212 / 250
14巻
14-2
しおりを挟む
3 魔族たちの選択
魔族の集落で、キーラたちは移住の準備を進めている。
なお、タクマ一行はいったん集落を離れ、近くの森に転移していた。タクマたち部外者のいない状況で準備を進めつつ、本当に移住して問題ないか、自分の心と向き合ってほしいというタクマなりの心遣いであった。
すでに集落全員でタクマのところに移住したいと意思表明した魔族たちであったが、何しろ突然のことなので、完全に心が揺れないと断言できるほど決意が固まったわけでもない。
少し不安げな表情で移住の準備を始めた魔族たちに、キーラが語りかける。
「みんな、本当に移住して大丈夫? ナーブに報復を行ったという事実がある以上、タクマさんのところに引越すことで、パミル王国からしばらく監視対象にされるという不安要素はあるよ。それでもみんな、移住に異存はない?」
「「「…………」」」
キーラの言葉を聞き、魔族たちは無言になる。タクマの家族に差別がないと分かったとはいえ、住み慣れた集落を離れることに不安がないといえば嘘になる。
そんな思いを口に出せない他の魔族たちの様子を見て、キーラは彼らの返事を待たずに言葉を続ける。
「でも……僕はタクマさんのところで暮らすことに興味があるんだ。僕たち魔族は今まで、他の種族と交流を避けて生きてきた。だけどタクマさんのところで暮らせば、いろいろな種族の人たちと触れ合えるでしょ? それに……もう疲れちゃったんだ。他の種族に差別されるのを恐れて隠れて暮らすのは……みんなはどう?」
キーラの訴えに、魔族の中の何人かが黙って頷き返す。誰から蔑まれたり怯えたりされることなく、平和に暮らしていきたいというのは、集落の者たち全員の願いだった。
そんな魔族たちの気持ちを代弁するように、ディオが口を開く。
「ああ……俺も、もう嫌だな……隠れて暮らすのは。タクマさんのところで平和な暮らしが叶うなら、俺も行きたい」
「そうね、私も行きたい」
「俺もタクマさんのところなら、なんとかなる気がする」
ディオの言葉に魔族たちが口々に同意を示した。
「そっか……僕もみんなが一緒なら嬉しいよ!」
突然のことで戸惑いはあるだろうが、今の生活を変えたいという気持ちは他の仲間たちも同じなのだと分かり、キーラは嬉しさで笑顔になった。
「あれっ? だけど……」
キーラはハッとして、思わず呟いた。
そういえば、まだ移住するかどうかの意思を確認できていない魔族がいる。大口真神に喧嘩を売って返り討ちにされた者たちだ。彼らは魔族は魔族だけで独立して生きるべきだという思想の持ち主だった。
「そうだ、彼らにも説明してあげないと!」
キーラはそう言ってディオと共に、集落の集会所へ向かう。
集会所の中に入ると、そこには独立派グループの者たちが気絶したまま倒れていた。
「あとはこいつらの意思を確認するだけだが……忌神様はすぐに目を覚ますと言っていたが、本当に大丈夫なのか」
ディオが独立派の者たちを見て、不安げにボソッと呟いた。
ちなみに忌神というのは、大口真神のことだ。圧倒的な神力と禍々しい瘴気を持つ大口真神を、魔族たちは畏怖を込めてそう呼んでいるのである。
「うーん、大丈夫だと思うけど。普通に起こせば目を覚ますって言ってたし」
キーラはそう言いながら、おもむろに独立派の者たちに近づく。そしていきなり、彼らの頬を思いっきりひっぱたいた。
独立派の者たちを遠慮なくビンタするキーラの姿にディオはドン引きしていたが、キーラは気にすることなく張り手を繰り返す。
「さっさと起きて話を聞きなさい! ほら! ほら!」
「ううっ……」
男の一人がうめき声を上げた。キーラの容赦ないビンタによって、意識を取り戻したのだ。
しかしその次の瞬間、キーラは今まで以上に力を込めたビンタを男の頬に叩き込む。
「もーっ、いつまで寝てるのさ!!」
「う、うぼ……」
キーラの全力のビンタがクリーンヒットし、男は情けない声を出した。
「あ、起きたみたいだね!」
さわやかにそう言うキーラだったが、独立派の男の頬は真っ赤に腫れ、大きく膨らんでしまっている。
「は、はにがおほったのば……」
独立派の男は口の端から血を流し、「何が起きたんだ」というような意味の言葉を呟きながら体を起こす。
だがその瞬間、先ほどまでの悪夢がフラッシュバックする。大口真神の瘴気により、男は意識を失っている間、恐ろしい悪夢を見ていたのだ。
「あ、ああああ……」
「大丈夫! 悪夢は終わったの! いい? 終わったの!」
動転する男に対し、キーラは大きな声で落ち着くように促した。
