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14巻

14-2

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 3 魔族たちの選択


 魔族の集落で、キーラたちは移住の準備を進めている。
 なお、タクマ一行はいったん集落を離れ、近くの森に転移していた。タクマたち部外者のいない状況で準備を進めつつ、本当に移住して問題ないか、自分の心と向き合ってほしいというタクマなりの心遣いであった。
 すでに集落全員でタクマのところに移住したいと意思表明した魔族たちであったが、何しろ突然のことなので、完全に心が揺れないと断言できるほど決意が固まったわけでもない。
 少し不安げな表情で移住の準備を始めた魔族たちに、キーラが語りかける。

「みんな、本当に移住して大丈夫? ナーブに報復を行ったという事実がある以上、タクマさんのところに引越すことで、パミル王国からしばらく監視対象にされるという不安要素はあるよ。それでもみんな、移住に異存はない?」
「「「…………」」」

 キーラの言葉を聞き、魔族たちは無言になる。タクマの家族に差別がないと分かったとはいえ、住み慣れた集落を離れることに不安がないといえば嘘になる。
 そんな思いを口に出せない他の魔族たちの様子を見て、キーラは彼らの返事を待たずに言葉を続ける。

「でも……僕はタクマさんのところで暮らすことに興味があるんだ。僕たち魔族は今まで、他の種族と交流をけて生きてきた。だけどタクマさんのところで暮らせば、いろいろな種族の人たちと触れ合えるでしょ? それに……もう疲れちゃったんだ。他の種族に差別されるのを恐れて隠れて暮らすのは……みんなはどう?」

 キーラの訴えに、魔族の中の何人かが黙って頷き返す。誰からさげすまれたりおびえたりされることなく、平和に暮らしていきたいというのは、集落の者たち全員の願いだった。
 そんな魔族たちの気持ちを代弁するように、ディオが口を開く。

「ああ……俺も、もう嫌だな……隠れて暮らすのは。タクマさんのところで平和な暮らしがかなうなら、俺も行きたい」
「そうね、私も行きたい」
「俺もタクマさんのところなら、なんとかなる気がする」

 ディオの言葉に魔族たちが口々に同意を示した。

「そっか……僕もみんなが一緒なら嬉しいよ!」

 突然のことで戸惑いはあるだろうが、今の生活を変えたいという気持ちは他の仲間たちも同じなのだと分かり、キーラは嬉しさで笑顔になった。

「あれっ? だけど……」

 キーラはハッとして、思わず呟いた。
 そういえば、まだ移住するかどうかの意思を確認できていない魔族がいる。大口真神に喧嘩けんかを売って返り討ちにされた者たちだ。彼らは魔族は魔族だけで独立して生きるべきだという思想の持ち主だった。

「そうだ、彼らにも説明してあげないと!」

 キーラはそう言ってディオと共に、集落の集会所へ向かう。


 集会所の中に入ると、そこには独立派グループの者たちが気絶したまま倒れていた。

「あとはこいつらの意思を確認するだけだが……忌神まがつかみ様はすぐに目を覚ますと言っていたが、本当に大丈夫なのか」

 ディオが独立派の者たちを見て、不安げにボソッと呟いた。
 ちなみに忌神というのは、大口真神のことだ。圧倒的な神力しんりき禍々まがまがしい瘴気しょうきを持つ大口真神を、魔族たちは畏怖いふを込めてそう呼んでいるのである。

「うーん、大丈夫だと思うけど。普通に起こせば目を覚ますって言ってたし」

 キーラはそう言いながら、おもむろに独立派の者たちに近づく。そしていきなり、彼らの頬を思いっきりひっぱたいた。
 独立派の者たちを遠慮なくビンタするキーラの姿にディオはドン引きしていたが、キーラは気にすることなく張り手を繰り返す。

「さっさと起きて話を聞きなさい! ほら! ほら!」
「ううっ……」

 男の一人がうめき声を上げた。キーラの容赦ないビンタによって、意識を取り戻したのだ。
 しかしその次の瞬間、キーラは今まで以上に力を込めたビンタを男の頬に叩き込む。

