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11巻

11-3

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「じゃあ結婚式は僕達も楽しくないと、お父さん達も幸せじゃないって事?」
「そうだな。できればみんなにも笑顔でいてほしい。その笑顔を見られるのも、俺達の幸せの一つだよ」

 そう言ってタクマは、子供達の一人一人の目を見る。
 すると子供達は笑顔になり、目を輝かせて元気に言う。

「分かった! 僕達も楽しくやるー! それで、失敗もしないよう頑張るね」
「わたしもー!」
「俺もー」

 子供達は代わる代わる宣言し、二人に抱き着く。タクマと夕夏はそれを優しく受け止めた。
 子供達みんなの笑顔を見て、夕夏も笑顔になった。緊張はすっかりほぐれている。
 子供達の萎縮いしゅくしている姿につられて、夕夏も硬くなってしまっていたのだ。
 夕夏が子供達に向かって言う。

「ありがとう、みんな。おかげで私も気が楽になったわ。みんなが笑顔なら、私もリラックスして式に臨めそう……明日はよろしくね」

 緊張した面持ちだった夕夏が微笑んだのを見て、子供達はホッとした様子だ。
 すっかり安心し、子供達は次々にあくびを始める。

「さあ、そろそろ寝た方がいいな。明日は忙しくなるぞ」

 タクマに促され、子供達はおやすみと挨拶して寝室へ向かう。
 ヴァイス達も子供達につき添うために、一緒に寝室へ歩いていった。
 子供達を見送ったタクマと夕夏は、お互いの顔を見つめて微笑み合う。

「私達は幸せ者ね……家族のみんながこんなに気にかけてくれるんだから」
「そうだな。本当にそう思う。みんながいてくれるから、ここまで幸せなんだろうな」

 しばらくの間、タクマと夕夏は寄り添い合っていた。
 やがて――

「ふあー……」

 夕夏があくびを漏らした。夜もけ、眠気に耐えられなくなったようだ。
 タクマは夕夏の頭をポンポンと叩く。

「そろそろ寝たらどうだ? 本番であくびは嫌だろう?」
「そうね。そうする……タクマはどうするの?」
「俺はもう少しここにいるよ。どうも目がさえてな……」

 夕夏や子供達を気遣ってなんでもない風に見せていたが、実はタクマも緊張していたのだ。

「そう……あまり遅くならないでね」

 夕夏はタクマに微笑みかけ、一人で寝室に向かった。


 居間に残ったタクマは、窓を開けて縁側えんがわへ出た。
 暖房が効いた家の中と違い、空気が冷たい。
 タクマは縁側に腰かけ、アイテムボックスから酒とグラスを出す。グラスの隣には灰皿を置き、久々にタバコに火をけた。

「ふうー……久しぶりだ……やっぱり落ち着くな」

 タクマはそう呟きながらタバコの煙をくゆらせ、グラスの酒を口に含む。
 すると、ふいにナビゲーションシステムのナビが姿を現した。

「マスター? 考え事ですか?」

 ナビは優しい声色でタクマに聞く。

「ん? 考え事ってほどじゃないけどな……振り返ると、色々あったなと思っていただけだ。それに独身最後の夜だ。ちょっと感傷的かんしょうてきになってもいいだろう?」

 ナビはタクマの顔をじっと見つめてから言う。

「ついに明日は結婚式ですか……長い間お供してきましたが、マスターは随分変わったと思います。ヴェルドミールに来たばかりの頃のマスターは、その……」
「怖かった……か?」
「怖いというより、心を閉ざしているという感じでした。私とヴァイスには親しく接していましたが、他の人達に対しては壁がありました。他人に興味がなく、なんの感情もわかないといった雰囲気もありましたね」

 ナビに指摘されて、タクマは苦笑いを浮かべる。

「そうだな……確かに俺は人を遠ざけていた。それに正直、かなり好戦的だったと思う。大口真神おおぐちのまがみ様の影響もあっただろうが、俺自身も人間を信用していなかった」

 大口真神とは、タクマに最初の加護を与えた日本の神狼しんろうだ。その加護には負の面もあり、タクマの性格は一時荒々しいものに変化していた。
 タクマはこの世界に来たばかりの頃を思い出して、顔をしかめる。