こうして独立派の男たちを一人ずつビンタで起こしてはパニック状態から落ち着かせる、というのを何回か繰り返す。そして独立派グループが全員目覚めたところで、キーラはこれまでの経緯や、移住のことを説明した。
「「「…………」」」
説明が終わり、男たちは顔を見合わせる。
自分たちのことを恐ろしい種族として差別してきた人族、その一員であるはずのタクマから生活を共にしたいという提案があったなど、にわかには信じられないことだったのだ。
「移住って……本気なのか?」
独立派の男は、そうキーラに問いかける。
「他種族と共存なんて、無理に決まって……」
だがキーラの表情から本気であることを悟り、途中で言葉を止めた。
「僕はタクマさんのもとでなら平穏な生活が送れる……そう信じてるんだ。タクマさんには僕たちを守ってくれるだけの力がある。それにタクマさん、そしてタクマさんの家族には、僕たちを受け入れてくれる度量があると思うんだ」
強い決意の込められたキーラの言葉を聞き、独立派の者たちは黙り込む。
「……俺はキーラの選択に従おうと思う」
「ああ、私もキーラに賛同するよ」
そのうち独立派の一部の者たちは、キーラと同じように移住する決意を固める。そして独立派の者たちの輪から離れ、キーラの側へ移動した。
だが独立派グループのリーダー格の男は、首を横に振る。
「……キーラの言っていることにも一理ある。ナーブの企みを俺たちは防げなかった。自衛できないのなら、他者から庇護されながら平穏な暮らしを目指す道もあるのだろう。だが、俺には無理だ」
リーダー格の男はしばらく考え込み、そして考えを固めた様子でキーラに告げる。
「キーラ。すまないが、俺はみんなとは違う道を行こうと思う。誰かの庇護を受けて平穏な生活を得る、それを否定するつもりはまったくない。だが俺は守られるよりも、自分たちの生活は自分たちで守りたいんだ。ただ……今はそれを可能とする実力がないことは理解している。だから、強くなるために修業の旅に出ようと思う」
リーダー格の男に続いて、独立派グループのもう一人の男も言う。
「俺もこいつと同じだ。どれほど時間が掛かるのかは分からんが、みんなを守れるような存在になりたい」
「……分かった。君たちならそう言うんじゃないかって気はしていたよ。誰よりも力を求めていたしね……」
キーラは寂しそうな顔をしつつも、二人に理解を示した。
「だけど……気を付けてね? 魔族だけで旅に出るって、きっとすごく危険だと思うからさ」
キーラは魔族が差別されやすいことを心配し、そんな言葉を掛ける。
だが独立派の男二人は、キーラの心配していることなど承知の上といった様子だ。
「ああ、俺たち二人の選んだ道は厳しいものになるだろう」
「だがみんなと袂を分かつからには、覚悟を持って強くなるつもりだ」
キーラは二人の言葉を聞き、彼らが人族への反抗心から、考えなしに別の道を選んだわけではないのだろうと考えた。
「じゃあ、タクマさんには僕からこのことを伝えるよ」
キーラがそう言うと、二人は首を横に振った。
「報告をキーラに任せ、逃げるように出発するつもりはないぞ」
「ああ、自分の選択に恥じることは何もないからな。自らの口で話したい」
キーラは自分たちの矜持を大事にしている彼ららしい考えだと思い、どこか誇らしい気持ちになる。
「うん……なら、自分で伝えた方がいいかもね。でも、もう喧嘩売るとかはやめてよ?」
するとさっきまでの強気な態度とはうって変わり、二人は神妙な顔をしてコクリと頷いた。大口真神の瘴気にやられた恐怖が、しっかりと身に染みているらしい。
二人の様子に小さく笑いつつ、キーラは話題を変える。
「ところで、旅に必要な物資を準備しないとだよね。足りないものはみんなに言って集めよう」
それを聞いて、独立派の男二人はギョッとして顔を見合わせる。
「お、おい。俺たちはみんなとは違う道を行くんだぞ」
「そうだ。それにみんなも移住で何かと物入りなはずなのに、そんなことを頼むわけには……」
「水臭いこと言わないでよ~! そんなの誰も気にしないって!」
そう言うキーラに腕を引っ張られ、二人は集落へ引き返していくのだった。
◇ ◇ ◇
集落に戻り、キーラが魔族たちに声を掛けると、仲間たちは独立派の男二人に物資を用意するため、一斉にあちこちへ走りだした。
「ま、待て。気持ちはありがたいが、持っていける荷物には限界があるぞ!」
キーラが話を聞くと、二人は別々に旅をするつもりらしい。それぞれが己の強さを高めるための修業の旅なので、お互いに頼らず腕を磨きたいとのこと。なので旅装を整えるといっても、できるだけ身軽な状態でいたいと考えるのも当然だろうとキーラは考える。
「だけど、物資の量は気にしなくても大丈夫だよ! なんとかなるから、ちょっと待っててね」