「もーっ、いつまで寝てるのさ!!」
「う、うぼ……」

 キーラの全力のビンタがクリーンヒットし、男は情けない声を出した。

「あ、起きたみたいだね!」

 さわやかにそう言うキーラだったが、独立派の男の頬は真っ赤にれ、大きく膨らんでしまっている。

「は、はにがおほったのば……」

 独立派の男は口の端から血を流し、「何が起きたんだ」というような意味の言葉を呟きながら体を起こす。
 だがその瞬間、先ほどまでの悪夢がフラッシュバックする。大口真神の瘴気により、男は意識を失っている間、恐ろしい悪夢を見ていたのだ。

「あ、ああああ……」
「大丈夫! 悪夢は終わったの! いい? 終わったの!」

 動転する男に対し、キーラは大きな声で落ち着くようにうながした。
 こうして独立派の男たちを一人ずつビンタで起こしてはパニック状態から落ち着かせる、というのを何回か繰り返す。そして独立派グループが全員目覚めたところで、キーラはこれまでの経緯や、移住のことを説明した。

「「「…………」」」

 説明が終わり、男たちは顔を見合わせる。
 自分たちのことを恐ろしい種族として差別してきた人族、その一員であるはずのタクマから生活を共にしたいという提案があったなど、にわかには信じられないことだったのだ。

「移住って……本気なのか?」

 独立派の男は、そうキーラに問いかける。

「他種族と共存なんて、無理に決まって……」

 だがキーラの表情から本気であることを悟り、途中で言葉を止めた。

「僕はタクマさんのもとでなら平穏な生活が送れる……そう信じてるんだ。タクマさんには僕たちを守ってくれるだけの力がある。それにタクマさん、そしてタクマさんの家族には、僕たちを受け入れてくれる度量があると思うんだ」

 強い決意の込められたキーラの言葉を聞き、独立派の者たちは黙り込む。

「……俺はキーラの選択に従おうと思う」
「ああ、私もキーラに賛同するよ」

 そのうち独立派の一部の者たちは、キーラと同じように移住する決意を固める。そして独立派の者たちの輪から離れ、キーラの側へ移動した。
 だが独立派グループのリーダー格の男は、首を横に振る。

「……キーラの言っていることにも一理ある。ナーブのたくらみを俺たちは防げなかった。自衛できないのなら、他者から庇護ひごされながら平穏な暮らしを目指す道もあるのだろう。だが、俺には無理だ」

 リーダー格の男はしばらく考え込み、そして考えを固めた様子でキーラに告げる。

「キーラ。すまないが、俺はみんなとは違う道を行こうと思う。誰かの庇護を受けて平穏な生活を得る、それを否定するつもりはまったくない。だが俺は守られるよりも、自分たちの生活は自分たちで守りたいんだ。ただ……今はそれを可能とする実力がないことは理解している。だから、強くなるために修業しゅぎょうの旅に出ようと思う」

 リーダー格の男に続いて、独立派グループのもう一人の男も言う。

「俺もこいつと同じだ。どれほど時間が掛かるのかは分からんが、みんなを守れるような存在になりたい」
「……分かった。君たちならそう言うんじゃないかって気はしていたよ。誰よりも力を求めていたしね……」

 キーラはさみしそうな顔をしつつも、二人に理解を示した。

「だけど……気を付けてね? 魔族だけで旅に出るって、きっとすごく危険だと思うからさ」

 キーラは魔族が差別されやすいことを心配し、そんな言葉を掛ける。
 だが独立派の男二人は、キーラの心配していることなど承知の上といった様子だ。

「ああ、俺たち二人の選んだ道は厳しいものになるだろう」
「だがみんなとたもつを分かつからには、覚悟を持って強くなるつもりだ」

 キーラは二人の言葉を聞き、彼らが人族への反抗心から、考えなしに別の道を選んだわけではないのだろうと考えた。

「じゃあ、タクマさんには僕からこのことを伝えるよ」

 キーラがそう言うと、二人は首を横に振った。

「報告をキーラに任せ、逃げるように出発するつもりはないぞ」
「ああ、自分の選択に恥じることは何もないからな。自らの口で話したい」

 キーラは自分たちの矜持きょうじを大事にしている彼ららしい考えだと思い、どこか誇らしい気持ちになる。

「うん……なら、自分で伝えた方がいいかもね。でも、もう喧嘩売るとかはやめてよ?」

 するとさっきまでの強気な態度とはうって変わり、二人は神妙な顔をしてコクリと頷いた。大口真神の瘴気にやられた恐怖が、しっかりと身に染みているらしい。
 二人の様子に小さく笑いつつ、キーラは話題を変える。