「ヴァイスやナビがいてくれて、本当に良かったよ。お前達がいなかったら、俺は今頃どうなっていたか分からない」

 ヴァイス達に出会わず、誰にでも容赦ようしゃのない態度のまま過ごしていたら――考えるだけで寒気がした。タクマは思わず身震いし、グラスの酒を揺らしながら言葉を続ける。

「なあ、ナビ……俺は変われたかな。家族が増えて、行動は変わったと思う。でも、自分じゃそんなには変われたと実感できないんだよ」

 ナビは穏やかな表情で口にする。

「マスター。そうやって悩む今のマスターは、とても人間らしいと思いますよ。人間ですから間違いもあるかもしれません。ですが反省して、次に生かして、トータルでプラスなら問題はないって思うんです」

 タクマはナビの言葉を噛みしめる。

「トータルでプラスなら……そうだな、そういう考え方もあるか」

 それからタクマは、今日何本目かのタバコに火を点けた。タバコを吸いつつ、タクマは心からすっきりとした気持ちを感じていた。
 ナビは笑みを浮かべ、タクマに尋ねる。

「マスターは今、幸せですか? ……私は幸せです。守護獣達や、マスターの家族になった人達と生活する日々は、 とても穏やかで楽しいです」
「うん、俺も幸せだ。これ以上ないくらいの幸せをみんなからもらっているよ」

 そう言って笑うタクマの表情は、とても明るい。

「私達こそ、マスターから幸せをもらっています。だから、胸を張って生きてほしいです」
「ああ……みんなが幸せになるよう、これからも頑張るよ……」

 タクマはナビの頭を指で撫でる。するとナビは顔を真っ赤にしてワタワタした。
 ナビが見せた新鮮な反応に、タクマは思わず噴き出してしまう。
 ナビは慌てて言う。

「マ、マスター! これ以上は明日に響きます! そろそろ眠った方がいいでしょう。夕夏さんに言っていたように、マスターも寝不足は禁物きんもつです!」

 照れ隠しであたふたするナビの様子に笑みを浮かべ、タクマは寝室に戻る。
 その時のタクマの気持ちは、とても穏やかなものだった。



 5 式当日


 翌朝――結婚式当日を迎えたタクマは、いつものように目を覚ました。
 庭で待っているヴァイスとゲールの所に行き、一緒に軽く体を動かす。

「アウン?(今日はどんな一日になるかなー?)」
「ミアー(お祝いの日だから、きっと楽しくなるよね)」

 結婚式の流れは、おおよそ次のようなものだった。
 まず着替えを済ませ、ヴァイスとマロンが引く特注の馬車で、食事処琥珀から式場へ向かう。
 子供達と守護獣達は、一部が馬車に乗り、また別の一部が馬車を囲むようにして、タクマ達と一緒にパレードをする。
 式場となる教会前でタクマ達は馬車を降り、教会の中で結婚式を挙げる。
 たくさん練習してきたヴァイス達に、緊張した様子はない。今までの成果を出せるのが嬉しく、張りきっているようだ。

「子供達と一緒に練習したもんな。でも今日はいつもと違う事をいっぱいするんだ。今のうちにしっかり体をほぐしておくといい」

 タクマにそう言われたヴァイス達は、湖を一周してくると告げて駆けていった。
 それを笑顔で見送ったところで、家の中からアークスが出てくる。

「タクマ様。おはようございます」
「ああ、おはよう。いい朝だな」

 気負いのないタクマの表情を見て、アークスは満足げに頷く。

「ええ。そして今日は一日を更に素晴らしいものにしなければなりませんね。そのために準備が必要です」

 アークスは、着替えの時間である事をタクマに告げに来たようだ。

「着替えか、分かった。ところで、夕夏は?」
「夕夏様の着つけは既に始まっております。子供達も同様です。タクマ様もお願いします」

 こうしてタクマはアークスに連れられ、式の服装に着替えに向かう。




 ◇ ◇ ◇


「ついにこの日が来ましたね……お二人とも緊張しているようです」

 ヴェルドミールをつかさどる女神・ヴェルドが言う。
 彼女は神の空間から、鏡を通してタクマの様子を見ていた。
 彼が着替えのために家に入ったのを確認すると、ヴェルドは手を横に振って鏡を消す。
 そんなヴェルドに向かって、別の神が告げる。