キーラはそう言って二人に笑顔を見せると、自分の家へ駆けだした。
「あっ、おいキーラ! ……って聞いてねえな」
「まったく……」
キーラの行動の速さに二人は呆れる。だが、仲間たちが袂を分かつ自分たちをこんなにも思ってくれているのが分かり、胸に熱いものが込みあげてきた。
「……なあ? ここまでされたら、絶対に強くなって戻ってこないとな」
「ああ……絶対にな」
二人は心の中で更に強く決意を固めた。
その時、キーラが二人の前に戻ってくる。
「お待たせ! これは僕から二人に餞別だよ!」
そう言ってキーラは二人にそれぞれ一つずつ、小さな指輪を手渡した。
キーラから渡された指輪を見て、二人は顔色を変える。ひと目見ただけで、この指輪が貴重な魔道具だと理解したからだ。
しかもこの小さな指輪からは、通常ではありえない魔力が迸っているのが感じられる。
「これは収納の指輪。空間収納機能がついてて、指輪の中にいくらでも物資をしまえるんだ! 旅立つ君たちにはぴったりのアイテムだよ!」
キーラから得意げにそう言われ、二人はギョッとする。
確かに旅に出る二人にとって、とてもありがたいアイテムだ。しかしこれほどまでに魔力を込められた魔道具であれば、価値は神具――神が作ったアイテムと同レベルのはずだ。
「キーラ……お前、正気か? 俺らに神具レベルの魔道具をタダで寄こす気なのか?」
「こんな貴重なものを簡単に渡してきやがって……俺たちに渡すくらいなら、タクマに献上した方がよくないか? そうすればみんなの印象もよくなって、移住した後の待遇も……」
二人は、自分たちはいいからとキーラに指輪を返そうとする。
だが、キーラは決して受け取ろうとしない。
「タクマさんはいらないって言うと思うよ。タクマさんってパミル王国御用達のすごい商人なんだって。だからお金にもアイテムにもこだわったりしないし、他人から搾取することもない。僕らを苦しめたりする人じゃないから、これは安心して受け取ってよ」
二人はそれを聞いてしばらく唖然としていたが、そのうち受け取る決心がついたようで、静かに指輪をはめる。その瞬間、指輪の使い方や性能が脳内に流れこんできた。
「これ、容量の制限がない……しかも使用者制限つきだと? 更には、収納アイテムの時間停止機能まで……」
「ただの魔道具ではないと思っていたが、こいつはまさに神具じゃないか……」
驚きのあまり呆然としている二人を見て、キーラはしてやったりという表情を浮かべる。
「はめたね? はめちゃったね? そう、それは神具なんだよ。しかも一度はめたら他の人が絶対に使えないという代物! これで返したくても返せない。というわけで、ちゃんと使い倒してね! いやー、喜んでくれてよかった!」
「「なっ!?」」
本当に神具だったのだと知り、二人はあからさまに動揺する。だが、改めて自分のはめた指輪を見る表情には、嬉しさが滲んでいた。
二人にいいサプライズができたと、キーラが満足げな顔をしていると、自宅に戻って物資を用意していた仲間たちが集まってきた。みんな、両手に抱えきれないほどの荷物を持っている。
「俺特製の干し肉だ。旅先で食ってくれ」
「私は乾燥野菜。野菜もしっかり摂るのよ」
「薬も必要だろう? 使い道は袋に書いてある」
仲間たちは口々にそんなことを言いながら、二人に物資を渡してきた。
あまりに量がたくさんあるので、受け取った端から指輪に収納していく。これなら旅先でも当分食べるのには困らない。
「みんな、ありがとう……」
「すまない、俺たちのために……感謝する」
二人は感極まりながらも、なんとか自分の気持ちを伝える。
そんな二人を、魔族の仲間たちはただただ笑顔で見守っていた。
袂を分かつとしても、二人が仲間なのは変わらない。魔族たちの表情からは、そんな気持ちが見て取れる。
「いい? 食べることは大事よ。めんどくさくてもちゃんと食べてね」
「逃げることは恥じゃないからな。ヤバかったら逃げろ。逃げてでも生き残れたら、それだけで勝ちだからな」
「俺たちは待っているぞ。お前たちが強くなって戻る、その時をな」
仲間たちは物資以外にも、そんな言葉を二人に贈る。
それを聞いて二人の目には涙が浮かんだ。二人にとって仲間たちの言葉は、何ものにも代えがたい餞別となった。
二人は大口真神に喧嘩を売るくらいに排他的で実力主義なところがあるが、根は仲間思いで優しい男たちなのだ。仲間たちもそれがよく分かっているからこそ、彼らを気遣っている。
みんなの優しさに触れた二人は、いつか自分が強くなり、どんな困難にでも打ち勝てるようになったら、すぐさま仲間たちに顔を見せに戻ろうと心に決めるのだった。
4 何が出るかな?