「ところで、旅に必要な物資を準備しないとだよね。足りないものはみんなに言って集めよう」

 それを聞いて、独立派の男二人はギョッとして顔を見合わせる。

「お、おい。俺たちはみんなとは違う道を行くんだぞ」
「そうだ。それにみんなも移住で何かと物入りなはずなのに、そんなことを頼むわけには……」
水臭みずくさいこと言わないでよ~! そんなの誰も気にしないって!」

 そう言うキーラに腕を引っ張られ、二人は集落へ引き返していくのだった。


 ◇ ◇ ◇


 集落に戻り、キーラが魔族たちに声を掛けると、仲間たちは独立派の男二人に物資を用意するため、一斉にあちこちへ走りだした。

「ま、待て。気持ちはありがたいが、持っていける荷物には限界があるぞ!」

 キーラが話を聞くと、二人は別々に旅をするつもりらしい。それぞれが己の強さを高めるための修業の旅なので、お互いに頼らず腕を磨きたいとのこと。なので旅装を整えるといっても、できるだけ身軽な状態でいたいと考えるのも当然だろうとキーラは考える。

「だけど、物資の量は気にしなくても大丈夫だよ! なんとかなるから、ちょっと待っててね」

 キーラはそう言って二人に笑顔を見せると、自分の家へ駆けだした。

「あっ、おいキーラ! ……って聞いてねえな」
「まったく……」

 キーラの行動の速さに二人は呆れる。だが、仲間たちが袂を分かつ自分たちをこんなにも思ってくれているのが分かり、胸に熱いものが込みあげてきた。

「……なあ? ここまでされたら、絶対に強くなって戻ってこないとな」
「ああ……絶対にな」

 二人は心の中で更に強く決意を固めた。
 その時、キーラが二人の前に戻ってくる。

「お待たせ! これは僕から二人に餞別せんべつだよ!」

 そう言ってキーラは二人にそれぞれ一つずつ、小さな指輪を手渡した。
 キーラから渡された指輪を見て、二人は顔色を変える。ひと目見ただけで、この指輪が貴重な魔道具だと理解したからだ。
 しかもこの小さな指輪からは、通常ではありえない魔力がほとばしっているのが感じられる。

「これは収納の指輪。空間収納機能がついてて、指輪の中にいくらでも物資をしまえるんだ! 旅立つ君たちにはぴったりのアイテムだよ!」

 キーラから得意げにそう言われ、二人はギョッとする。
 確かに旅に出る二人にとって、とてもありがたいアイテムだ。しかしこれほどまでに魔力を込められた魔道具であれば、価値は神具しんぐ――神が作ったアイテムと同レベルのはずだ。

「キーラ……お前、正気か? 俺らに神具レベルの魔道具をタダで寄こす気なのか?」
「こんな貴重なものを簡単に渡してきやがって……俺たちに渡すくらいなら、タクマに献上した方がよくないか? そうすればみんなの印象もよくなって、移住した後の待遇も……」

 二人は、自分たちはいいからとキーラに指輪を返そうとする。
 だが、キーラは決して受け取ろうとしない。

「タクマさんはいらないって言うと思うよ。タクマさんってパミル王国御用達ごようたしのすごい商人なんだって。だからお金にもアイテムにもこだわったりしないし、他人から搾取さくしゅすることもない。僕らを苦しめたりする人じゃないから、これは安心して受け取ってよ」

