをテーブルに置くと早速話を始めた。

「最初に聞きたいのですが、あの箱はどういった経緯でここに?」
「うむ、あれは先代の王が収集してたダンジョンから出たアイテムだ。先代が逝去した後に確認したから確かなはず」

 先代の王はダンジョンに興味があったらしく、そのアイテムを収集するのが好きだったらしい。そしてある時タンジョンでアイテムを得たは良いが、どうやっても中身が分からない物があると言われ手に入れたという。結局先代王も中身を見ることは叶わず、そのまま死蔵していたそうだ。

「なるほど……ダンジョンから出たのか……これらを持ち込むならそうするしかなかったのか?でもあの方たちは……いや、うーん」
「タクマ殿?」

 ノートンの言葉に思考の海に沈むタクマ。そんな主の姿にアークスは苦笑いを浮かべながら肩に手を置きタクマを現実へと戻す。

「タクマ様。今はノートン様とのお話を優先してください」
「あ、ああ……ノートン様申し訳ない」

 会話中だったのを思い出したタクマは素直に謝罪する。

「いや、問題ないぞ。どこから手に入れたかは知りたいだろうしな。それよりも続きだ。手紙の中身の話をしよう」

 ノートンは謝罪を受け入れ話の続きを促す。

「そうですね。手紙の内容ですね。簡単にまとめると『日本の神様』が『異世界に連れ去られた者達』に向けた餞別を送ったとあります」
「……」

 そう。手紙の主は神だったのだ。その事実に口をあんぐりをあけて驚愕するノートン。そんなノートンにタクマは苦笑いを浮かべて話を続ける。

「そうなりますよねぇ。まさか神様が地上の人間に対して餞別を送るなんて。それもヴェルドミール以外の世界にいる神様から。さすがに俺や夕夏も困惑しています」


――――日本から異世界へ連れ去られた者たちへ――――

 今これを読んでいる者……者たちかは分からぬが、慣れ親しんだ世界から異邦の地に攫われ生きている事だろう。阻止できなかった事を謝罪させてくれ。神でも出来ぬ事はあるのだ。
 戻してやることもできない。そして地力で戻る事も出来ないだろう。
 どうか健やかに、実りのある人生を送ってほしい。
 そちらで生き抜く術の一部は世界を渡った時に身に付くはずだが、平和な世界で生きていたお前たちにはそれでも厳しいと思う。だから異世界で与えられる力とは別に与える事とする。
 更には生活に必要だと思われる物を纏めて送る。我からの餞別……いや、そんな大層なものではない。言うなれば我からの仕送りだと思い受け取ってくれ。
 そして頼む。もし他の同胞を見つけた時にはどうかできる限り助けてやってくれないか。異世界と我が与えた力があれば大抵の困難は超えられることだろう。
 そのために必要な物は揃えたつもりだ。衣、食、住、そして我の力の一欠片。それをスマートフォンという機械に似せた物に詰め込んである。魔力という鍵で魔具となり使えるはずだ。ちなみに手紙を手に取った同胞のみにしか反応はしない。
 分け与える者はしっかり選ぶのだ。お前たちが信用に足る同胞たちへと分けてやってくれ。
 そして我だけではなく他の神たちも又お前たちへ仕送りをすると言っていた。我らがそちらに干渉できる場所はダンジョンと呼ばれる地。そこに我らの仕送りを送る。これと同じように同胞にしか解けぬアイテムがあったらそれが仕送りだ。
 手に入れて生活を充実させるのだ。
 最後になるがもう一度だけ言わせてほしい。どうか健やかに幸せな人生を送ってくれ。


 そう締めくくられた手紙の内容を滔々とノートンへと教えた。

「手紙に書かれていたのはこんな感じですね……召喚者、転移者への謝罪と心遣い、そして我々が生活の質を上げる為の仕送りを送ったという知らせでした」

 タクマの話を最後まで聞いたノートンはアイテムの所有権を即座に委譲した事を正しかったと思う。これは保管しておいて良いものではないからだ。ヴェルドミールへと攫われた人たちへの愛ある餞別だと分かるから。

「そうか……手紙の主の言う通りだな。召喚者に関しては人の欲によって攫ったようなものだ。そして転移者はヴェルドミールが攫ってしまったと言っても過言ではないという事か……そしてなんと愛のある手紙なのか」

 驚きを通り越して感動したような表情を浮かべるノートンに、タクマは苦笑いで返すしかなかった。

 
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