魔族たちが集落を離れる準備をしているのと同じ頃。
タクマたち一行は、最初に転移してきた地点である魔族の集落に近い森にいた。
ちなみに精霊王・アルテは自分の役目は終わったと思ったのか、イーファと共に湖畔の祠に帰ってしまっている。一緒に集落に来ていた守護獣たちも、タクマが空間跳躍でいつの間にか湖畔に送り返していた。
「あー! だあだ! だあだ!」
突然、タクマが抱っこしているユキが騒ぎ始めた。
「どうしたユキ?」
「あうあうあー!! あいいー!!」
妙にハイテンションで何かを訴えている様子のユキ。一体どうしたのかと、タクマはユキの視線の先に目を向ける。
「……ん? そっちに何かあるのか?」
「タクマよ。とりあえず向かってみようではないか。なんだか面白そうな気配がある」
側に立っている大口真神は楽しげにそう口にしながら、タクマの返事を待つことなくどんどん先に進んでいってしまう。
「ちょっと、大口真神様? ……はあ。ナビの索敵には何も引っかかってないし、索敵に引っかからないような何かがいるんだとしたら、慎重に行きたいんだけどな。あの様子だと聞いてはくれないか……まあ、なら仕方がない、行ってみよう」
「きゃうう~! あいい~!」
ユキはタクマに自分のアピールが通じたと思った様子で、ご機嫌ではしゃぎ始めた。
こうしてユキを抱っこしたタクマは、渋々大口真神のあとをついて森を進む。タクマの両肩にはナビとスミレがそれぞれ座り、いつでもタクマが魔力を使うサポートができるよう、臨戦態勢で警戒を怠らない。
タクマ、ナビ、スミレの心配をよそに、大口真神はゆったりした足取りで、集落とは反対側の森の奥へ進んでいく。
一時間ほど歩き続けると、タクマたちの目の前に、開けた土地が広がっていた。色とりどりの花が咲き、言葉では言い表せない美しさだ。
その光景にタクマが目を奪われていると、ナビが緊張した声音でタクマに注意する。
「マスター、気を付けてください。おかしいです。ここはマップでは森の真っ只中で、こんな開けた場所ではありません」
タクマは何があってもすぐに動けるように、周囲を見まわして警戒を高める。
その時、タクマの隣にいる大口真神が呟く。
「ほう……なかなか手が込んでおる」
「どうしたんですか、大口真神様」
「タクマよ。この場所には結界が張られているのだ」
大口真神によると、ただの結界ではないらしい。様々な魔法が付与され、かなり強固な作りなのだという。
「この結界を張った者は、よほど隠したいものがあったようだ。入るとしたら、強引に破るしかないな」
「そこまでして隠したいものがあるのなら、そのままでもいいのでは? もし変なものが中にあるようなら、すこぶる面倒な気しかしないんですが……」
余計な厄介事に首を突っ込みたくないとタクマが主張した直後、ユキが不満そうな声を出した。
「ぶう~!! だい~!!」
タクマは困ってしまい、ユキをなんとかなだめようとする。
「い、いや。でも今は魔族の問題が優先だろ? それが終わってから、もう一度来るっていうのは……」
「だぶう~~、ぶうう~~!!」
ユキは即座にブーイングしているかのような声を出した。
「ないな。こんな面白そうなことをお預けなどありえん」
大口真神までそんなことを言ってきた。
タクマは仕方ないといった表情でため息を吐く。いくら説得しても、この二人に意見を変えてもらうのは難しそうだと考えたのだ。
「……わ、分かったよ。ユキも大口真神様もそう怒らないでくれ」
タクマはナビとスミレに補助を頼み、ユキを大口真神の背中に乗せ、結界の中を調べることにする。
とはいえ、ナビでもマッピングできなかった結界だ。中に何があるのかはまったく予測できなかった。
「結界を破った途端、モンスターが! とかは勘弁してほしいんだが……ありえないとは言いきれないから、慎重にっと……」
ナビに探ってもらうと、結界は今タクマたちの目の前にある、森の中のぽっかりと開けた土地すべてを覆っている様子だった。
「この結界の意味するところはなんなんだろうな。見た感じ、トラップがあるって様子じゃないが……」
「タクマよ、そこまでの警戒は必要ないと思うぞ。結界自体には悪意はない。むしろ何かを守りたいという意図が感じられる」
タクマの背後から、大口真神がそう助言した。
神である大口真神がそのような印象を受けるなら、結界にも内部にも危険がないはずだ。そう判断したタクマは、次の行動に移る。
「……じゃあ、まずは結界をどうにかするか。結界に込められた魔力を上回る力をぶつければ、強引に突破できるだろ」
「待って! それはオススメできないかも」
タクマの肩に乗ったスミレが、慌てて制止した。
「ここまで大きな魔力で結界を張られていると、破った時の衝撃で結界の内部がめちゃくちゃに! みたいなこともありえるよ」