 二人はそれを聞いてしばらく唖然あぜんとしていたが、そのうち受け取る決心がついたようで、静かに指輪をはめる。その瞬間、指輪の使い方や性能が脳内に流れこんできた。

「これ、容量の制限がない……しかも使用者制限つきだと? 更には、収納アイテムの時間停止機能まで……」
「ただの魔道具ではないと思っていたが、こいつはまさに神具じゃないか……」

 驚きのあまり呆然としている二人を見て、キーラはしてやったりという表情を浮かべる。

「はめたね? はめちゃったね? そう、それは神具なんだよ。しかも一度はめたら他の人が絶対に使えないという代物! これで返したくても返せない。というわけで、ちゃんと使い倒してね! いやー、喜んでくれてよかった!」
「「なっ!?」」

 本当に神具だったのだと知り、二人はあからさまに動揺する。だが、改めて自分のはめた指輪を見る表情には、嬉しさがにじんでいた。
 二人にいいサプライズができたと、キーラが満足げな顔をしていると、自宅に戻って物資を用意していた仲間たちが集まってきた。みんな、両手に抱えきれないほどの荷物を持っている。

「俺特製の干し肉だ。旅先で食ってくれ」
「私は乾燥野菜。野菜もしっかりるのよ」
「薬も必要だろう? 使い道は袋に書いてある」

 仲間たちは口々にそんなことを言いながら、二人に物資を渡してきた。
 あまりに量がたくさんあるので、受け取った端から指輪に収納していく。これなら旅先でも当分食べるのには困らない。

「みんな、ありがとう……」
「すまない、俺たちのために……感謝する」

 二人は感極まりながらも、なんとか自分の気持ちを伝える。
 そんな二人を、魔族の仲間たちはただただ笑顔で見守っていた。
 袂を分かつとしても、二人が仲間なのは変わらない。魔族たちの表情からは、そんな気持ちが見て取れる。

「いい? 食べることは大事よ。めんどくさくてもちゃんと食べてね」
「逃げることは恥じゃないからな。ヤバかったら逃げろ。逃げてでも生き残れたら、それだけで勝ちだからな」
「俺たちは待っているぞ。お前たちが強くなって戻る、その時をな」

 仲間たちは物資以外にも、そんな言葉を二人に贈る。
 それを聞いて二人の目には涙が浮かんだ。二人にとって仲間たちの言葉は、何ものにも代えがたい餞別となった。
 二人は大口真神に喧嘩を売るくらいに排他的で実力主義なところがあるが、根は仲間思いで優しい男たちなのだ。仲間たちもそれがよく分かっているからこそ、彼らを気遣っている。
 みんなの優しさに触れた二人は、いつか自分が強くなり、どんな困難にでも打ち勝てるようになったら、すぐさま仲間たちに顔を見せに戻ろうと心に決めるのだった。



 4 何が出るかな? 


 魔族たちが集落を離れる準備をしているのと同じ頃。
 タクマたち一行は、最初に転移してきた地点である魔族の集落に近い森にいた。
 ちなみに精霊王・アルテは自分の役目は終わったと思ったのか、イーファと共に湖畔のほこらに帰ってしまっている。一緒に集落に来ていた守護獣たちも、タクマが空間跳躍でいつの間にか湖畔に送り返していた。

「あー! だあだ! だあだ!」

 突然、タクマが抱っこしているユキが騒ぎ始めた。

「どうしたユキ?」
「あうあうあー!! あいいー!!」

 妙にハイテンションで何かを訴えている様子のユキ。一体どうしたのかと、タクマはユキの視線の先に目を向ける。

「……ん? そっちに何かあるのか?」
「タクマよ。とりあえず向かってみようではないか。なんだか面白そうな気配がある」

 側に立っている大口真神は楽しげにそう口にしながら、タクマの返事を待つことなくどんどん先に進んでいってしまう。

「ちょっと、大口真神様? ……はあ。ナビの索敵さくてきには何も引っかかってないし、索敵に引っかからないような何かがいるんだとしたら、慎重に行きたいんだけどな。あの様子だと聞いてはくれないか……まあ、なら仕方がない、行ってみよう」
「きゃうう~! あいい~!」