「それは仕方ない事でしょう。人生の岐路きろとなる儀式を控えているのですから」

 大仕事を前に緊張する二人に同情的なのは、日本の女神・鬼子母神きしもじんだ。
 彼女はこれまでにタクマと夕夏が歩んできた紆余曲折うよきょくせつを考えれば仕方ないと、首を横に振る。
 続いて、また別の神が口を開く。

「それにしても、あのタクマさんがここまで丸くなるとは驚きです。きっかけはヴェルド神の指示で孤児達の保護を始めた事のようですが……今では孤児だけではなく、不遇な者も手が届く範囲で引き取り、家族として近くに置いているなんて」

 同じく日本の女神である伊耶那美命いざなみのみことだ。彼女はタクマの変化にいたく感動していた。
 ヴェルドがにっこりと微笑む。

「ええ、タクマさんはたくさんの家族を得て、本当に変わりましたね」

 三柱はタクマが人間的に成長し、伴侶はんりょを得るまでになったのを心から喜び合う。
 そうして和気藹々わきあいあいと話していると、横から低い声が響く。

「タクマが成長したのは嬉しい事だが、われがここに連れてこられる理由はなんだ?」

 鬼子母神は、声の主を冷やかすように言う。

「あら、親しい者の人生の節目を祝うのは当然じゃない。異世界に飛ばされた彼に最初の加護を与えたのはあなたでしょう? ねえ、大口真神おおくちのまがみ。加えて自分の子のヴァイスをたくす真似までして」

 大口真神は気まずそうにうなった。
 神々が集うこの白い空間には、日本の神狼であり、タクマにとって特に馴染み深い神である大口真神も来ていた。

「ぬう……確かにそうだが、あやつには我の加護で苦労をかけたのだ」

 タクマは元々もともと人間不信であったが、大口真神の加護によって人嫌いといっていいくらいに性格が変わってしまった。大口真神はその負い目から、タクマ達と再会するのを避け続けてきたのだ。
 一度くらいタクマに顔を見せてはどうか――鬼子母神と伊耶那美命は、大口真神に何度も勧めていた。それを大口真神は、かたくなにこばんできた。
 そこで今回の結婚式を機に、ついに二柱が無理矢理連れてきたというわけである。
 鬼子母神がじれったそうに言う。

「もう……何回説明したら分かるのかしら。タクマさんはあなたの加護をうらみに思ったりしてないと言ってるじゃない! そりゃ、変化に戸惑ってやりすぎてしまった事もあったけど、無関係な人間に手を出してはいないわ」

 大口真神は観念したように、深いため息を吐く。

「分かった……加護に関しては納得するとしよう。しかし、我もおぬしらの計画に加われというのはどういう事だ? 結婚式の余興よきょうというが、人間が我の姿を見たら恐れるであろう」

 なんとヴェルド達は、結婚式を眺めるだけは満足できず、式を盛り上げるために人間界で余興を披露する気でいた。しかもその余興に、大口真神も加われというのである。
 渋っている大口真神に鬼子母神が耳打ちする。

「大丈夫よ。あなたにやってもらいたいのはごく簡単な事で……」

 ひそひそ声で計画を告げられ、大口真神は気が乗らないながらも頷く。

「なるほど……その程度なら問題なさそうだ。だが、たかが余興のために、日本の神である我らがそこまでやっていいのか?」

 大口真神が尋ねると、ヴェルドは自信満々に言う。

「さすがに人間界へ降臨するのは問題なので、その点は私が調整します。そうすれば、ヴェルドミールへの影響は最小限で済むはずです」

 胸を張るヴェルドに、大口真神は一抹いちまつの不安を覚える。この世界の神が言っているのだ。本来なら大丈夫なのだろうが、嫌な予感が消えなかった。

「大口真神。ヴェルド神に任せれば大丈夫です。彼女はこの日のために準備してきたのですよ」
「うむ……そうであれば言う事はないのだが……」

 呑気な鬼子母神の言葉に、大口真神は一応相槌を打つ。しかし頭の中では考えを巡らせていた。

(鬼子母神と伊耶那美命は分かっているのか? 我らの日本の神の神格は、ヴェルドより上なのだ。余興といえど、この世界で力を使えば何か起こるはず……面倒だが、我が保険をかけておこう)