「あー、確かにそれはあるかもしれないな」
どうやって結界を破るべきか、タクマはしばらく考える。
そしてアイテムボックスから、この世界の主神・ヴェルドが作ったアイテム、天叢雲剣を取り出した。魔力で破壊をするのではなく、天叢雲剣の持つ聖なる力で結界を消し去ろうと考えたのだ。
魔族の集落で、キーラたちは移住の準備を進めている。
なお、タクマ一行はいったん集落を離れ、近くの森に転移していた。タクマたち部外者のいない状況で準備を進めつつ、本当に移住して問題ないか、自分の心と向き合ってほしいというタクマなりの心遣いであった。
すでに集落全員でタクマのところに移住したいと意思表明した魔族たちであったが、何しろ突然のことなので、完全に心が揺れないと断言できるほど決意が固まったわけでもない。
少し不安げな表情で移住の準備を始めた魔族たちに、キーラが語りかける。
「みんな、本当に移住して大丈夫? ナーブに報復を行ったという事実がある以上、タクマさんのところに引越すことで、パミル王国からしばらく監視対象にされるという不安要素はあるよ。それでもみんな、移住に異存はない?」
「「「…………」」」
キーラの言葉を聞き、魔族たちは無言になる。タクマの家族に差別がないと分かったとはいえ、住み慣れた集落を離れることに不安がないといえば嘘になる。
そんな思いを口に出せない他の魔族たちの様子を見て、キーラは彼らの返事を待たずに言葉を続ける。
「でも……僕はタクマさんのところで暮らすことに興味があるんだ。僕たち魔族は今まで、他の種族と交流を避けて生きてきた。だけどタクマさんのところで暮らせば、いろいろな種族の人たちと触れ合えるでしょ? それに……もう疲れちゃったんだ。他の種族に差別されるのを恐れて隠れて暮らすのは……みんなはどう?」
キーラの訴えに、魔族の中の何人かが黙って頷き返す。誰から蔑まれたり怯えたりされることなく、平和に暮らしていきたいというのは、集落の者たち全員の願いだった。
そんな魔族たちの気持ちを代弁するように、ディオが口を開く。
「ああ……俺も、もう嫌だな……隠れて暮らすのは。タクマさんのところで平和な暮らしが叶うなら、俺も行きたい」
「そうね、私も行きたい」
「俺もタクマさんのところなら、なんとかなる気がする」
ディオの言葉に魔族たちが口々に同意を示した。
「そっか……僕もみんなが一緒なら嬉しいよ!」
突然のことで戸惑いはあるだろうが、今の生活を変えたいという気持ちは他の仲間たちも同じなのだと分かり、キーラは嬉しさで笑顔になった。
「あれっ? だけど……」
キーラはハッとして、思わず呟いた。
そういえば、まだ移住するかどうかの意思を確認できていない魔族がいる。大口真神に喧嘩を売って返り討ちにされた者たちだ。彼らは魔族は魔族だけで独立して生きるべきだという思想の持ち主だった。
「そうだ、彼らにも説明してあげないと!」
キーラはそう言ってディオと共に、集落の集会所へ向かう。
集会所の中に入ると、そこには独立派グループの者たちが気絶したまま倒れていた。
「あとはこいつらの意思を確認するだけだが……忌神様はすぐに目を覚ますと言っていたが、本当に大丈夫なのか」
ディオが独立派の者たちを見て、不安げにボソッと呟いた。
ちなみに忌神というのは、大口真神のことだ。圧倒的な神力と禍々しい瘴気を持つ大口真神を、魔族たちは畏怖を込めてそう呼んでいるのである。
「うーん、大丈夫だと思うけど。普通に起こせば目を覚ますって言ってたし」
キーラはそう言いながら、おもむろに独立派の者たちに近づく。そしていきなり、彼らの頬を思いっきりひっぱたいた。
独立派の者たちを遠慮なくビンタするキーラの姿にディオはドン引きしていたが、キーラは気にすることなく張り手を繰り返す。
「さっさと起きて話を聞きなさい! ほら! ほら!」
「ううっ……」
男の一人がうめき声を上げた。キーラの容赦ないビンタによって、意識を取り戻したのだ。
しかしその次の瞬間、キーラは今まで以上に力を込めたビンタを男の頬に叩き込む。
「もーっ、いつまで寝てるのさ!!」
「う、うぼ……」
キーラの全力のビンタがクリーンヒットし、男は情けない声を出した。
「あ、起きたみたいだね!」
さわやかにそう言うキーラだったが、独立派の男の頬は真っ赤に腫れ、大きく膨らんでしまっている。
「は、はにがおほったのば……」
独立派の男は口の端から血を流し、「何が起きたんだ」というような意味の言葉を呟きながら体を起こす。
だがその瞬間、先ほどまでの悪夢がフラッシュバックする。大口真神の瘴気により、男は意識を失っている間、恐ろしい悪夢を見ていたのだ。
「あ、ああああ……」
「大丈夫! 悪夢は終わったの! いい? 終わったの!」