 ユキはタクマに自分のアピールが通じたと思った様子で、ご機嫌きげんではしゃぎ始めた。
 こうしてユキを抱っこしたタクマは、渋々大口真神のあとをついて森を進む。タクマの両肩にはナビとスミレがそれぞれ座り、いつでもタクマが魔力を使うサポートができるよう、臨戦態勢で警戒をおこらない。
 タクマ、ナビ、スミレの心配をよそに、大口真神はゆったりした足取りで、集落とは反対側の森の奥へ進んでいく。


 一時間ほど歩き続けると、タクマたちの目の前に、開けた土地が広がっていた。色とりどりの花が咲き、言葉では言い表せない美しさだ。
 その光景にタクマが目を奪われていると、ナビが緊張した声音でタクマに注意する。

「マスター、気を付けてください。おかしいです。ここはマップでは森の真っ只中で、こんな開けた場所ではありません」

 タクマは何があってもすぐに動けるように、周囲を見まわして警戒を高める。
 その時、タクマの隣にいる大口真神が呟く。

「ほう……なかなか手が込んでおる」
「どうしたんですか、大口真神様」
「タクマよ。この場所には結界けっかいが張られているのだ」

 大口真神によると、ただの結界ではないらしい。様々な魔法が付与され、かなり強固な作りなのだという。

「この結界を張った者は、よほど隠したいものがあったようだ。入るとしたら、強引に破るしかないな」
「そこまでして隠したいものがあるのなら、そのままでもいいのでは? もし変なものが中にあるようなら、すこぶる面倒な気しかしないんですが……」

 余計な厄介事に首を突っ込みたくないとタクマが主張した直後、ユキが不満そうな声を出した。

「ぶう~!! だい~!!」

 タクマは困ってしまい、ユキをなんとかなだめようとする。

「い、いや。でも今は魔族の問題が優先だろ? それが終わってから、もう一度来るっていうのは……」
「だぶう~~、ぶうう~~!!」

 ユキは即座にブーイングしているかのような声を出した。

「ないな。こんな面白そうなことをおあずけなどありえん」

 大口真神までそんなことを言ってきた。
 タクマは仕方ないといった表情でため息をく。いくら説得しても、この二人に意見を変えてもらうのは難しそうだと考えたのだ。

「……わ、分かったよ。ユキも大口真神様もそう怒らないでくれ」

 タクマはナビとスミレに補助を頼み、ユキを大口真神の背中に乗せ、結界の中を調べることにする。
 とはいえ、ナビでもマッピングできなかった結界だ。中に何があるのかはまったく予測できなかった。

「結界を破った途端、モンスターが! とかは勘弁してほしいんだが……ありえないとは言いきれないから、慎重にっと……」

 ナビに探ってもらうと、結界は今タクマたちの目の前にある、森の中のぽっかりと開けた土地すべてをおおっている様子だった。

「この結界の意味するところはなんなんだろうな。見た感じ、トラップがあるって様子じゃないが……」
「タクマよ、そこまでの警戒は必要ないと思うぞ。結界自体には悪意はない。むしろ何かを守りたいという意図が感じられる」

 タクマの背後から、大口真神がそう助言した。
 神である大口真神がそのような印象を受けるなら、結界にも内部にも危険がないはずだ。そう判断したタクマは、次の行動に移る。

「……じゃあ、まずは結界をどうにかするか。結界に込められた魔力を上回る力をぶつければ、強引に突破できるだろ」
「待って! それはオススメできないかも」

 タクマの肩に乗ったスミレが、慌てて制止した。

「ここまで大きな魔力で結界を張られていると、破った時の衝撃で結界の内部がめちゃくちゃに! みたいなこともありえるよ」
「あー、確かにそれはあるかもしれないな」

 どうやって結界を破るべきか、タクマはしばらく考える。
 そしてアイテムボックスから、この世界の主神しゅしん・ヴェルドが作ったアイテム、天叢雲剣あめのむらくものつるぎを取り出した。魔力で破壊をするのではなく、天叢雲剣の持つ聖なる力で結界を消し去ろうと考えたのだ。


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