 三柱が楽しそうに語り合う傍らで、大口真神はある行動に移った。


 ◇ ◇ ◇


 湖畔を走っていたヴァイスは、とても懐かしい思念を受け取った。

(我が子ヴァイスよ、久しぶりだな。ゆっくり話したいところだが、あいにく今は時間がない。お主に急ぎの頼みがあるのだ)
(この感じは……大口真神お父さん⁉)

 ヴァイスが驚いていると、大口真神が続ける。

(そうだ。お主の父である大口真神だ。タクマの結婚式の前に、やっておきたい事がある。ヴェルド神達が問題を起こしそうなので、抑止力よくしりょくが必要なのだ。そのための力をお主に届けておいた)

 会話はそれだけで終わってしまったが、ヴァイスは大口真神から、魔力を受け取ったのを感じた。
 ヴァイスはヴェルドの顔を思い浮かべ、深くため息を吐く。

(今度は何をする気だろう? ヴェルド様ったら本当に残念な神様だなぁ……あれ? そういえば、なんで日本にいるはずの大口真神お父さんから思念が届いたんだろ? もしかして、この世界に来ているのかな? だったらいい所を見せないと!)

 ヴァイスは大口真神の役に立てるよう、気合を入れて張りきるのだった。


 家に戻ったヴァイスは、まだ支度したくをしているタクマに念話を送る。

(父ちゃん、ちょっといい?)

 それからヴァイスが、先ほど父である大口真神から指示があったと伝えると、タクマとヴァイスの間に一瞬気まずい沈黙が流れた。
 タクマは眉間を押さえながら口にする。

(全く……ヴェルド様はともかく、鬼子母神様と伊耶那美命様まで参加か……いよいよ嫌な予感しかしないな……)

 すると、ヴァイスが明るい声で言う。

(大丈夫だよ! 大口真神お父さんがついているし! それでね、ヴェルド様、鬼子母神様、伊耶那美命様の影響を抑えるために、俺にやってほしい事があるんだって)

 ヴァイスは大口真神の頼み事を、詳しくタクマに説明する。
 大口真神は、トーランに外側から結界を張りたいそうだ。そうすれば三柱が力を使いすぎても、影響をトーラン内に留められるという。

(……なるほど。直系の子供であるヴァイスを介せば、大口真神様の力で結界を張れるわけだな?)
(うん! そのためには俺がトーランを一周して準備しないといけないらしいけど……本気を出して走れば、父ちゃんの式には間に合うよ)

 しかしヴァイスは、ふと不安そうに言う。

(ただ、町に行く時はいつも父ちゃんと一緒で、俺一人では入った事がないから……結界を張り終わったあと、無事に父ちゃんの所へ行けるかな)

 タクマはヴァイスに少し待つように伝えると、アイテムボックスから遠話のカードを取り出した。
 それからタクマはカードに魔力を流す。

『タクマ殿か?』

 通話相手はコラルだ。コラルは、結婚式当日なのにタクマから連絡が来たので、不思議そうにしている。
 タクマは早速コラルに相談を持ちかける。

「すみません、朝早くに。折り入ってお話が……」

 今からヴァイスに町の周辺でやってもらう事がある。それが終わったらヴァイスだけで門から入れてもらえないか、タクマはそう頼み込んだ。なお、コラルを心配させるのを避けるため、神達の話は伏せてある。
 コラルは怪訝けげんそうに言う。

『ふむ……何をするのか聞いてもいいかな?』
「……実は、町の結界を強化するためにヴァイスが必要なんです。式が始まればすぐに何の事か分かってもらえると思うので……」

 タクマの答えを聞き、コラルは息を呑んだ。トーランの防衛にはダンジョンコアが使われており、タクマが魔力を注いでいるので、十分強固な防御力がある。それにもかかわらず更に強化すると言われたからだ。
 コラルは不安げに尋ねる。

『……タクマ殿、何か起きるのか?』
「トーランに危険が及んだり、マイナスの影響が出たりはしないはずです。ただ、が暴走しそうなので、先手を打つべきかと……あくまで念のための行動だと思っていただければ」

 タクマは隠そうとしていたが、という言い方で、コラルは勘づく。
 タクマが敬意を払い、彼と関係が深い存在といえば――タクマが加護を受けているヴェルドに違いない。

『そうか……そういう事か……分かった。町の警護達に、ヴァイスが来たらトーランの中へ通すよう伝える。それに、ヴァイスだけで町を歩いて何かあるといけない。君と面識のある者を同伴どうはんさせよう。どうだ?』
「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」

 タクマはそう言ってカードでの通話を終わらせると、再びヴァイスに念話を送る。

(ヴァイス。コラル様に話を通した。結界の準備が終わったら町の門へ行くんだ。そうしたら、コラル様の部下が迎えに来ているから、一緒に行動してもらえ)
(分かったー! じゃあ、行ってくるねー!)