動転する男に対し、キーラは大きな声で落ち着くように促した。
こうして独立派の男たちを一人ずつビンタで起こしてはパニック状態から落ち着かせる、というのを何回か繰り返す。そして独立派グループが全員目覚めたところで、キーラはこれまでの経緯や、移住のことを説明した。
「「「…………」」」
説明が終わり、男たちは顔を見合わせる。
自分たちのことを恐ろしい種族として差別してきた人族、その一員であるはずのタクマから生活を共にしたいという提案があったなど、にわかには信じられないことだったのだ。
「移住って……本気なのか?」
独立派の男は、そうキーラに問いかける。
「他種族と共存なんて、無理に決まって……」
だがキーラの表情から本気であることを悟り、途中で言葉を止めた。
「僕はタクマさんのもとでなら平穏な生活が送れる……そう信じてるんだ。タクマさんには僕たちを守ってくれるだけの力がある。それにタクマさん、そしてタクマさんの家族には、僕たちを受け入れてくれる度量があると思うんだ」
強い決意の込められたキーラの言葉を聞き、独立派の者たちは黙り込む。
「……俺はキーラの選択に従おうと思う」
「ああ、私もキーラに賛同するよ」
そのうち独立派の一部の者たちは、キーラと同じように移住する決意を固める。そして独立派の者たちの輪から離れ、キーラの側へ移動した。
だが独立派グループのリーダー格の男は、首を横に振る。
「……キーラの言っていることにも一理ある。ナーブの企みを俺たちは防げなかった。自衛できないのなら、他者から庇護されながら平穏な暮らしを目指す道もあるのだろう。だが、俺には無理だ」
リーダー格の男はしばらく考え込み、そして考えを固めた様子でキーラに告げる。
「キーラ。すまないが、俺はみんなとは違う道を行こうと思う。誰かの庇護を受けて平穏な生活を得る、それを否定するつもりはまったくない。だが俺は守られるよりも、自分たちの生活は自分たちで守りたいんだ。ただ……今はそれを可能とする実力がないことは理解している。だから、強くなるために修業の旅に出ようと思う」
リーダー格の男に続いて、独立派グループのもう一人の男も言う。
「俺もこいつと同じだ。どれほど時間が掛かるのかは分からんが、みんなを守れるような存在になりたい」
「……分かった。君たちならそう言うんじゃないかって気はしていたよ。誰よりも力を求めていたしね……」
キーラは寂しそうな顔をしつつも、二人に理解を示した。
「だけど……気を付けてね? 魔族だけで旅に出るって、きっとすごく危険だと思うからさ」
キーラは魔族が差別されやすいことを心配し、そんな言葉を掛ける。
だが独立派の男二人は、キーラの心配していることなど承知の上といった様子だ。
「ああ、俺たち二人の選んだ道は厳しいものになるだろう」
「だがみんなと袂を分かつからには、覚悟を持って強くなるつもりだ」
キーラは二人の言葉を聞き、彼らが人族への反抗心から、考えなしに別の道を選んだわけではないのだろうと考えた。
「じゃあ、タクマさんには僕からこのことを伝えるよ」
キーラがそう言うと、二人は首を横に振った。
「報告をキーラに任せ、逃げるように出発するつもりはないぞ」
「ああ、自分の選択に恥じることは何もないからな。自らの口で話したい」
キーラは自分たちの矜持を大事にしている彼ららしい考えだと思い、どこか誇らしい気持ちになる。
「うん……なら、自分で伝えた方がいいかもね。でも、もう喧嘩売るとかはやめてよ?」
するとさっきまでの強気な態度とはうって変わり、二人は神妙な顔をしてコクリと頷いた。大口真神の瘴気にやられた恐怖が、しっかりと身に染みているらしい。
二人の様子に小さく笑いつつ、キーラは話題を変える。
「ところで、旅に必要な物資を準備しないとだよね。足りないものはみんなに言って集めよう」
それを聞いて、独立派の男二人はギョッとして顔を見合わせる。
「お、おい。俺たちはみんなとは違う道を行くんだぞ」
「そうだ。それにみんなも移住で何かと物入りなはずなのに、そんなことを頼むわけには……」
「水臭いこと言わないでよ~! そんなの誰も気にしないって!」
そう言うキーラに腕を引っ張られ、二人は集落へ引き返していくのだった。
◇ ◇ ◇
集落に戻り、キーラが魔族たちに声を掛けると、仲間たちは独立派の男二人に物資を用意するため、一斉にあちこちへ走りだした。
「ま、待て。気持ちはありがたいが、持っていける荷物には限界があるぞ!」
キーラが話を聞くと、二人は別々に旅をするつもりらしい。それぞれが己の強さを高めるための修業の旅なので、お互いに頼らず腕を磨きたいとのこと。なので旅装を整えるといっても、できるだけ身軽な状態でいたいと考えるのも当然だろうとキーラは考える。
「だけど、物資の量は気にしなくても大丈夫だよ! なんとかなるから、ちょっと待っててね」
キーラはそう言って二人に笑顔を見せると、自分の家へ駆けだした。
「あっ、おいキーラ! ……って聞いてねえな」
「まったく……」
キーラの行動の速さに二人は呆れる。だが、仲間たちが袂を分かつ自分たちをこんなにも思ってくれているのが分かり、胸に熱いものが込みあげてきた。
「……なあ? ここまでされたら、絶対に強くなって戻ってこないとな」
「ああ……絶対にな」
二人は心の中で更に強く決意を固めた。
その時、キーラが二人の前に戻ってくる。
「お待たせ! これは僕から二人に餞別だよ!」
そう言ってキーラは二人にそれぞれ一つずつ、小さな指輪を手渡した。
キーラから渡された指輪を見て、二人は顔色を変える。ひと目見ただけで、この指輪が貴重な魔道具だと理解したからだ。
しかもこの小さな指輪からは、通常ではありえない魔力が迸っているのが感じられる。
「これは収納の指輪。空間収納機能がついてて、指輪の中にいくらでも物資をしまえるんだ! 旅立つ君たちにはぴったりのアイテムだよ!」
キーラから得意げにそう言われ、二人はギョッとする。
確かに旅に出る二人にとって、とてもありがたいアイテムだ。しかしこれほどまでに魔力を込められた魔道具であれば、価値は神具――神が作ったアイテムと同レベルのはずだ。
「キーラ……お前、正気か? 俺らに神具レベルの魔道具をタダで寄こす気なのか?」
「こんな貴重なものを簡単に渡してきやがって……俺たちに渡すくらいなら、タクマに献上した方がよくないか? そうすればみんなの印象もよくなって、移住した後の待遇も……」
二人は、自分たちはいいからとキーラに指輪を返そうとする。
だが、キーラは決して受け取ろうとしない。
「タクマさんはいらないって言うと思うよ。タクマさんってパミル王国御用達のすごい商人なんだって。だからお金にもアイテムにもこだわったりしないし、他人から搾取することもない。僕らを苦しめたりする人じゃないから、これは安心して受け取ってよ」
二人はそれを聞いてしばらく唖然としていたが、そのうち受け取る決心がついたようで、静かに指輪をはめる。その瞬間、指輪の使い方や性能が脳内に流れこんできた。
「これ、容量の制限がない……しかも使用者制限つきだと? 更には、収納アイテムの時間停止機能まで……」
「ただの魔道具ではないと思っていたが、こいつはまさに神具じゃないか……」
驚きのあまり呆然としている二人を見て、キーラはしてやったりという表情を浮かべる。
「はめたね? はめちゃったね? そう、それは神具なんだよ。しかも一度はめたら他の人が絶対に使えないという代物! これで返したくても返せない。というわけで、ちゃんと使い倒してね! いやー、喜んでくれてよかった!」
「「なっ!?」」
本当に神具だったのだと知り、二人はあからさまに動揺する。だが、改めて自分のはめた指輪を見る表情には、嬉しさが滲んでいた。
二人にいいサプライズができたと、キーラが満足げな顔をしていると、自宅に戻って物資を用意していた仲間たちが集まってきた。みんな、両手に抱えきれないほどの荷物を持っている。
「俺特製の干し肉だ。旅先で食ってくれ」
「私は乾燥野菜。野菜もしっかり摂るのよ」
「薬も必要だろう? 使い道は袋に書いてある」
仲間たちは口々にそんなことを言いながら、二人に物資を渡してきた。
あまりに量がたくさんあるので、受け取った端から指輪に収納していく。これなら旅先でも当分食べるのには困らない。
「みんな、ありがとう……」
「すまない、俺たちのために……感謝する」
二人は感極まりながらも、なんとか自分の気持ちを伝える。
そんな二人を、魔族の仲間たちはただただ笑顔で見守っていた。
袂を分かつとしても、二人が仲間なのは変わらない。魔族たちの表情からは、そんな気持ちが見て取れる。
「いい? 食べることは大事よ。めんどくさくてもちゃんと食べてね」
「逃げることは恥じゃないからな。ヤバかったら逃げろ。逃げてでも生き残れたら、それだけで勝ちだからな」
「俺たちは待っているぞ。お前たちが強くなって戻る、その時をな」
仲間たちは物資以外にも、そんな言葉を二人に贈る。
それを聞いて二人の目には涙が浮かんだ。二人にとって仲間たちの言葉は、何ものにも代えがたい餞別となった。
二人は大口真神に喧嘩を売るくらいに排他的で実力主義なところがあるが、根は仲間思いで優しい男たちなのだ。仲間たちもそれがよく分かっているからこそ、彼らを気遣っている。
みんなの優しさに触れた二人は、いつか自分が強くなり、どんな困難にでも打ち勝てるようになったら、すぐさま仲間たちに顔を見せに戻ろうと心に決めるのだった。
4 何が出るかな?