 元気に返事をしたヴァイスは、すぐに体長を3mほどに変化させると、そのまま湖畔を飛び出した。そうして目にも留まらぬ速度で走りながら、これからの行動を口頭で確認する。

「アウン(えっと、大口真神お父さんの話だと……町の外周に等間隔で生えている木に、魔力を流せばいいんだっけ。それを六か所か……問題なくできるよね)」

 ヴァイスはトーランの町の外壁へやって来た。

「アウン!(さっさとお仕事を終わらせて、パレードが始まる前に食事処琥珀に行かないと!)」

 ヴァイスはすぐに六本の木を見つけ、それに大口真神に託された魔力を流していく。
 すると、木々は淡い光を放つ。光が収まると全ての葉が落ち、新たな葉が生えた。
 しかし、葉の形が元と違う。何か別のものに変質したようだ。
 そうした光景を見てヴァイスは驚いていたが、式が終わってからタクマに確認しようと考え、ひとまずトーランの町の門へ歩き出した。

「あ! ヴァイス殿!」

 門で待っていたのは、いつもコラルの屋敷で会う騎士だった。
 ヴァイスは前足を上げて挨拶する。

「アウン!(こんにちはー!)」

 騎士は深く頭を下げ、丁寧にヴァイスを迎える。

「ヴァイス殿、ご苦労様です。話はコラル様から伺いました。私が食事処琥珀まで案内します」

 こうしてヴァイスは無事にトーランの中へ入り、食事処琥珀を目指すのだった。



 6 パレード開始


 一方、タクマ達は自宅で着替えを終えたところだった。

「うーん。かっちりした格好は窮屈きゅうくつに感じるな……」

 久しぶりの正装に、タクマが呟く。
 すると、タクマの横に控えているアークスが言う。

「普段は動きやすい格好が多いので、そう感じるのかもしれませんね。ですが、正装もお似合いですよ」
「そうか? ありがとう。まあ、サイズはぴったりだから、気分の問題なんだろうな」

 それからタクマが改めて今日のスケジュールを確認していると、子供達の声が聞こえてきた。

「早く、早く。お父さんに見せてあげよう!」
「ダメだよ! 慌てたら転んじゃうでしょ!」

 そんな子供達の声とともに現れたのは、純白のドレスを身にまとった夕夏だ。
 タクマはその姿を見て息を呑み、あまりの美しさに言葉が出なくなった。
 夕夏は少しはにかみながら、タクマに声をかける。

「ど、どう? 変じゃない?」
「あ、ああ……変じゃないよ。すごく似合っている。きれいだ」

 タクマはどうにか言葉を絞り出し、口下手なりに夕夏をめる。

「ほらー。やっぱりお父さんも見惚みとれてるじゃん」
「当たり前でしょ。お母さん、とってもきれいだもん!」

 夕夏の後ろでは、子供達が嬉しそうに言い合っている。
 子供達も、服装を子供サイズのドレスやタキシードに着替え、とてもかわいらしい姿だ。

「お前達も似合っているぞ」

 タクマが子供達に言うと、照れながらも嬉しそうな笑顔になる。
 一同がお互いの格好を見てはしゃいでいると、アークスが口を開く。

「皆様、支度は整ったようですね。そろそろ移動しましょう。式の時間も迫っております」
「そうだな……じゃあ、準備はいいか?」

 タクマが夕夏と子供達に声をかける。

「ええ……大丈夫よ」
「「「「「はーい!」」」」」

 元気な返事を聞いたタクマは、早速みんなを範囲指定はんいしていし、空間跳躍で食事処琥珀へ跳んだ。
 控室の役割をする食事処琥珀には、ファリンと日本人転移者のミカが待っていた。
 二人は夕夏に笑顔で話しかける。


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