魔族たちが集落を離れる準備をしているのと同じ頃。
タクマたち一行は、最初に転移してきた地点である魔族の集落に近い森にいた。
ちなみに精霊王・アルテは自分の役目は終わったと思ったのか、イーファと共に湖畔の祠に帰ってしまっている。一緒に集落に来ていた守護獣たちも、タクマが空間跳躍でいつの間にか湖畔に送り返していた。
「あー! だあだ! だあだ!」
突然、タクマが抱っこしているユキが騒ぎ始めた。
「どうしたユキ?」
「あうあうあー!! あいいー!!」
妙にハイテンションで何かを訴えている様子のユキ。一体どうしたのかと、タクマはユキの視線の先に目を向ける。
「……ん? そっちに何かあるのか?」
「タクマよ。とりあえず向かってみようではないか。なんだか面白そうな気配がある」
側に立っている大口真神は楽しげにそう口にしながら、タクマの返事を待つことなくどんどん先に進んでいってしまう。
「ちょっと、大口真神様? ……はあ。ナビの索敵には何も引っかかってないし、索敵に引っかからないような何かがいるんだとしたら、慎重に行きたいんだけどな。あの様子だと聞いてはくれないか……まあ、なら仕方がない、行ってみよう」
「きゃうう~! あいい~!」
ユキはタクマに自分のアピールが通じたと思った様子で、ご機嫌ではしゃぎ始めた。
こうしてユキを抱っこしたタクマは、渋々大口真神のあとをついて森を進む。タクマの両肩にはナビとスミレがそれぞれ座り、いつでもタクマが魔力を使うサポートができるよう、臨戦態勢で警戒を怠らない。
タクマ、ナビ、スミレの心配をよそに、大口真神はゆったりした足取りで、集落とは反対側の森の奥へ進んでいく。
一時間ほど歩き続けると、タクマたちの目の前に、開けた土地が広がっていた。色とりどりの花が咲き、言葉では言い表せない美しさだ。
その光景にタクマが目を奪われていると、ナビが緊張した声音でタクマに注意する。
「マスター、気を付けてください。おかしいです。ここはマップでは森の真っ只中で、こんな開けた場所ではありません」
タクマは何があってもすぐに動けるように、周囲を見まわして警戒を高める。
その時、タクマの隣にいる大口真神が呟く。
「ほう……なかなか手が込んでおる」
「どうしたんですか、大口真神様」
「タクマよ。この場所には結界が張られているのだ」
大口真神によると、ただの結界ではないらしい。様々な魔法が付与され、かなり強固な作りなのだという。
「この結界を張った者は、よほど隠したいものがあったようだ。入るとしたら、強引に破るしかないな」
「そこまでして隠したいものがあるのなら、そのままでもいいのでは? もし変なものが中にあるようなら、すこぶる面倒な気しかしないんですが……」
余計な厄介事に首を突っ込みたくないとタクマが主張した直後、ユキが不満そうな声を出した。
「ぶう~!! だい~!!」
タクマは困ってしまい、ユキをなんとかなだめようとする。
「い、いや。でも今は魔族の問題が優先だろ? それが終わってから、もう一度来るっていうのは……」
「だぶう~~、ぶうう~~!!」
ユキは即座にブーイングしているかのような声を出した。
「ないな。こんな面白そうなことをお預けなどありえん」
大口真神までそんなことを言ってきた。
タクマは仕方ないといった表情でため息を吐く。いくら説得しても、この二人に意見を変えてもらうのは難しそうだと考えたのだ。
「……わ、分かったよ。ユキも大口真神様もそう怒らないでくれ」
タクマはナビとスミレに補助を頼み、ユキを大口真神の背中に乗せ、結界の中を調べることにする。
とはいえ、ナビでもマッピングできなかった結界だ。中に何があるのかはまったく予測できなかった。
「結界を破った途端、モンスターが! とかは勘弁してほしいんだが……ありえないとは言いきれないから、慎重にっと……」
ナビに探ってもらうと、結界は今タクマたちの目の前にある、森の中のぽっかりと開けた土地すべてを覆っている様子だった。
「この結界の意味するところはなんなんだろうな。見た感じ、トラップがあるって様子じゃないが……」
「タクマよ、そこまでの警戒は必要ないと思うぞ。結界自体には悪意はない。むしろ何かを守りたいという意図が感じられる」
タクマの背後から、大口真神がそう助言した。
神である大口真神がそのような印象を受けるなら、結界にも内部にも危険がないはずだ。そう判断したタクマは、次の行動に移る。
「……じゃあ、まずは結界をどうにかするか。結界に込められた魔力を上回る力をぶつければ、強引に突破できるだろ」
「待って! それはオススメできないかも」
タクマの肩に乗ったスミレが、慌てて制止した。
「ここまで大きな魔力で結界を張られていると、破った時の衝撃で結界の内部がめちゃくちゃに! みたいなこともありえるよ」
「あー、確かにそれはあるかもしれないな」
どうやって結界を破るべきか、タクマはしばらく考える。
そしてアイテムボックスから、この世界の主神・ヴェルドが作ったアイテム、天叢雲剣を取り出した。魔力で破壊をするのではなく、天叢雲剣の持つ聖なる力で結界を消し去ろうと考えたのだ。
23
お気に入りに追加
18,072
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
連帯責任って知ってる?
よもぎ
ファンタジー
第一王子は本来の婚約者とは別の令嬢を愛し、彼女と結ばれんとしてとある夜会で婚約破棄を宣言した。その宣言は大騒動となり、王子は王子宮へ謹慎の身となる。そんな彼に同じ乳母に育てられた、乳母の本来の娘が訪ねてきて――
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。